うう~む。こ、これはすごい。もっと早く買っておけばよかった。
ブルーバックスはブルーバックスなんであるが、本のほうはDVDのダイジェストみたいなもので、まず、いきなりDVDを観るのがいいと思う。それから本に目を通せばいい。これで千六百八十円は安い。ミニサイズのDVDが三枚付いていて(これは“付録”ではない。こっちがメインである)、最初多少DVDが取り出しにくいものの、それだけDVDをがっちり保護する厚紙を綴じ込んだ作りで、ふつうの新書となんら変わることなく、そのまんま安心して本棚に収納できる。
おれもいままでいろんな科学書や科学雑誌や科学番組で、DNAのいろんな図解やアニメやCGを観てきたが、これほどの躍動感に打たれたものは初めてだ。DVDを観て呆然としてから、本書の「メーキング編」を読んで合点がいった。タイトルに「図解」とあるが、これはそんじょそこらの“説明のための映像”ではない。むしろ、“映像による動く模型”とでも呼ぶのがふさわしい。著者(というか、製作者というか)らは、さまざまな論文を確認し、針金のモールや紙粘土と格闘しつつ、納得のゆく“動くDNA”の手応えを得るために、手で触れられるDNAや酵素の模型を構築しながら、このCG作品をものにしたのだ。「表現すると見えてくるものがあるということをこれまで以上に強く確信」したという。さもありなん。これは、『超時空要塞マクロス』や『マクロスF』などでおなじみのメカニックデザイナー&監督・河森正治の方法論そのままである。河森は、絵ならなんでもできてしまうからといって、どう見ても動きそうにない、飛びそうにないメカをデザインすることを潔しとしない。手を動かして、手で触れられる模型を作りながら、映像のためのメカをデザインしてゆく。そうした作業の中から、動きに説得力と躍動感がある、あのバルキリーなどが生み出されたわけである。「SFは絵だねえ」という野田昌宏宇宙大元帥のお言葉もあるが、二十一世紀的には、もはや「SFは模型だねえ」というのが妥当なのかもしれない。最終的なアウトプットが絵や文章の作品であっても、実際に模型を作ったうえで描く・書くくらいのこだわりが、圧倒的な説得力を生むのかもしれない。
腰巻で福岡伸一も絶賛しているが、いわゆる“岡崎フラグメント”の生成の繰り返しによってラギング鎖側のDNAが複製されてゆくようすなど、いままで観たことのないダイナミックな映像である。ああ、こんなのが高校生のころにあったなら、おれは道を踏み誤って(あるいは、道を踏み誤り損ねて)いたかもしれないなあ。
先日、郵便受けにどこかの教会の信者勧誘用小冊子が入っていた。おれを知る人はご存じのように、おれは宗教心のカケラもない人間であるが、どんな手を使っておるのかなあと興味本位に読んでみると、もはや使い古された“眼のような精妙な器官が進化などでできたはずがない。誰かが設計したのだ。ダーウィンだって困っていた”という例の論を中心に話を展開していたので、「けっ」と苦笑してゴミ箱に放り込んだ。えーと、この進化論への反論(?)そのものをご存じない方は、『イリーガル・エイリアン』(ロバート・J・ソウヤー)でもお読みください。
きっと、この教会の人がこのDNAのDVDを観たら、「ほら、こんな精妙な仕組みがひとりでにできあがったはずがない。神秘を感じるでしょう?」などと勧誘してくるにちがいないが、残念でした、おれはこういうものに“神秘”などカケラも感じない。むしろ、“神秘”などというわけのわからないものが関与していないことにこそ、“驚異”を感じる。妙な言いかたかもしれないが、そこに“謎”はあっても“神秘”など介入する余地もないほどの“ミもフタもない精妙さ”があることに、一種の神秘を感じないでもないけどな。もっとも、おれはそれを“神秘”などとは呼ばないが……。そう、それは、ただただ純粋な“驚異”であり、“感動”であるだけである。
こんなにお手軽ですごいものが出ているのだから、高校・大学の先生方は、ぜひ活用してほしいね。授業や講義で使えなくても、せめて推薦図書くらいには入れておいてほしい。何十人か何百人かに一人の学生が、“生命の驚異”(“神秘”じゃないよ、しつこいけど)に打たれて道を踏み外して(あるいは、道を見つけて)くれるなら、千六百八十円など安いものだろう。
こりゃ、現代のSFファンは必読(ちゅうか、必見)の作品でしょう。やっぱり映像のインパクトはすごいわ。わかった気になっていただけのことを呆然と再発見し、「おれは浅はかだった」と打ちひしがれちゃいましたね。
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