7月分(6月14日~7月13日)の電気使用量が、前年同月を100とした場合、84ですんだ。やればできる。
しかし、だ。じつのところ、おれが家にいる夜の時間帯にせっせと節電したところで、あまり意味はなかろう。だがまあ、今回の原発事故は、日本の原子力行政下であればいつか必ず起こると確信してはいたものの(おれの生きてるあいだに起こってほしくはなかったが。惜しい、もうちょっとだったのに)、やはり実際に起こってみると、改めておれに水をぶっかけてくれた。
たとえ電気があり余っていようが、野放図に使うよりはセーブするほうがいいに決まっている。電気にかぎらない。なんだってそうだ。おれの子供のころには、そういう価値観があった。それが、いつしか「ふんだんにあるものは野放図に使ってもよい」という価値観に、まだ日本がそれほど豊かではなかったころを知っているおれたち自身ですら、徐々に毒されていったのだ。猛省せねばならない。
とはいうものの、この節電に、おれはそれほど血の滲むような努力をしたわけではない。タイミングがいいのか悪いのか、十数年使った冷蔵庫がとうとうぶっ壊れた(ガリガリ君が融けるようになったのを発端に、冷凍食品まで融けはじめた)ものだから、しぶしぶ新しい冷蔵庫を買った。
まあ、十数年前の冷蔵庫と消費電力を比べてみるとびっくりだ。少なくともスペックの上では、新しい冷蔵庫の消費電力は、古い冷蔵庫の四割減なのである。十数年ぶんの技術の進歩はすごい。おまけに、外寸は以前の冷蔵庫よりもずっと小さいものを買ったのに、庫内はそれほど狭くなったように感じない。
ふつうの家庭でも絶対に電源を切らない家電製品は、ほかならぬ冷蔵庫なのである。冷蔵庫の電力消費を抑えれば、ほとんど苦労を感じずに効果的な節電ができる。とはいえ、温度設定を高くしすぎて食べものを腐らせたりして健康を害しては元も子もない。もし、あなたの冷蔵庫がおれの古い冷蔵庫と同じように相当年季が入っているのであれば、最新の冷蔵庫の消費電力をチェックしてみてはいかがだろう? さほど大きさが変わらないのに、いまの冷蔵庫は怖ろしいほど電気を食わないことに気づくだろう。壊れるまで待たずに、いっそ買い換えたほうが、節電にも家計の助けにもなるやもしれない。二、三年で元が取れるケースも少なくなかろう。
また、買ったときには家族が多かったのだが、子供が大学へ行ったり就職したり結婚したりで、家族の人数が減っている場合は、より小さい冷蔵庫に買い換えるのもひとつの選択だと思う。ひどい風邪などで買いものに行けないといった事態を想定すると、ある程度の冷凍食品は常備しておくべきだが、災害のときには冷凍食品は必ずしも非常食にはならない。大量に冷凍しておいても、電気が止まってしまっては、一度に悪くなってしまう。ほんとうにそんなにたくさん食品を冷凍・冷蔵しておく必要があるかどうかを、家族の人数と生活パターンを鑑み、いま一度考え直してみてはいかがだろうか? 案外、食いもしないものを腐るまで保存しておくために無駄な電気を使っているかもしれない。
冷蔵庫は壊れたからしかたなく買ったのだが、今年以降の夏用に節電目的で新たに買ったのは、扇風機である。エアコンの設定温度は、よほどのことがないかぎり、ほとんど二十八度にし、扇風機で部屋の空気を掻きまわす。部屋の数だけ温度計を買って、エアコンの設定温度を信用するのではなく、実際の効果として室温が何度になっているかに常に気を配り、冷えすぎていたらエアコンを切る。なあに、エアコンが各家庭に入りはじめたころなど、みな「電気がもったいない」ではなく「電気代がもったいない」と言って、エアコンを最後の秘密兵器のようにして使っていたではないか。
それにしても、扇風機がまた、やたら品薄で、ヨドバシカメラで三千円ちょっとで買った(「お一人様一台限り」として売っていた)ものを、あとでアマゾンのマーケットプレイスで見たら、一万二千円ほどで出品されていた。なんだかなあ……。
よく考えたら、扇風機なんてものを自分の金で買ったのは初めてだ。子供のころは、もちろん親が買っていたわけだからねえ。大人になって就職してからは、エアコンしか買ったことがない。よって、自分の金で扇風機を買うという体験はちょっと新鮮だった。最後に自分の部屋で扇風機を使ったのは、もう三十年くらいむかしだろうか。モーターで羽根を回して風を送るという枯れた技術ですら、この三十年にはやはりかなり進んでいるのだ。例の羽根のない扇風機なんて革新的な商品でなくとも、オーソドックスな扇風機でも、やっぱりかなり洗練されている。新しく買った扇風機は羽根が五枚もあり、音もおれが子供のころよりははるかに静かなのに風量があり、おまけにリモコンまで付いている。扇風機もハイテク(?)になっているのだ。
おれは、「ほうら、節電なんてたいへんだろう。原発がないとたいへんなことになるのだぞ~。こわいぞ~、おそろしいぞ~、みんな貧乏になって、熱中症で死んでゆくぞ~、冬には凍え死ぬぞ~」などという、電力会社の誇大広告に騙されるつもりはない。あくまで、無理なく減らせるぶんを粛々と減らすことで、自分のいままでの生活を反省しているだけだ。
だいたい、電力会社が消費者に節電をお願いするとはなにごとか!? 電力会社は社会に安定的に電力を供給する義務がある。その義務の履行と引き換えに、特権的な報酬を得ているのではないか。その電力会社が、すんません、電気が足らないので節電してくださいなどと消費者にお願いするとは、無能のきわみである。おまえらが原子力で電気を起こしていようが、魔法で電気を起こしていようが、そんなことはおれたち消費者の知ったことではない。ただ、原子力などというとてつもなく高くつく方法で発電をしておきながら、事故が起こったらそれを消費者に負担しろ(あるいは、国が税金で負担しろ)というのは、ちょっと虫がよすぎるのではないか? おまえら、ほかのもっと安い方法を考えてきたのか? むしろ、安い方法が出てきそうになったら、これはいかんと潰してきたのではないのか?
そこいらへんのふつうの人が、なにやら地球全体のことを考えているかのように「電気がもったいない」などとええカッコするのはやめようや。むかしおれたちが親に怒られたように、素直に「電気代がもったいない」と考えて節電すればいいだけのことだ。まずは、そこからはじめよう。使わなくてすむものを、無理して使うことはない。また、使わなければならないものを、無理して我慢することもない。
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