カテゴリー「CDの紹介」の19件の記事

2012年5月 5日 (土)

それでも好きだよ(DVD付B)(DVD付C)(指原莉乃/avex trax)

 え? なに? 結局、おまえはType-AもBもCも全部買ったのではないかって? いやまあ、そうだが、なにか文句があるか。おれは「さしこのソロデビューシングルは、Type-Aしか予約しとらん」と言っていただけであって、Type-BやType-Cは予約せずに発売後に買ったのである。初日の売上げ枚数が乃木坂46にダブルスコアで負けたというので、急遽、追加注文をすることにしただけだ。べつにブレとらん。全然、ブレとらん。「予約」という言葉の意味は、辞書を引いてもらえばわかる。はっはっは、これからおれのことを「枝野」と呼んでくれたまえ。

 まあ、指原莉乃 vs. 乃木坂46の同日発売シングル対決は、もちろんプロレスみたいなもんであって、勝っても負けても、どちらのファンにとってもおいしいし、秋元康は笑いが止まらんという仕掛けにはなっている。だいたい、さしこはそもそもがAKB48のいろもの担当なのであって、勝てば勝ったで、「ヘタレだが努力家のさしこが……」となり、負けたら負けたで、「じつに指原らしい展開」ということになるわけで、論理的に無敵なのだ。

 さて、これら3タイプのシングルの収録曲は、「それでも好きだよ」「初恋ヒルズ」の二曲は同じで、三曲めと、特典映像がタイプによって異なる。Type-Aの三曲めは「恋愛総選挙 ~指原莉乃 solo ver.~」、Type-Bは「愛しきナターシャ」、Type-Cはハロプロ好きの指原がとびきり好きだという、はるな愛――じゃない、松浦亜弥「Yeah!めっちゃホリディ」のカバーである。DVDじゃないので、乳首をいじりながら唄っているかどうかはさだかでない。いやしかし、 「Yeah!めっちゃホリディ」が存外にいいのでちょっと驚いた。やっぱり、消費者側のときに育んだ愛がハンパではないのであろう。しょこたんカバーみたいなもんだ。

 それにしても、このところの指原莉乃の快進撃にいちばん驚き戸惑っているのは、指原本人であろうと思う。ちょっと前まで、エスパー伊東“爆裂鼻風船”を渋谷の街頭でやっていたいろものアイドルだとはとても思えない。まあ、さしこなら、いまでも平気でやってくれるとは思うが。

 指原にとっては、冠番組を持てとか、さんまと渡り合えとか、フォトブックを出せとか、ソロデビューしろとか、サマンサタバサのモデルになれとか、テレビドラマで主演しろとか、そいつが映画になるのでもちろんやれとか、大分の観光大使になれとか、そういったことどもも、爆裂鼻風船とさほど変わらぬ、向こうからやってくるならありがたく受けて立とうという仕事のひとつにすぎないのだろう。きっと、あれよあれよという間に、嵐に巻き込まれているかのような感じだろうな。

 ともあれ、消費者としての愛を忘れていないさっしーには、おれは好感が持てる。いずれ指原莉乃は、放送作家かプロデューサーか、なんであれ提供側に回るタイプの才能だろうとおれも秋元康と同じように思うが、アイドルとして輝いている、いま、この瞬間を大切にしてほしいと思う。憧れのバトンを、次の世代のヘタレ少女たちに渡してくれるはずだ。

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2012年5月 2日 (水)

それでも好きだよ(DVD付A)(指原莉乃/avex trax)

 おれが指原莉乃推しであることは、このブログでもネタにしているが(twitterではもっとネタにしている)、当然のことながら、さしこのソロデビューシングルは予約して買ってしまった。

 おれの二人の姪は姉も妹もジャニヲタで、とくにHey! Say! JUMPのファンで、ほとんど同じような内容のCDやらDVDやらをことごとく買っている。ジャニーズ事務所の思うツボであり、いいカモである。こいつら、アホである。

 だが、おれの姪たちにしてみれば、今年五十になろうかというおじさんが、指原莉乃にハマっており、さしこの出演番組をいちいちチェックしているばかりか、カレンダー買ったり、フォトブック買ったり、あろうことか、ソロデビューシングルを予約までして買っているさまは、秋元の思うツボ以外のなにものでもないわけなのだ。

 おれ 「なんじゃそりゃ。また買うんか? ジャニーズは阿漕やのう。おまえら、ジャニーズの思うツボやな」

 姪ども「おっちゃんも、秋元の思うツボやけどな」

 おれ 「おれは、さしこのソロデビューシングルは、Type-Aしか予約しとらん」

 まあ、こういうのを目くそ鼻くそと言う。

 下のほうの姪は、指原莉乃と同い年であるからして、彼女にしてみれば、いいおっさんが自分と同年輩の小娘にきゃあきゃあ言うておるのが(いや、べつに、きゃあきゃあ言うてはおらんけどな)、滑稽であり、不可思議であるのだろう。

 まあ、そのへんはええやないか。これほどアイドルにハマるのは、麻丘めぐみ石野真子以来である。麻丘めぐみとか石野真子とかは、「ああ、こんなコが恋人やったらええやろなあ」みたいな感じであったが、指原莉乃は「こんなコを娘に欲しい」というハマりかたなんである。しょこたんみたいなもんだ。

 それにしても、歌はあんまりうまくないが、DVDは妙に見応えがあったな。なるほど、これで釣ろうというのだな。さらにこのデビューシングルのType-BやType-Cを買えば、さしことデートしているかのような映像が33本コンプリートできるというわけか。はっはっはっは、秋元め、その手には乗らんぞ。おニャン子に手をつけてカミさんにしてしまったおまえの陰謀にまんまとハメられてなるものか。おれはジャニーズ事務所に操られている姪どもとはちがうのだ。

 それでも好きだよ、この面白い小娘めが。

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2009年3月16日 (月)

『エッセンシャル・ベスト 麻生よう子』(麻生よう子/Sony Music Direct)

 昭和の歌姫のうち、この人ほど惜しい人もちょっといないのではなかろうか。哀しい歌が巧すぎたことが麻生よう子の不幸なのかもしれない。なんでこんなに歌唱力がある人が消えちゃったかねえ。おれはもう子供のころから「逃避行」の大ファンで、都倉俊一の最高傑作のひとつだと思っている。なあ、どう思う、半田健人? キミなら、リアルタイムで聴いていなくとも、この曲の良さをわかってくれると思うんだけどなあ。昭和だよ、昭和。

 麻生よう子のベストなら、カバーを入れるくらいなら、もっとオリジナルを入れろという意見もアマゾンの評にはあるし、それはまあそのとおりだとはおれも思うのだけれど、「ジョニィへの伝言」「別れの朝」「終着駅」などは、それはそれで、麻生よう子の声にピッタリ合った、いいカバーだとは思わないか? 「ジョニィへの伝言」はとくに秀逸だと思う。元から麻生よう子のオリジナルであってもいいくらいに、曲想と声質が合っている。

 おれは麻生よう子という歌手を忘れない。たまたま時代とのめぐり合わせが悪かっただけである。むしろ、いまなら、麻生よう子の歌唱は時代に受け容れられるのではなかろうか。七十年代の歌姫なら、中沢厚子なんかも活動を再開していることであるし、麻生よう子には、いまこそ流行やなんかを超えた次元で、みずからの個性だけを打ち出して、ふたたび唄ってほしいなあと思う。あなたの声が聴きたくてたまらない中年連中は絶対多いと思うのだ。

 甦れ、麻生よう子!



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2009年1月10日 (土)

『ハイファイ新書』(相対性理論/みらい records)

 こ、これはただごとではない。ハマってしまった。一発でハマってしまった。相対性理論はニ〇〇六年九月結成だというが、こんなユニットを一年三か月も知らなかったとは、わが身の不明を恥じる思いである。べつにおれは音楽評論家じゃないし、最新の音楽シーンなんぞちっとも追っかけてない、ただただ自分の好きなものを繰り返し聴いているだけの能天気な音楽好きにすぎないので、よく考えてみるととくに不明を恥じることもないけれども、それでも個人的には、一年三か月ぶんの人生を損したような気分である。

 昨日、iTunes Store のトップページを開いたとき、奇妙なアルバムが「トップアルバム」欄の一位に突如ランクインしてきているのに気づいた。なんじゃこりゃ? 相対性理論? 人を食った名前だな。しかし、こんな名前で活動しているユニットを、SFファンとしてはすんなり受け流すわけにもいかん。しかも、二位も同じユニットの『シフォン主義』なるEPである。インディーズがにわかにメジャーに躍り出てきているらしい。これはいっぺん試聴してみずばなるまい……。

 で、『ハイファイ新書』の一曲め「テレ東」を二十秒かそこら試聴するや否や、おれは『ハイファイ新書』と『シフォン主義』を、ぽちっ、ぽちっとやってしまっていた。つまり、おれは iTunes Store で買った(iTunes URL:相対性理論)わけなので盤(いた)は持ってないのだから、「CDの紹介」として感想を書くのは厳密にはよろしくないのではないかとも思うのであるが、そんなことはどうでもよいほど、「ええもんめっけ!」という気持ちがあまりに強いので、クローズドな mixi の日記では書かずに、こうやってここで感激を表明するのである。

 聴いたとたんにおれがなにを思ったかを嘘偽りなく言うと、「あ、Scritti Politti だ」と思ったのだった。

 どこがスクリッティ・ポリッティだよ、全然似てねーじゃねーかとツッコむ人もいるかもしれないが、おれにはそっくりに聞こえたのだからしようがない。やくしまるえつこなる、これまた人を食った本名とはとても思えぬ女性ヴォーカルの歌唱は、まるで“岩男潤子と藤本房子を足して二で割ったような声をベースに開発した初音ミク”が唄っているかのようで、その“強烈な無個性”が尋常でなく心地よい。あたかも、グリーン・ガートサイドのようだ。無個性というのはどこまで行っても無個性だが、強烈な無個性というのは透明な個性なのである。

 おれは声フェチであるから、たいていのポップスは唄い手の声でハマるのであるが、相対性理論の場合、まずその“音”にハマった。強烈な無個性を主張するヴォーカルは、ギターやベースやドラムスのカッコよさを引き立てて、まったく食わない。いやもう、ことにギターがめちゃめちゃカッコいい。

 それにしても、この国籍不明のポップさ。お笑いのジョイマン川本真琴とSF短歌の笹公人がなにかのまちがいでコラボして書いてしまったような麻薬的な“声に出して読みたい”歌詞は、なにも主張してこないのに、キラキラと耳に刺さり、頭の中でぐるぐる回って離れない。やっぱ、スクリッティ・ポリッティの『Cupid & Psyche 85』を初めて聴いたときにガツーーーンとやられた記憶に重なってしまう。まあ、こういう奇妙な感想を抱くのは、おれのようなロートルだけかもしれないけどね。

 まいったなあ。しばらくは、相対性理論にべったりになりそうだ。「地獄先生」なんて、ポリス「Don't Stand So Close to Me」の今風アンサーソングに聞こえちゃうよなあ。「バーモント・キッス」もいいなあ。納豆の賞味期限はいつだったかなあなどとふと冷蔵庫の扉を開けたりするときに、「♪わたしもうやめた~、世界征服やめた~」とか鼻歌で唄っちゃいそうだ。「品川ナンバー」もいいなあ。カラオケにあったら(そのうち入るだろうか)、いっぺん唄ってみたい。

 おれは音楽に関する専門的語彙をあまり持たないので、まるで書物であるかのように感想を表現するしかないのだが、いまはまだ、こういうものにこの時代にこのタイミングで出会った驚愕と感激に圧倒されていて、ひたすら彼らの音が醸し出す世界に淫しているだけである。

 おれ的には、'00年代のスクリッティ・ポリッティが日本に現れたってのが、掛け値なしの感想だ。もう、目が離せない。これで、二、三枚のアルバムを出すだけですぱぁ~~んと沈黙しちゃうとなおさらカッコよく、伝説化すること請け合いなのだが、もっともっと新しいのが聴きたいと思うのも、また、偽らざるところである。悩ましいなあ。

 ひとつたしかな予感がある。おれが二十年以上経ったいまでも『Cupid & Psyche 85』を聴いているように、いまから二十年経っても、おそらくこの『ハイファイ新書』を聴いているであろうということである。もう、たしかにそう思えるほどに、おれのツボにハマった。よくぞ「相対性理論」なんてユニット名にしてくれたもんだ。そうでなきゃ、知るのがもっと遅れたかもしれんからな。うぅ~む、盤も買っちゃおうかなあ……。

 それにしても、こいつら、いったいなにものだ? ポップなアウトプットのバックエンドで、ガチガチに理論武装してそうだなあ。SFで言えば、円城塔みたいな連中にちがいない。

 まあ、社会的・政治的・経済的にはろくなことがない昨今ではあるが、こういうときこそ、文化的にはめちゃくちゃ面白くなるのだ。キターーーーーーっ、この時代に生まれてよかったー!

「地獄先生」PV (※わ、洞口依子じゃんか……好みってものは、どうしてこうヘンなところで繋がってゆくかねえ……)

 



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2008年8月12日 (火)

『floating pupa』(pupa/EMI Music Japan)

 高橋幸宏原田知世高野寛高田漣堀江博久権藤知彦によるユニット pupa のファーストアルバム。え? どうせおまえは原田知世目当てだろうって? いや、たしかにそうだけどさ、おれは高橋幸宏も好きなんだよ。サディスティック・ミカ・バンドも好きだしさ。今風の木村カエラちゃんも好きだけどさ、おれはやっぱりSMBと言えば桐島かれんの世代なのよのさ。そんな八〇年代には、知世ちゃんはまだひっくり返った声で主演映画の主題歌を唄う初々しいだけのアイドルであって、よもやその後独自の世界を確立するミュージシャンに大成しようとは、当時のおれには神ならぬ身の知る由もないのであった。

 そんなわけで、高橋幸宏が原田知世と組むと聞いたときには仰天した。と同時に、高橋幸宏のセンスのよさに唸った。原田知世に白羽の矢を立てたかー。二十数年前のおれに、将来、高橋幸宏と原田知世がユニットを作るんだよなどと教えてやっても、絶対信じないよな。

 pupa の音楽はとにかく品がいい。押しつけがましくない。じっくり聴くと、なるほどあちこちに職人気質が迸っているのだけれども、BGMとして流していると、とにかく品がよくて耳障りでない。不思議な浮遊感がある。原田知世という人は、こういうふわふわした感じに持ってこいなのである。かといって、知世ちゃん、いや、知世さんは、ヴォーカルばかりで活躍しているわけではないのだ。エレクトリック・バグパイプなる楽器で、演奏も聴かせてくれる。

 灰汁がなさすぎてもの足りないという声もありましょうが、なんちゅうか、意地汚い主張がなくてよろしいなあ。原田知世の声はとにかくうるさくなくていい。BLENDYやなあ。案外、いそうでいないんだよねえ、原田知世みたいなヴォーカルって。

 ともあれ、SFファン的には、『さなぎ』ってネーミングがいいよねえ。べつにSFとは関係なくて、高橋幸宏が近年フライフィッシングに凝ってるからこういう名前になったそうなんだが……。



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2008年6月23日 (月)

『親愛なる君へ』(柴田淳/ビクターエンタテインメント)

 『月夜の雨』から一年以上を経た待望のニューアルバム。柴田淳のような人は、一年に一アルバムくらいのペースがちょうどいいと思うね。粗製濫造してほしくない。あいかわらず、押しつけがましくない、身体にすっと入ってくる心地よい声である。ジャケット(って言うのは年寄りか。最近は“カバーアート”って言うのかな?)写真の腕が怖ろしくきれいだ。いやまあ、ルックスと音楽は切り離して考えねばならないが、そりゃまあ、きれいに越したことはない。ええ、どうせおれはオヤジですよ。

 全体的な印象を言うと、柴田淳的“安全牌”の曲が多いように思う。“いつものしばじゅん”を楽しむぶんにはなんの文句もない。それどころか、あの絶妙にかすれた儚げなファルセットを“聴かせびらかして”くれるような曲が多いくらいであり、「今回は、サービスはしてくれたが、あまり冒険はしなかったな」という感じ。固定ファン層を磐石にしようという製作意図なんだろう。そういう意味で、おれにはちょっともの足りない感じがした。柴田淳ほどの才能と声の持ち主であれば、もっと冒険してもいいのではないか。おれが今回のアルバムでいちばん気に入ったのは、もろにジャジーな曲に挑戦した「メロディ」なのである。“いつものしばじゅん”も聴きたいが、新しい面も見せてほしい。ファンとは貪欲なものなのだ。

 おれ的には、このアルバムのベストは、上述の「メロディ」、映画『おろち』の主題歌に決定した「愛をする人」、シングルカットされている「カラフル」、ピアノに合うしばじゅんの持ち味を活かした「小鳥と風」、堂々たるいつものしばじゅん節「君へ」といったところか。

 次回のアルバムでは、もっと冒険して、びっくり仰天させてほしいな。ジャズ路線というのはとてもいいと思うので、ジャズ・スタンダードとかにも挑んでほしい。《つまおうじ》シリーズ的なコミカルな実力派路線でアニソンなんかもやってほしいなあ。映画主題歌のオファーがあるくらいなんだから、アニメ製作者ももっとしばじゅんのあけっぴろげでコミカルな面に注目すべきだと思う。『ときめきトゥナイト』並みのアニソンの名曲が、しばじゅんになら楽勝で作れるし、唄えるだろうと想像するんだがなあ。

【収録曲】カラフル/椿/愛をする人/メロディ/38.0℃ ~piano solo~/君へ/十数えて/ふたり/泣いていい日まで/小鳥と風



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2008年5月 8日 (木)

『A Long and Winding Road』(Maureen McGovern/P.S. Classics)

 押しも押されぬ“ストラディヴァリウス・ヴォイス”モーリン・マクガヴァンの懐メロカバーアルバム。六〇年代から七〇年代にかけてヒットした、アメリカ人なら誰でも知っているようなオヤジ世代の青春の名曲を、モーリン・マクガヴァンが非の打ちどころのない歌唱力で聴かせてくれる。アレンジもグー、グ、グーな大人の一枚である。

 その歌唱力がジャンルを選ばないというか、その人が歌うとジャンルのほうに箔が付くくらいの、シンガーにとっての“大自在の境地”というのは、アメリカならモーリン・マクガヴァンのために、わが国なら美空ひばりのためにあるような言葉で、いや、このアルバムでまたまたモーリン・マクガヴァンに惚れ込んじゃいましたねえ。

 ジョニ・ミッチェルジミー・ウェッブローラ・ニーロボブ・ディランポール・サイモンといったラインナップは、じつのところ、おれの世代ではあとから追いかけた古典であって、リアルタイムの思い出に刻まれているわけではないのだ。ジョン・レノンポール・マッカートニーくらいになると、自分史のアルバムにBGMとして流れてくるけどね。とはいえ、どの曲も、洋楽ファンならどこかで聴いたことがあるようなものばかり。SFファン的には、The Moon's a Harsh Mistress なんてのも楽しい。曲のほうをハインラインの小説のあとに知りましたけどね。

 おれはたぶん、歳のわりには、自分にとってのリアルタイム以前の洋楽懐メロを意識的に聴いているほうだと思うから(カーペンターズ小林克也のおかげだ)、モーリン・マクガヴァンの声で懐メロが聴けるこのアルバムにはゴキゲンなのだが、本来は、日本に於ける“団塊の世代”にとってこそ、このアルバムの選曲はストライクゾーンなのだと思う。

 いやしかし、モーリン・マクガヴァンという歌手はすばらしいですなあ。たいていの歌手は、“おいしい”音域とあまり得意でない音域があるもんだが、モーリンにそんなものはない。どの音域も完璧。ストラディヴァリウスと讃えられるゆえんである。むかしのフォーク風から、堂々たるバラード、遊び心たっぷりのジャジーなアレンジまで、それが“歌”であるかぎり唄えないジャンルはないのではないかと思う。ビートルズ・ナンバーの Rocky Raccoon は、とくにすごかった。

 若い人にはピンと来ないとは思うが(でも、いいもんは年齢に関係なくわかる)、四十代後半以上の洋楽ファンには、涙がちょちょ切れるアルバムでしょう。それにしても、日本のレコード会社は、なんでこういうのを出さないのかねえ。これからの時代は、音楽産業もおじさん・おばさん、爺さん・婆さんがターゲットなんじゃないの?

【収録曲】All I Want/America, The Times They Are a-Changin', The Circle Game, The 59th Street Bridge Song (Feeling Groovy), Cowboy, The Coming of the Roads, Will You Still Love Me Tommorow?, Shed a Little Light/Carry It On, The Fiddle and the Drum, Fire and Rain, Rocky Raccoon, Let It Be, By the Time I Get to the Phoenix, MacArthur Park, The Moon's a Harsh Mistress, And When I Die, Imagine, The Long and Winding Road



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2007年12月23日 (日)

『もうひとつの未来 ~ starry spirits ~』(森口博子/キングレコード)

 すばらしい。森口博子ここにありである。ただただ、すばらしい。ゲームのテレビCMで「おおお!」と思い、ウェブでPVを観て鳥肌が立ち、あわててCDを注文した。

 ゲームソフト「SDガンダム Gジェネレーションスピリッツ」(PS2)のテーマソングなわけだが、おれはゲームにもガンダムにもあんまり思い入れはない。だが、実力のわりにメディアでの露出が少なく、あまりに過小評価されている歌手・森口博子には思い入れがあるのである。個人的に顔やキャラが好みであるという点はこの際置いておくとしてもだ、この「もうひとつの未来 ~ starry spirits ~」はすばらしい。元祖バラドルとしてのイメージしかない人々、アニソン歌手として一段下に見ている人々、とんでもない、こいつを聴いて、水をぶっかけられていただきたい。すごいポピュラーシンガーがここにいるのですぜ。

 森口博子の不幸は、そのストレートな天性の歌唱力にあるだろう。つまり、むかしは歳のわりにあまりに巧すぎたのだ。巧いことは文句なく巧いのだが、なんとなく、こましゃくれた(って言葉を大人に使うのも妙だが)感じがした。また、頭がよすぎるため、歌手としての才能以外の部分が評価されすぎた。レコード会社の力があんまりないうえに、宣伝が下手ということもあるだろう。ここへ来てようやく、年齢による蓄積が生まれ持った抜群の歌唱力に追いついてきたという感じだ。才能と技巧と表現力が絶妙のバランスを見せるところにきた森口博子は、これからがすごいぞ。アニソンという“ジャンル歌謡”を歌手としてどこまでも誠実に唄うことに誇りを持った森口博子は、それがゆえにこの曲でアニソンの枠を突き破って普遍に至った。ゲームもアニメもガンダムもまったく知らない人がこの曲を聴いても、「いい歌だなあ、巧い歌手だなあ」と思うはずである。そういう人がもしあなたのまわりにいたら、森口博子だということを伏せてこいつを聴かせてあげていただきたい。「ええーっ! 森口博子ってすごいんだー」と認識を改めるはずである。

 四十代、五十代の森口博子は、根強いファンが根強く支持する大御所として日本の歌謡界に君臨することになるのではあるまいか。そうだなあ、おれたちの若いころで言えば、伊東ゆかりみたいな存在になるんじゃないかなあ。

森口博子:ガンダムソングで歌手復活 「もうひとつの未来」で12年ぶりオリコン30位入り (毎日.jp)
http://mainichi.jp/enta/mantan/news/20071205mog00m200064000c.html

「SDガンダム ジージェネレーション スピリッツ」主題歌「もうひとつの未来 ~starry spirits~」を唄う森口博子さんにインタビュー (GAME Watch)
http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20070924/mori.htm


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2007年12月 8日 (土)

『music & me』(原田知世/ヒップランドミュージックコーポレーション)

 原田知世のデビュー二十五周年記念アルバム。知世ちゃんがもう四十とは、まったく月日の経つのは早いものである。ちなみに、原田知世と岡田有希子は同い年だ。つまり、岡田有希子も、生きていれば今年四十歳の誕生日を迎えたはずなのである。合掌。

 それはともかく、知世ちゃんである。若い人から見れば、四十五のおっさんが四十のおばはんを捉まえて“知世ちゃん”などと言うておるのは気色悪いことでありましょうが、おれたちの世代にとっては、知世ちゃんは永遠に知世ちゃんなのである。タモリなどの“サユリスト”の気持ちがわかるのはこういうときだ。いつも青春は時をかける。いいじゃないか、原田知世さんは、おれたちにとっては、ずっと“知世ちゃん”なのである。

 いや、それにしても、知世さんはいい歌手になった。声がでんぐり返っていた十代のころが嘘のようだ。どんな歌でも唄えるすごい歌手になったという意味ではない。原田知世の最もおいしい音域、最もおいしさを発揮する楽曲というものがあるのである。そういう楽曲をうまく選曲すると、歌手・原田知世は、他の追随を許さない“心地よさ”を発揮する。肩の力の抜けた天性のヴォーカルを聴かせてくれる。自分が天才でないことは本人がいちばんよく知っているにちがいなく、原田知世はけっして“歌が巧い”ことをめざしているわけではないことは、彼女の声のファンはよくわかっていると思うのだ。知世ちゃんがめざしているのは、“等身大の原田知世”の力まない歌唱であって、それを愛してくれるファンにはわかる“心地よい等身大の歌唱”なのである。

 原田知世の声は天性のものである。ナレーションの仕事で認知されているように、聴く者の肩の力を抜く不思議な魅力がある。原田知世の歌が好きな人は、われを忘れて聴き惚れ、涙が溢れてくるような熱唱を期待しているのではない。土曜の午後、陽だまりにテーブルなど持ち出してお気に入りのコーヒー(ブレンディかどうかはわからんが)を飲みながら、あたりまえの日常があたりまえに過ぎてゆくことのしあわせを味わう、ふつうの人のふつうの人生のBGMとして、無性に聴きたくなるような声なのである。それを本人もめざしているであろうし、彼女の声を愛するアーティストたちもわかっていてプロデュースするのだろう。

 ビートルズのカバー「I Will」「シンシア」「ノスタルジア」「くちなしの丘」は、とくに土曜の午後のコーヒータイムにおすすめ。セルフカバー「時をかける少女」“肩の力の抜け具合”は、往年のファンには涙、涙でありましょう。みんな、あれからいろいろあった。ほんとにいろいろあったよね。

 ♪過去も未来も 星座も越えるから 抱きとめて


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2007年11月26日 (月)

『歌さがし ~リクエストカバーアルバム~』(夏川りみ/ビクターエンタテインメント/初回限定盤)

 夏川りみというのは不思議な歌手で、「この人の声であの歌を聴きたい」と思わせる。このアルバムときたら、その願望を十二分に満たしてくれる永久保存愛聴盤だ。そりゃもう、ラインナップがすごいぞ。「時代」(作詞・作曲:中島みゆき)、「花咲く旅路」(作詞・作曲:桑田佳祐)、「秋桜」(作詞・作曲:さだまさし)、「さくら(独唱)」(作詞:森山直太朗、御徒町凧/作曲:森山直太朗)、「忘れてはいけないもの」(作詞・作曲:小渕健太郎)、「こころ」(作詞:キム・ドンミョン/訳詞:キム・ソウン/作曲:沢知恵)、「なごり雪」(作詞・作曲:伊勢正三)、「キセキノハナ」(作詞:Lyrico/作曲:Senoo)、「蘇州夜曲」(作詞:西條八十/作曲:服部良一)、「少年時代」(作詞:井上陽水/作曲:井上陽水・平井夏美)、「‘S Wonderful」(作詞:IRA GERSHWIN/作曲:GEORGE GERSHWIN)、「見上げてごらん夜の星を」(作詞:永六輔/作曲:いずみたく)、「小さな恋のうた」(作詞:上江洌清作/作曲:MONGOL800)、「デンサー節」(八重山民謡)、「花 ~Live at 浜離宮朝日ホール~」(作詞・作曲:喜納昌吉/※初回盤ボーナストラック)ときたもんだ。日本の“歌謡曲”(“J-POP”ではない)の至宝が、夏川りみの声で聴ける。ただただすばらしい。

 個人的には「時代」「秋桜」「なごり雪」「蘇州夜曲」が最高ですなー。「時代」なんかは涙なしには聴けまへん。これぞ“歌謡曲”、それこそ時代を超えて、誰もが口ずさめるスタンダード曲を、最高の歌唱で聴かせる。

 このアルバム、CD版と iTunes Store の配信版(iTunes Store URL)とでは、一曲だけ異なっていて、CD版のボーナストラック「花」のライブは、iTunes Store 版では「涙そうそう」のライブになっている。CDを買って、「涙そうそう」ライブ版だけ iTunes Store で買うのがお薦め。

 ありきたりな感想だろうとは思うが、この人の声ってのは、ホント、日本の“歌謡曲”の至宝だね。艶があり、逞しく、可愛らしい。「涙そうそう」が当たりすぎたせいか、沖縄の歌手のイメージがつきまといすぎだが、このアルバムは、夏川りみの“沖縄歌手”的イメージをいい意味で打ち砕く幅の広い味を存分に聴かせてくれる。いやもうね、嬉しくて、最近こればっかり聴いてるのよ。これ聴いちゃうと、あれもこれもどれもそれも、夏川りみの声で聴きたいと思えてくる。Time After Time を夏川りみの声で聴きたい。Yesterday Once More を夏川りみの声で聴きたい。「上を向いて歩こう」を夏川りみの声で聴きたい。「襟裳岬」を夏川りみの声で聴きたい。「川の流れのように」を夏川りみの声で聴きたい。♪とーれとれ、ぴーちぴち、蟹料理~を夏川りみの声で聴きたい。もう、なんでもいいから夏川りみの声で聴きたい! 今後も、しょこたんみたいに、どんどんカバーアルバムを出してほしいね。アニソンはしょこたん、“歌謡曲”は夏川りみである。



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