未来人たちがそんなにお人よしだとは思えない
クライオニクス(cryonics 人体冷凍保存)ってやつがありますわな。自分が死んだあとにも遺体を冷凍保存しておいて、遠い未来の科学技術で復活させてもらおうというやつだ。現代の医学では治療できない病気に冒された人を冷凍保存しておいて、未来の進んだ医学で治療してもらおうという試みも含む。『ブラック・ジャック』にもそんな話がありましたよね。「未来への贈り物」だっけか。
このクライオニクス、アメリカなどでは歴とした商売にもなっている。お金持ちは遺体をまるごと冷凍保存するわけだが、貧乏人(?)のためには、脳だけ冷凍保存するコースなどがあったりする。なにしろ未来のことだ。脳だけでも保存してあれば、記憶や人格を再構成して、なんらかの媒体にロードして“走らせる”ことが可能になっているにちがいない――と、ナイーヴに信じることができる人たちが、こういう会社と契約するのだろう。有名どころでは、SF評論家・作家のチャールズ・プラットが、不思議なことに、クライオニクスに本気で取り組んだりしている。
でもなあ、おれにはこんなもの、とんでもなく愚かなファンタジーだとしか思えない。
だって、考えてもみてほしい。いまから、千年か、五千年か、二万四千年かのちの世の人たちが、二十世紀や二十一世紀に交わされた商取引契約に則って、なにが哀しゅうて、むかしの人間を蘇らせにゃならんのだ? たとえそういう技術が確立していたとしても、勝手に未来に先送りされた厄介な問題を、未来の人たちがわざわざ律儀に解決せねばならん義理などあるものか。
そう考えると、いまクライオニクスの会社と契約して、いつか復活させてもらえるかもしれないと未来に希望を託している人たちの“遺体”など、当の未来人たちにとっては、使用済み核燃料みたいなものである。
未来人たちは言うだろう。おまえらのファンタジーを勝手に未来に押しつけるな、と。こんなものを保存するために、貴重なエネルギーを使ってきたのか、と。おまえらのせいでこんなとんでもない未来になっているというのに、未来の超技術で生き返らせてもらおうなどと虫のいいことを考えていたやつらの“遺体”が、こんなにたくさん冷凍保存されているとは、バカバカしいことおびただしい、と。
そこで、彼らは気づくのだ。
待てよ……使用済み核燃料とちがって、これはこれで、貴重な蛋白源だ、と。
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