先日、ホームセンターで三百九十八円で売ってたので、試しにわが家にも“配備”してみた。そう、あの「電撃殺虫ラケット」である。たかがハエ・蚊の類を一千数百ボルトの電圧で退治しようという大げさ加減がすばらしく、“購入”などという言葉は似つかわしくない。“配備”だ、配備。むかしは日本橋くらいでしか見かけなかったものだが、最近はホームセンターで大量に売っているのだな。
ちゃんと使えるのかな、早く試してみたいものだと手ぐすね引いて待っていたら、昨夜、パソコンのディスプレイに小さな羽虫がぶち当たってきたではないか。来たきた、最初の獲物が来た、おれの家に入ってきたのがこいつの運の尽きである。
おれはラケットのメインスイッチを入れ、通電スイッチに指をかけて下段に構えた。安全のために、スイッチは二段階になっている。羽虫はふらふら飛び回っている。
いまだ! おれは通電スイッチを押しながら、軽くラケットを振った。バチッ!──ラケット面に青白い閃光が瞬き、すでに勝負はついていた。羽虫は、いや、羽虫であったろうものは、ラケットの金網に引っかかったまま微動だにしない。おれは電源を切ると、羽虫の残骸をティッシュでつまんで捨てた。
ううむ、以前から半ばジョーク商品なんじゃないかと思っていたが、こいつはいい。殺虫スプレーを部屋の中で噴射すると、臭いがなかなか抜けないし、身体にも悪いにちがいない。虫が死ぬんだから、けっして人間の健康にもよい薬品ではあるまい。
そもそも、飛び道具で毒殺するというのは、なんだか後味が悪い。二重に卑怯な気がする。虫のほうも長く苦しんで死ぬわけだから、陰惨である。一寸の虫にも三分の理。
そこへゆくと、この電撃ラケットは潔い。飛び道具でない。漢の殺虫武器である。相手の目を見ながら、脇差しのひと突きで悪を葬る中村主水のようなダンディズムすら感じられる。なに? どっちかというと、ひかる一平のような気がする? い、いやまあ、そこは気にするな。薬剤は卑怯で電撃は卑怯ではないのかという声もあろうが、電撃のほうが虫も楽に死ねるというものである。おれは化学より物理のほうが好きだ。一瞬の出来事に、虫自身もなにが起こったのかさっぱりわからないことであろう。
マジな話、乳児や幼児のいるご家庭などでは、殺虫スプレーはできるだけ使いたくないと思う。化学物質に対して過敏な反応をしてしまう体質の方もいらっしゃるであろう。そんな方々には、これ、けっこういいですよ。化学ではなく、物理で虫に対抗していただきたい。
ただし、お子様の手の届かないところに保管してくださいね。金網は三層になっていて、通電されるのは外側の二層でガードされた中心の金網だけなので、通電中にうっかり軽くラケット面に触れてしまった場合も危険でないように考慮されてはいるが、強く触れたら通電網にも触れてしまうおそれがある。子供に触らせないに越したことはない。電圧が高いだけで、電流はさほどではないと思うが、電子ライターなどの圧電着火装置の火花(数千~一万ボルト)に触れたことのある人は、あれがいかに強烈なものか身を以てご存じであろう。
おーし、今年の夏は、こいつに活躍してもらおう。おれはちょっとサドっ気があるのかもしれん。バチッ! と電撃火花が飛んだとき、なんか、すーっとした。ストレス解消にもいいグッズかもな。
もっとも、虫の後始末をしなきゃならない点は、ほかの殺虫方法と変わらない。でも、新聞紙で叩き潰すよりはましだと思う。叩き潰すと、叩き潰した面(床、壁、襖、その他)も汚れてしまうが、こいつなら、感電死した虫はラケットの網に捕えられたままになるか、そのまま下に落ちるかである。どこも汚れない。
さあ、来い、虫ども!
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