カテゴリー「CDの紹介」の14件の記事

2008年6月23日 (月)

『親愛なる君へ』(柴田淳/ビクターエンタテインメント)

 『月夜の雨』から一年以上を経た待望のニューアルバム。柴田淳のような人は、一年に一アルバムくらいのペースがちょうどいいと思うね。粗製濫造してほしくない。あいかわらず、押しつけがましくない、身体にすっと入ってくる心地よい声である。ジャケット(って言うのは年寄りか。最近は“カバーアート”って言うのかな?)写真の腕が怖ろしくきれいだ。いやまあ、ルックスと音楽は切り離して考えねばならないが、そりゃまあ、きれいに越したことはない。ええ、どうせおれはオヤジですよ。

 全体的な印象を言うと、柴田淳的“安全牌”の曲が多いように思う。“いつものしばじゅん”を楽しむぶんにはなんの文句もない。それどころか、あの絶妙にかすれた儚げなファルセットを“聴かせびらかして”くれるような曲が多いくらいであり、「今回は、サービスはしてくれたが、あまり冒険はしなかったな」という感じ。固定ファン層を磐石にしようという製作意図なんだろう。そういう意味で、おれにはちょっともの足りない感じがした。柴田淳ほどの才能と声の持ち主であれば、もっと冒険してもいいのではないか。おれが今回のアルバムでいちばん気に入ったのは、もろにジャジーな曲に挑戦した「メロディ」なのである。“いつものしばじゅん”も聴きたいが、新しい面も見せてほしい。ファンとは貪欲なものなのだ。

 おれ的には、このアルバムのベストは、上述の「メロディ」、映画『おろち』の主題歌に決定した「愛をする人」、シングルカットされている「カラフル」、ピアノに合うしばじゅんの持ち味を活かした「小鳥と風」、堂々たるいつものしばじゅん節「君へ」といったところか。

 次回のアルバムでは、もっと冒険して、びっくり仰天させてほしいな。ジャズ路線というのはとてもいいと思うので、ジャズ・スタンダードとかにも挑んでほしい。《つまおうじ》シリーズ的なコミカルな実力派路線でアニソンなんかもやってほしいなあ。映画主題歌のオファーがあるくらいなんだから、アニメ製作者ももっとしばじゅんのあけっぴろげでコミカルな面に注目すべきだと思う。『ときめきトゥナイト』並みのアニソンの名曲が、しばじゅんになら楽勝で作れるし、唄えるだろうと想像するんだがなあ。

【収録曲】カラフル/椿/愛をする人/メロディ/38.0℃ ~piano solo~/君へ/十数えて/ふたり/泣いていい日まで/小鳥と風



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2008年5月 8日 (木)

『A Long and Winding Road』(Maureen McGovern/P.S. Classics)

 押しも押されぬ“ストラディヴァリウス・ヴォイス”モーリン・マクガヴァンの懐メロカバーアルバム。六○年代から七○年代にかけてヒットした、アメリカ人なら誰でも知っているようなオヤジ世代の青春の名曲を、モーリン・マクガヴァンが非の打ちどころのない歌唱力で聴かせてくれる。アレンジもグー、グ、グーな大人の一枚である。

 その歌唱力がジャンルを選ばないというか、その人が歌うとジャンルのほうに箔が付くくらいの、シンガーにとっての“大自在の境地”というのは、アメリカならモーリン・マクガヴァンのために、わが国なら美空ひばりのためにあるような言葉で、いや、このアルバムでまたまたモーリン・マクガヴァンに惚れ込んじゃいましたねえ。

 ジョニ・ミッチェルジミー・ウェッブローラ・ニーロボブ・ディランポール・サイモンといったラインナップは、じつのところ、おれの世代ではあとから追いかけた古典であって、リアルタイムの思い出に刻まれているわけではないのだ。ジョン・レノンポール・マッカートニーくらいになると、自分史のアルバムにBGMとして流れてくるけどね。とはいえ、どの曲も、洋楽ファンならどこかで聴いたことがあるようなものばかり。SFファン的には、The Moon's a Harsh Mistress なんてのも楽しい。曲のほうをハインラインの小説のあとに知りましたけどね。

 おれはたぶん、歳のわりには、自分にとってのリアルタイム以前の洋楽懐メロを意識的に聴いているほうだと思うから(カーペンターズ小林克也のおかげだ)、モーリン・マクガヴァンの声で懐メロが聴けるこのアルバムにはゴキゲンなのだが、本来は、日本に於ける“団塊の世代”にとってこそ、このアルバムの選曲はストライクゾーンなのだと思う。

 いやしかし、モーリン・マクガヴァンという歌手はすばらしいですなあ。たいていの歌手は、“おいしい”音域とあまり得意でない音域があるもんだが、モーリンにそんなものはない。どの音域も完璧。ストラディヴァリウスと讃えられるゆえんである。むかしのフォーク風から、堂々たるバラード、遊び心たっぷりのジャジーなアレンジまで、それが“歌”であるかぎり唄えないジャンルはないのではないかと思う。ビートルズ・ナンバーの Rocky Raccoon は、とくにすごかった。

 若い人にはピンと来ないとは思うが(でも、いいもんは年齢に関係なくわかる)、四十代後半以上の洋楽ファンには、涙がちょちょ切れるアルバムでしょう。それにしても、日本のレコード会社は、なんでこういうのを出さないのかねえ。これからの時代は、音楽産業もおじさん・おばさん、爺さん・婆さんがターゲットなんじゃないの?

【収録曲】All I Want/America, The Times They Are a-Changin', The Circle Game, The 59th Street Bridge Song (Feeling Groovy), Cowboy, The Coming of the Roads, Will You Still Love Me Tommorow?, Shed a Little Light/Carry It On, The Fiddle and the Drum, Fire and Rain, Rocky Raccoon, Let It Be, By the Time I Get to the Phoenix, MacArthur Park, The Moon's a Harsh Mistress, And When I Die, Imagine, The Long and Winding Road



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2007年12月23日 (日)

『もうひとつの未来 ~ starry spirits ~』(森口博子/キングレコード)

 すばらしい。森口博子ここにありである。ただただ、すばらしい。ゲームのテレビCMで「おおお!」と思い、ウェブでPVを観て鳥肌が立ち、あわててCDを注文した。

 ゲームソフト「SDガンダム Gジェネレーションスピリッツ」(PS2)のテーマソングなわけだが、おれはゲームにもガンダムにもあんまり思い入れはない。だが、実力のわりにメディアでの露出が少なく、あまりに過小評価されている歌手・森口博子には思い入れがあるのである。個人的に顔やキャラが好みであるという点はこの際置いておくとしてもだ、この「もうひとつの未来 ~ starry spirits ~」はすばらしい。元祖バラドルとしてのイメージしかない人々、アニソン歌手として一段下に見ている人々、とんでもない、こいつを聴いて、水をぶっかけられていただきたい。すごいポピュラーシンガーがここにいるのですぜ。

 森口博子の不幸は、そのストレートな天性の歌唱力にあるだろう。つまり、むかしは歳のわりにあまりに巧すぎたのだ。巧いことは文句なく巧いのだが、なんとなく、こましゃくれた(って言葉を大人に使うのも妙だが)感じがした。また、頭がよすぎるため、歌手としての才能以外の部分が評価されすぎた。レコード会社の力があんまりないうえに、宣伝が下手ということもあるだろう。ここへ来てようやく、年齢による蓄積が生まれ持った抜群の歌唱力に追いついてきたという感じだ。才能と技巧と表現力が絶妙のバランスを見せるところにきた森口博子は、これからがすごいぞ。アニソンという“ジャンル歌謡”を歌手としてどこまでも誠実に唄うことに誇りを持った森口博子は、それがゆえにこの曲でアニソンの枠を突き破って普遍に至った。ゲームもアニメもガンダムもまったく知らない人がこの曲を聴いても、「いい歌だなあ、巧い歌手だなあ」と思うはずである。そういう人がもしあなたのまわりにいたら、森口博子だということを伏せてこいつを聴かせてあげていただきたい。「ええーっ! 森口博子ってすごいんだー」と認識を改めるはずである。

 四十代、五十代の森口博子は、根強いファンが根強く支持する大御所として日本の歌謡界に君臨することになるのではあるまいか。そうだなあ、おれたちの若いころで言えば、伊東ゆかりみたいな存在になるんじゃないかなあ。


森口博子:ガンダムソングで歌手復活 「もうひとつの未来」で12年ぶりオリコン30位入り (毎日.jp)
http://mainichi.jp/enta/mantan/news/20071205mog00m200064000c.html

「SDガンダム ジージェネレーション スピリッツ」主題歌「もうひとつの未来 ~starry spirits~」を唄う森口博子さんにインタビュー (GAME Watch)
http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20070924/mori.htm

森口博子PV   もうひとつの未来 ~ starry spirits ~

森口博子アニメメドレー/キューティーハニー/エースをねらえ/ははうえさま/草原のマルコ/ETERNAL WIND ~ ほほえみは光る風の中 ~



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2007年12月 8日 (土)

『music & me』(原田知世/ヒップランドミュージックコーポレーション)

 原田知世のデビュー二十五周年記念アルバム。知世ちゃんがもう四十とは、まったく月日の経つのは早いものである。ちなみに、原田知世と岡田有希子は同い年だ。つまり、岡田有希子も、生きていれば今年四十歳の誕生日を迎えたはずなのである。合掌。

 それはともかく、知世ちゃんである。若い人から見れば、四十五のおっさんが四十のおばはんを捉まえて“知世ちゃん”などと言うておるのは気色悪いことでありましょうが、おれたちの世代にとっては、知世ちゃんは永遠に知世ちゃんなのである。タモリなどの“サユリスト”の気持ちがわかるのはこういうときだ。いつも青春は時をかける。いいじゃないか、原田知世さんは、おれたちにとっては、ずっと“知世ちゃん”なのである。

 いや、それにしても、知世さんはいい歌手になった。声がでんぐり返っていた十代のころが嘘のようだ。どんな歌でも唄えるすごい歌手になったという意味ではない。原田知世の最もおいしい音域、最もおいしさを発揮する楽曲というものがあるのである。そういう楽曲をうまく選曲すると、歌手・原田知世は、他の追随を許さない“心地よさ”を発揮する。肩の力の抜けた天性のヴォーカルを聴かせてくれる。自分が天才でないことは本人がいちばんよく知っているにちがいなく、原田知世はけっして“歌が巧い”ことをめざしているわけではないことは、彼女の声のファンはよくわかっていると思うのだ。知世ちゃんがめざしているのは、“等身大の原田知世”の力まない歌唱であって、それを愛してくれるファンにはわかる“心地よい等身大の歌唱”なのである。

 原田知世の声は天性のものである。ナレーションの仕事で認知されているように、聴く者の肩の力を抜く不思議な魅力がある。原田知世の歌が好きな人は、われを忘れて聴き惚れ、涙が溢れてくるような熱唱を期待しているのではない。土曜の午後、陽だまりにテーブルなど持ち出してお気に入りのコーヒー(ブレンディかどうかはわからんが)を飲みながら、あたりまえの日常があたりまえに過ぎてゆくことのしあわせを味わう、ふつうの人のふつうの人生のBGMとして、無性に聴きたくなるような声なのである。それを本人もめざしているであろうし、彼女の声を愛するアーティストたちもわかっていてプロデュースするのだろう。

 ビートルズのカバー「I Will」「シンシア」「ノスタルジア」「くちなしの丘」は、とくに土曜の午後のコーヒータイムにおすすめ。セルフカバー「時をかける少女」“肩の力の抜け具合”は、往年のファンには涙、涙でありましょう。みんな、あれからいろいろあった。ほんとにいろいろあったよね。

 ♪過去も未来も 星座も越えるから 抱きとめて


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2007年11月26日 (月)

『歌さがし ~リクエストカバーアルバム~』(夏川りみ/ビクターエンタテインメント/初回限定盤)

 夏川りみというのは不思議な歌手で、「この人の声であの歌を聴きたい」と思わせる。このアルバムときたら、その願望を十二分に満たしてくれる永久保存愛聴盤だ。そりゃもう、ラインナップがすごいぞ。「時代」(作詞・作曲:中島みゆき)、「花咲く旅路」(作詞・作曲:桑田佳祐)、「秋桜」(作詞・作曲:さだまさし)、「さくら(独唱)」(作詞:森山直太朗、御徒町凧/作曲:森山直太朗)、「忘れてはいけないもの」(作詞・作曲:小渕健太郎)、「こころ」(作詞:キム・ドンミョン/訳詞:キム・ソウン/作曲:沢知恵)、「なごり雪」(作詞・作曲:伊勢正三)、「キセキノハナ」(作詞:Lyrico/作曲:Senoo)、「蘇州夜曲」(作詞:西條八十/作曲:服部良一)、「少年時代」(作詞:井上陽水/作曲:井上陽水・平井夏美)、「‘S Wonderful」(作詞:IRA GERSHWIN/作曲:GEORGE GERSHWIN)、「見上げてごらん夜の星を」(作詞:永六輔/作曲:いずみたく)、「小さな恋のうた」(作詞:上江洌清作/作曲:MONGOL800)、「デンサー節」(八重山民謡)、「花 ~Live at 浜離宮朝日ホール~」(作詞・作曲:喜納昌吉/※初回盤ボーナストラック)ときたもんだ。日本の“歌謡曲”(“J-POP”ではない)の至宝が、夏川りみの声で聴ける。ただただすばらしい。

 個人的には「時代」「秋桜」「なごり雪」「蘇州夜曲」が最高ですなー。「時代」なんかは涙なしには聴けまへん。これぞ“歌謡曲”、それこそ時代を超えて、誰もが口ずさめるスタンダード曲を、最高の歌唱で聴かせる。

 このアルバム、CD版と iTunes Store の配信版(iTunes Store URL)とでは、一曲だけ異なっていて、CD版のボーナストラック「花」のライブは、iTunes Store 版では「涙そうそう」のライブになっている。CDを買って、「涙そうそう」ライブ版だけ iTunes Store で買うのがお薦め。

 ありきたりな感想だろうとは思うが、この人の声ってのは、ホント、日本の“歌謡曲”の至宝だね。艶があり、逞しく、可愛らしい。「涙そうそう」が当たりすぎたせいか、沖縄の歌手のイメージがつきまといすぎだが、このアルバムは、夏川りみの“沖縄歌手”的イメージをいい意味で打ち砕く幅の広い味を存分に聴かせてくれる。いやもうね、嬉しくて、最近こればっかり聴いてるのよ。これ聴いちゃうと、あれもこれもどれもそれも、夏川りみの声で聴きたいと思えてくる。Time After Time を夏川りみの声で聴きたい。Yesterday Once More を夏川りみの声で聴きたい。「上を向いて歩こう」を夏川りみの声で聴きたい。「襟裳岬」を夏川りみの声で聴きたい。「川の流れのように」を夏川りみの声で聴きたい。♪とーれとれ、ぴーちぴち、蟹料理~を夏川りみの声で聴きたい。もう、なんでもいいから夏川りみの声で聴きたい! 今後も、しょこたんみたいに、どんどんカバーアルバムを出してほしいね。アニソンはしょこたん、“歌謡曲”は夏川りみである。



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2007年10月10日 (水)

『しょこたん☆かばー×2 ~アニソンに愛を込めて!!~(DVD付)』(中川翔子/ソニーミュージックエンタテインメント)

 第一弾にいたく感心したので、おじさんはやっぱり買ってしまいましたよ。

 さーて、第二弾は、「1/2」(『るろうに剣心』)、「輪舞 -REVOLUTION」(『少女革命ウテナ』)、「Catch You Catch Me」(『カードキャプターさくら』)、「テレポーテーション-恋の未確認」(『エスパー魔美』)、「ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~」(『機動戦士ガンダムF91』)の五本でお送りしまちゅ。第一弾は比較的メジャーなアニソンで勝負したこともあってか、第二弾はえらくマニアックなラインナップである。いーじゃん、いーじゃん、すげーじゃん! 残念ながら、おれが投票した(したんだよ)「わぴこ元気予報!」(『きんぎょ注意報!』)は入らなかったけどな。第三弾に期待しよう。

 「1/2」は、はっきり言って、川本真琴より歌はうまい。おれは川本真琴も好きなんだが、川本の場合は、あのワン・アンド・オンリーの個性と特異な声で魅了しているのであって、「どっちが歌がうまいか」と問われれば、おれはしょこたんに軍配を上げる。「どっちが好きか」と問われれば、川本版「1/2」のほうが好きだけどね。いやしかし、歌手としてのしょこたんをおれは充分評価しているつもりだったが、まだ甘く見ていたようだ。すまん、しょこたん。

  「Catch You Catch Me」なんかも、どう聴いてもめちゃくちゃ難しい曲なのに、日向めぐみに迫る歌唱力を発揮している。むしろ、広瀬香美テイストをうまく活かしているのはしょこたんのほうかもしれない。 「ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~」も森口博子よりうまい……なんてことはさすがにないが、かなりいい線は行っていると思う。

 しょこたん、おそるべし。このコは、単なるオタクタレントでは終わらないだろう。ギガント感嘆。



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2007年6月 4日 (月)

『ツキアカリ』(Rie fu/パームビーチ)

 おれがいま毎回観ているアニメの中でいちばん気に入っているのが『DARKER THAN BLACK 黒の契約者』なんだけれども(“いちばん優れていると思う”となると、『電脳コイル』に軍配を上げるけど、おれはなにかにつけて判官贔屓なのだ)、アニメの内容は横に置いておくとしてだ、初回を観たときガツンとやられましたな、このエンディング曲「ツキアカリ」に。「CDが出たら買っちゃうだろうな」とは思っていたが、やっぱり買っちゃいましたわ。

 この Rie fu って人、二○○四年にデビューしてけっこうファンもついているらしいので、単におれが知らなかっただけなんだが、いや、いいねえ。おれはまあ、なんちゅうか、音楽ファンというよりは一介の“声フェチ”なもんで、基本的に音楽情報に疎いわけなのだが、今回ばかりは声フェチとしての不明を恥じましたな。こんな人を知らなかったとは、疎いにもほどがある。

 この「ツキアカリ」を聴いて最初に感じたのは、“七○年代の歌謡曲みたいな懐かしさ”である。声からすると、そんなに年食った歌手だとは思えないので、『DARKER THAN BLACK 黒の契約者』の擬似レトロなモチーフに合わせて年配の作曲家が作ったのかなあとも思ったんだが、Rie fu の公式サイトのプロフィールを見て、その若さに驚くと同時に合点がいった。そうですか、子供のころアメリカにいて、七○年代ポップスにどっぷり浸かって過ごしましたか(そのときはもう、九○年代なのに)。カーペンターズの影響をもろに受けているとなれば、そりゃおれのアンテナが反応するはずだよ。もっとも、おれが「ツキアカリ」に感じた懐かしさは、アメリカンポップスというより、日本の七○年代歌謡的な匂いだったんだけどね。Rie fu という日本人のフィルターを通って出てきた七○年代アメリカンポップスの薫りが、ちょうどおれくらいの年齢の人間には、日本の七○年代歌謡みたいに感じられるということなのかな?

 ということは、Rie fu は、ある意味、しょこたんに似ているのかな。つまり、親の世代が好きだったものに子供のころに影響を受けて、実年齢に合わない好みを醸成してしまったがゆえに、おれたちの世代に不思議な懐かしさを伴った新鮮さを感じさせるのだろう。とすると、オンデマンドなメディアが発達してくるにしたがって、Rie fu やしょこたんみたいな“遅く生まれすぎた子供たち”が、さほど特別な家庭からでなくとも、これからどんどん出てくるということだな。

 てなわけで、ここ三、四日、「ツキアカリ」をやたら聴いているのだった。ちょっと鼻にかかった独特な声が、おれの耳には妙に心地よく癖になる。ちなみに、六月十五日まで、Yahoo!動画で「ツキアカリ」のビデオクリップがまるまる観られるので、ぜひお試しあれ。四十代以上の人なら、おれが「懐かしい」と言っている感じがおわかりいただけるかと思う。



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2007年5月12日 (土)

『しょこたん☆かばー ~アニソンに恋をして。~』(中川翔子/ソニーミュージックエンタテインメント)

 先日注文したのが届いたお(^ω^) ギザ、ウレシス(←だからおっさん、お前、いくつだよ?)。

 それはともかく、じっくり聴いてみると、これはそのときかぎりの“企画モノ”の域を超えていて、はなはだ感心した。長きにわたって愛聴するに足る出来栄えである。本人が好きでやってるほど強いことはない。考えてもみたまえ(急にエラそう)。「ロマンティックあげるよ」(『ドラゴンボール』)、「乙女のポリシー」(『美少女戦士セーラームーンR』)、「BIN・KANルージュ」(『魔法の天使クリィミーマミ』)、「残酷な天使のテーゼ」(『新世紀エヴァンゲリオン』)、「青春」(『タッチ』)といったラインナップを、中川翔子はそれこそ子供のころから何百回、何千回と聴き込み唄い込んでいるにちがいなく、自分の持ち歌よりもはるかに時間をかけて磨き上げてきているはずなのである。カバーとしての完成度が高いのは当然のことだ。

 中川翔子の歌声は、一、二秒聴けば誰だかわかるといった個性的なものではない。が、彼女のアニソンは、けっして没個性的ではない。強いて言えば、“脱個性”的なのだった。器用に声色を使い分けて原曲のイメージを損なわないようにしているのだが、単なる“ものまね芸”などではない。「どうだ、似てるだろう」とばかりに、似せることに意識を置いているのではなく、原曲への愛ゆえに巧まずして似てしまっているという感じが伝わってきて好もしい。その“愛しかた”にこそ、ほかの誰でもない中川翔子の個性が紛れもなく立ち上がっているのだ。企画モノから駒が出たとでも言おうか、愛のある企画モノの大成功例ですな。

 そのむかし、近所にいる“ふつうのコ”をふつうでない状況に巻き込んでアイドル化していた時代があった。いまは、“ふつうじゃないコ”がごくふつうに好きなものを愛でているさまがアイドル化されるのだろう。そんな中川翔子は、いわば“アルファ・プロシューマー・タレント”とでも言うべき存在として、いよいよ相転移にさしかかった現代の消費社会を体現している。まさに、こういう企画で輝くために生まれてきたような才能だ。この、遅れてきた八○年代アイドルは、遅れてきたからこそ、時代に足を取られることなくその風に乗り、強かな無垢を武器に、ごくふつうに羽ばたいている。不思議なコだ。少女よ、神話になれ!

 アニソンがとてもアニソンらしかった時代の宝石を、古いオルゴールから取り出してケータイストラップにしてしまう、ふつうじゃないコのふつうさが眩しい一枚。「ロマンティックあげるよ」のPVメイキングを収めたDVD付き。

 そうそう、しょこたん、第二弾をやるんなら、おじさんは「わぴこ元気予報!」(『きんぎょ注意報!』)希望!



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2007年5月 9日 (水)

好きこそものの上手なれ、親の因果が子に報い……

中川翔子が「ロマンティックあげるよ」 - Yahoo!動画でムービー配信開始 (マイコミジャーナル)
http://journal.mycom.co.jp/news/2007/05/08/011/index.html

ヤフーは、Yahoo!動画にて"しょこたん"こと中川翔子がアニメ『ドラゴンボール』のエンディングテーマ「ロマンティックあげるよ」を歌う動画の配信を開始した。ビデオクリップ撮影時のオフショットも視聴することができるという。配信期間は6月1日まで。
Yahoo!動画では、後世に残したい楽曲を中川翔子がカバーする新企画「しょこたん☆かばー」を開始。今回は「アニメ編」として「ロマンティックあげるよ」のフル配信を決定した。

 いやあ、しょこたん、カワユスなー。カワユスよー。

 ……すまん、おれ、中川勝彦と同じ年の生まれだけどな。

 こんな娘がホシスなー。ホシスよー。もっとも、こんなギザカワイイ娘がおったら、絶対、門限は七時だ。七時だと言ったら七時だ。親子で徹夜アニソンカラオケをしてボックスを五時に追い出されても、充分門限には間に合うだろう。

 で、思わず注文しちゃったよ。うわあ、いい歳をしてなんだおまえはとおのれを罵りながらも、ポチっとやっちゃいましたなー。『しょこたん☆かばー ~アニソンに恋をして。~』。アマゾンにはなぜか全曲書いてないんだが、「ロマンティックあげるよ」「乙女のポリシー」「BIN・KANルージュ」「残酷な天使のテーゼ」「青春」の五曲入りミニアルバム。「残酷な天使のテーゼ」は常識として、「乙女のポリシー」を入れるところが、いい選曲だなあ。あれは名曲だよね。

 なんか、このミニアルバム自体、おおかた『溜池Now』のアニソン企画で水を得た魚のように活きいきとアニソンを唄う中川翔子を見たスタッフが、「いーじゃんいーじゃんすげーじゃん」みたいなノリで企画したんじゃなかろうかと想像するのだがどうか。もしそうだとすると、USENとしては、トンビに油揚げをさらわれたような感じじゃないのかなあ?

 そうなのよ、存外に素直で伸びのびとした歌唱で、当然のことながら、プライベートで相当アニソンを唄い込んでいるんだろう、充分な水準なのだ。

 CD+DVDが届くのが楽しみだなあ。ああ、今年の秋には、おれは四捨五入して五○になっちゃうんだけどな。ま、三つ子の魂ということでよろしく。ええもんはええわい。なあ、そこのおっちゃん、おばちゃん?



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2007年4月18日 (水)

『月夜の雨』(柴田淳/ビクターエンタテインメント)

 ここ半年ばかり、気がつくと柴田淳を流しているという日々が続いている。iTunes Store でたまたま「紅蓮の月」を買ってみたら、これがやたらいい。以来、じわじわと柴田淳の曲がおれのパソコンの中に増えていった。

 だが、おれはたぶん女性ファンとはかなりちがった柴田淳の聴きかたをしているのだと思う。ウェブで女性ファンの評などを見ていると、女性は“しばじゅん”の詞の世界に魅せられることが多いらしいのだが、おれはといえば、データが擦り切れるほど(?)聴いているのに、ほとんど歌詞が覚えられない。ただひたすら、その声に浸ってしまうのだった。おれにとっては、ただただ心地よい声なのだ。歌詞を追ってその世界を読み解こうという脳の回路が、柴田淳の声が流れはじめるや否や、その働きを止めてしまう。といって、“聴き惚れる”という感じでもないのだな、これが。“聴き惚れる”のにはけっこうエネルギーが要る。知らずしらずのうちに、集中してこちらから耳を傾けてしまう構えになるからだ。柴田淳の声は、ただただここにあるがままのおれの中にするすると流れ込んできて、ひたすら心地よい。押しつけがましくなく、疲れない。

 よく「透明感のある声」などという常套句が使われているのを見かけるが、それはちょっとちがうんじゃないかと思う。柴田淳の声は、いわゆる“美しい声”というのとはちがう。むしろ、雑音の多いざらついた声である。そのざらつき加減が絶妙に心地よいのである。ぴかぴかの表面が冷たく体温を跳ね返してくるガラスのような感じではなく、その繊細なざらつきこそが掌に心地よく吸いついてくるシンプルな素焼きの器のようだ。

 ずっと iTunes Store で買っていて、物体としての盤(いた)を買ったのは今回が初めてである。「紅蓮の月」や「花吹雪」「HIROMI」のようなシングルで出ているメジャーな曲もさることながら、こうしてアルバムで聴いてみると、「青の時間」「涙ごはん」「つまおうじ☆彡 (拝啓王子様☆第三章)」といった、必ずしもマジョリティーには支持されないかもしれない世界を展開した曲のほうが、おれには印象に残る。おれが思っていたよりも、ずっと幅の広いアーティストなのだなあと感嘆した。狂気の薫りすら漂う病的な感性や奇妙なユーモア感覚に、おれは意外な既視感を覚えた。声質も曲想もまるでちがうのだが、なぜか柴田淳には、おれに谷山浩子を思い起こさせるものがある。おれもこのアルバムを聴くまではそんなふうに思ったことはなかったもんだから、相当意外だったんだけれども、聴けば聴くほど、この二人の“感性の匂い”みたいなものに、共通した波長を感じるんだよなあ。おれだけかなあ?

 ともあれ、ほんとに、疲れない、心地よい歌声ですなあ。声フェチのおれとしては、柴田淳には下手に“お歌がお上手”にはなってほしくないのだ。いまの柴田淳の声でなら、おれは電話帳の朗読だってずっと聴いていたいと思う。なんなんだろうね、この心地よさは?



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2006年11月26日 (日)

『BLOOD+ COMPLETE BEST』(アニプレックス)

 『BLOOD+』というアニメをとりあえず横に置いておくとしてもだ、盛んにテレビCMでやってるとおり、高橋瞳元ちとせHYDE中島美嘉UVERworldアンジェラ・アキジンK(ケイ) という錚々たる才能のコンピレーションがこの値段だと考えれば、たいへんお値打ち感のある買いものである。『BLOOD+』なんて知らない人でも買いでしょ。ハードウェアのほうではいろいろナニなアレで斜陽感が拭えないソニーだが、なあに、いまの世の中、コンテンツを握ってるやつはどう転んでも強いのである。もう、ANIPLEX の思うツボ、こうやって喜んで乗せられて買ってしまうやつがここにいる。事実、これだけ豪華なものをこの価格で出せる企業グループはそうそうないだろう。オープニングやエンディングの曲が次々変わってゆくものだから、最近の傾向からすると、アニメの放映が終わったあとにこういうコンピレーションが出るだろうなと、ぼんやり予測してはいたけどね。これはこれで、もはや現代のマーケティングとしては確立されたやりかたであって、あざといとも思わなくなったよ、おれは。

 で、『BLOOD+』なんだが、個人的にはたいへん好きである。やっぱり吸血鬼はいい。最初のころは、あまりにもとろとろと進む話に首を傾げたが、完結してみると、結局おれはこの作品が大好きだったのだということがよくわかった。おれが吸血鬼を好むのは、たぶん、日陰者が背負う悲哀みたいなものに美を見い出すからではないかと思うのだが、『BLOOD+』では、日陰者の吸血鬼ですらない人工の吸血鬼「シフ」という連中が出てきて、こいつらがじつに哀しくていいのだよなあ。日陰者のパチもんとして生まれてきて、運命と闘い、運命を受け容れるいいやつらなんて、じつにカッコいいじゃあありませんか。いやまあ、御託を並べてはいるが、結局のところは、日本刀振りまわす少女が好きだということに尽きて、オリジナルのコンセプトにずっとハマっているだけなのかもしれないのだけれどね。

 さすが“土6”アニメだけあって、オープニングやエンディングにやたら気合いが入っているなあとは思っていたんだが、テーマソングのコンピレーションCDに、クレジット抜きの映像と音楽が全部こうしておまけDVDで付いてくるとはね。これは安い。高いけど安い。オープニングとエンディングは、それぞれ四つずつあり、二番めと三番めのオープニングは、単独の映像作品としても十二分に見応えがあって、アニメをまったく知らない人でも楽しめると思う。おれは、ちょっとアール・ヌーヴォーっぽいテイストの二番めのオープニングがとくに好きだ。

 なんだかんだ言って、振り返ってみると、この作品はひとえに元ちとせに救われていると思いますなあ。ああいう終わらせかたをしたのもとてもよくわかるし、最後の最後は、やっぱり元ちとせの「語り継ぐこと」で締めたのも、無理のないところでしょう。これからほぼ永遠の時を“断続的”に生きてゆくであろう音無小夜にとっては、この『BLOOD+』の時代も、その生のほんの断片にすぎないわけだけれども、ほんの断片だからこそ、それはまたとてもいとおしく、せつないのであるのよなあ。

 このあと、やがて目覚める小夜をめぐる近未来SFとして(?)、『BLOOD++』だか『BLOOD#』だかが語られることになるかどうかはわからないが、おれはまたどこかで小夜が日本刀振りまわすとこを観たいね。



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2006年11月15日 (水)

『オリジナルベスト50~悲しき口笛,川の流れのように』(美空ひばり/コロムビアミュージックエンタテインメント)

 母が美空ひばりのファンなので、ボケ防止にDVD/CDデッキの使いかたを覚えさせるには、これくらいの強い動機がなくてはならないだろうと買ってやったのだが、じつのところ、半分くらいはおれ自身が欲しくて買ったのである。うちにはシェイクスピア全集やら夏目漱石全集やら坂口安吾全集やら筒井康隆全集やらがあるわけだから、なにはともあれ、歌謡曲好きとしては、一応、美空ひばりの代表作くらいは所有しておかねばなるまいと、にわかに一念発起して投資したのだ。天才の仕事はとりあえず手元に置いておき、いつでも触れられるようにしておきたい。メジャーなものはしっかり入っているから、美空ひばり決定版として持っておくにはお手ごろなベスト50だ。すぐに全曲 iTunes に取り込み、このところ美空ひばりを集中的に勉強(?)しているのであった。

 あまりの灰汁の強さに辟易する部分もないでもないし、おれは美空ひばりというキャラクターがそれほど好きではないのだけれども、歌手としては文句なしにすごいのだからしようがない。おれが美空ひばりという歌手を知ったのは、ちょっと変則的だが、「真っ赤な太陽」であって、子供のころは箒のマイクを持ってしょっちゅう歌っていたものである。箒を持つとおれは美空ひばりになり、算盤を持つとトニー谷になっていたのだ。

 おれはどうも演歌というやつが大嫌いであって、「悲しい酒」なんかはほとんど評価しない人なのである。だがやはり、ひばりが歌うと“演歌ですら”なかなかよいものに思えてくるから癪に障る。基本的におれは、美空ひばりという人は、ジャズ歌手・ポップス歌手として認識している。“演歌も唄う人”といった感じだ。三つ子の魂百までなのだ。

 おれ的に順不同でベスト10を選ぶとすれば、「東京キッド」「私は街の子」「リンゴ追分」「お祭りマンボ」「港町十三番地」「車屋さん」「柔」「真っ赤な太陽」「愛燦燦」「川の流れのように」といったところかなあ。比較的初期のが好きみたいだ。「東京キッド」や「港町十三番地」みたいなのは、いまの時代には絶対出てこないノリの世界だよなあ。それだけに貴重な、昭和の一ページを飾る名作だと思う。「車屋さん」なんて、和風ガーシュイン(言ってることが自分でもよくわからん)かと思うよな。

 もう少し長生きしてくれて、“TAK MATSUMOTO featuring Hibari Misora”とかを聴かせてほしかったものだ。この歳になっていまさらながらに新鮮な思いで聴いているのだが、いやホント、いいすよ、美空ひばり。



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2006年5月29日 (月)

『中沢厚子ファーストアルバム あなたが母を愛したように あなたが父を愛したように』(中沢厚子/エレックレコード/紙ジャケット仕様)

 伝説のエレックレコード“復刻紙ジャケット仕様”の一枚。当時のLPレコードをそのまま縮小した食玩テイストが面白い。紙ジャケットに印刷してある文字は、虫眼鏡でもないと読めません。その代わり、ちゃんと中にライナーノートや歌詞カードが入っている(ご丁寧にも、現代仕様のブックレット方式の歌詞カードと、LPレコードに入っていた紙の復刻仕様の二種類)。もちろん、ディスクそのもののラベル面も、むかしのLPレコードそのまま。CDに「33 1/3」などと書いてあるのが、ちょっと笑えるけど、懐かしい。若い人には、なんのことだかわからないかもしれませんなあ。

 とはいうものの、一九六二年生まれのおれは、中沢厚子を懐かしがるほどの歳ではないのである。おれよりちょっと上くらいのフォークファンのお兄さん・お姉さん(当時)だったら、ストライクゾーンだろうとは思うが。おれがこの伝説のフォーク歌手を懐かしがっているのは、ひとえに、中学一年生のときに買った「タワーリング・インフェルノ ~愛のテーマ~」によるものである。

 そう、当時は洋画のテーマソングの日本語盤というやつがよく出ていた。『タワーリング・インフェルノ』という映画そのものもおれは大好きだが、Maureen McGovern の唄う主題歌 We May Never Love Like This Again が非常によかった。いまだによく聴く。モーリン・マクガヴァンは、この曲と『ポセイドン・アドベンチャー』の主題歌 The Morning After で、アカデミー主題歌賞を二度も受賞している。以前にも書いたように、おれ的には「パニック映画は主題歌」なのである。で、だ。その『タワーリング・インフェルノ』の主題歌の日本語盤を唄っていたのが、当時フォークの新星として注目されていた中沢厚子だったのであった。

 おれは乏しい小遣いでモーリン・マクガヴァン版と中沢厚子版を両方とも買い(ドーナツ盤だよ、もちろん。当時は五百円だったと思う)、飽きもせず聴きまくっていた。若い人は信じられないでしょうが、当時の音楽記録媒体は、聴くたびに少しずつ磨耗してゆくのである。“擦り切れるほど聴く”というのは誇張のレトリックではなく、単なる事実の描写だった時代なのだ。

 中沢厚子の特異な透明感のある声は、まだ中学生だったおれにもガツンと来た。地声なのにファルセットのように響くハイトーンなのである。不思議な声だ。かといって、声楽家のようなある種の冷たさがあるわけでもなく、優等生的な印象はあっても厭味がない。伸びやかに澄んでいる。ウェブを漁ってみると、「“おかあさんといっしょ”の歌のお姉さん的イメージもなきにしもあらず」とうまく表現している人がいらした。たしかにそうなのだ。が、伸びやかに澄んだ声の中に、おれにはなにか陰のようなものがちらりと垣間見える。童女のようであり狂女のようでもあるアーティストとしての核の部分を、優等生的な声が覆っている。そんな感じだ。

 その後もラジオで「昭和のサムライたち」(受験生ソングなのである)を聴いたことがあったが、残念ながら、おれがLPレコードをそこそこ買える歳になるころには、中沢厚子は音楽界から姿を消していた。少なくとも、おれに見えるところからは姿を消していた。ずっとあとになってインターネットが普及してから思い出して検索してみても、一九九七年十月五日の日記に書いたように、「新しい情報は見つからず、むかしのラジオ番組だとかコンサート情報にしか中沢厚子の名は見当たらな」かったのである。

 おれはずっと気になっていたのだ。

 それが先日、野尻抱介さんの掲示板でちょっと中沢厚子の名を出したところ、TBSの鈴木順さんが、中沢厚子が活動を再開しているという情報をくださった。鈴木さんも中沢厚子ファンなのだという。たしかに鈴木さんの世代であればジャストミートのはずだ。しかも、鈴木さんは出入りのライブハウスで中沢厚子に紹介してもらい、ご本人からライブの案内をいただく仲だとおっしゃる。いやあ、世間は狭い。というか、インターネットというものの潜在力はすごい。おれが何年もずっと巡回している知り合いの掲示板に、中沢厚子と直接会っている方がいらしたとはね。

 そんな驚きがあったもんだから、ひょっとすると、ブログも増えた今日、中沢厚子の新しい情報があるのではないかと検索してみたら、なんとエレックレコードが復刻をはじめているではないか。知らなかった。中沢厚子もある。買わいでか。

 というわけで、このCDがおれの手元にあるわけなのだ。中沢厚子の声に初めて聴き惚れてから三十年以上を経て、おれは“おれがもう数年早く生まれていたら買っていたにちがいないLPレコード”を、レーザーで信号を読み取る未来の媒体で手に入れたのだった。不思議な気持ちだ。おれはいま“体験し損ねた過去”を、遅ればせながら満喫しているのだ。SFだなあ(強引にそこへ持ってゆくか)。

 ちなみに、これも鈴木順さんに教えていただいたのだが、この復刻版ファーストアルバムは iTunes Music Store でも買える。中沢厚子を知らない方は、ぜひ視聴してみていただきたい。ちょっとほかに類を見ない(聴かない)ワン・アンド・オンリーの声だと思いますよ。



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2006年5月 9日 (火)

『がんばらんば』(さだまさし/フォア・レコード)

 NHK『みんなのうた』の2006年4月・5月の新曲として流れている、さだまさしのヒップホップ。歌詞は全部長崎弁。さだまさしの長崎弁のラップなどという愉快なものが聴ける。「どんげんね 来られんごったね 待っとっばってんあんまいやったらちゃんぽん喰うて寝(ぬ)っ」って、そうか、大阪では必ず「屁ぇこいて寝る」もんなんだが、長崎ではちゃんぽん食って寝るのか。長崎弁ってのは、東京生まれ京都育ちのおれにもなーんとなくわかるようなわからんような絶妙なところがいい。ドイツ人のラップを聴いているオランダ人ってのは、こんな心境かも? 歌詞はちゃんと書いてあり、文字で読むと、かなりわかったような気になる。さらに「日本語訳」(そう書いてあるんだってば)を読むと、完全にわかる(あたりまえだ)。それにしても、長崎弁ってのはラップ向きだねえ。京都弁では、たぶんラップにならんよなあ。

 「がんばらんば 何でんかんでん がんばらんば」というリフレインの部分がやたら耳につき、頭の中で回り続ける。回り続けているのを聴いているうち、ひょっとして、ユンケル黄帝液のむかしのCMで流行語(流行歌?)にもなった「ユンケルンバ デ ガンバルンバ」というフレーズは、タモリ本人が作ったのではないかと思い当たった。タモリは九州人だし、福岡と長崎のちがいはあるにしても、「ガンバルンバ」といったフレーズを思いつきやすいのではあるまいか? どうなんだろね?

 これが千円以上したら買わんと思うが、五百円ってんだから買っちゃうよね。まあ、なんとなく元気が出る愉快な曲だから、健康ドリンクのつもりでいかが? ユンケルは少なくとも千円以上のやつでないと、効いた気がしないしね。



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