『さそり』(監督:ジョー・マ/主演:水野美紀)
「八代目さそりは、水野美紀が演るってことはずいぶん前から話題になってるが、これも期待したいねー。いやあ、おれ、水野美紀は好きだからね。彼女のクールな美貌と引き締まった肉体とアクションは端倪すべからざるものがある。水野さそりのDVDが出たら買っちゃうだろうね、たぶん」と言っていたとおり、買いましたよ、観ましたよ、水野さそり。
梶さそりの四作に通底していたサヨク臭は、当然のことながら、香港映画にはない。そういう意味では、たかが女囚ごときが国家と闘っているという悲壮感と痛快感はこの香港映画にはないわけである。それはそれでよろしかろう。むしろ、国家などというちっぽけなもの以上のものと闘っているという感じが出ている。
この監督と脚本家は、ちゃんと梶さそりをじっくり観ていて、梶さそりに対する敬意を表現しているんだなあと思わせるところがあるんだよね。「香港映画のさそりなんて、さそりじゃねー」と思っていたんだけど、このリスペクトを感じた時点で、「いいじゃん、さそりとして認めてやろう」という気になった。
梶さそりの殺しは、匕首をどてっ腹にぶちこんで相手の目を見ながらぐりぐりえぐるという、あくまで“昭和の女の殺し”なんだが、水野さそりは当然ちがう。日本刀を振り回して、自分を陥れた悪人どもを、バッサバッサと斬り倒すのである。 伝統的なさそりは真っ黒なさそりなんだが、水野さそりは、深紅やパープルのさそりだ。『BLOOD+』みたい。とにかくカッチョいい。
獄中でさそりをいたぶる、お局様的な先輩女囚には、伝統的に白石加代子を代表に、えげつないばかりの個性派女優がキャスティングされてきたわけだが、この香港さそりでは、その役回りを夏目ナナが引き受けている。いいねえ。すごい存在感だ。水野美紀は少林寺拳法の心得があるし、いろいろアクションドラマの経験もあるが、夏目ナナはまったくの素人なのに頑張っている。いいねえ、夏目ナナ。
いいだろう。梶さそりのファンとしても、これは「さそり」と認めよう。おれは、多岐川裕美、夏樹陽子、岡本夏生のさそりは観たが、それらは“さそりもどき”であって、さそりとは認めない。だが、水野美紀のさそりは、平成さそりとして評価する。いいね。
これを観ると、日本の芸能界は、水野美紀を使い損ねているんじゃないかと思いますなあ。『恋人はスナイパー』とかはよかったけど、そのほかはとてももったいない使いかたをしてるんじゃないの? 志穂美悦子の後継者は、紛れもなく水野美紀だ。
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