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2011年5月15日 (日)

もしあなたの家の冷蔵庫が火を噴く欠陥品だったら

 ある日、あなたはテレビを観ていて仰天する。家電メーカーが緊急告知をしているのだ。なんと、あなたの家で使っているのと同型の冷蔵庫に欠陥があり、最悪、火を噴いて炎上する可能性があるという。むこう一年のあいだに、100台のうち約6.6台が確実に火を噴く計算になるらしい。

 これはたいへんだ。あなたは家族を集めて宣言する――「すぐに冷蔵庫を停めるぞ」

 できれば停めたほうがよいということには家族の誰もが賛成なのだが、妻がまず不服を言う――なにぶんにも現在の経済状態では、すぐに冷蔵庫を買い換えるわけにはいかない。とてもじゃないが、冷蔵庫がなくては、現代家庭の食生活は成り立たない。冷凍食品が利用できない。ガリガリ君も食えない。むこう一年のうちに100台に6、7台程度が火を噴くくらいであれば、なにもよりによってウチのが火を噴くと決まったわけではないのだから、せめて冷蔵庫を買い換えられる程度の貯金ができるまでは、いまの冷蔵庫を動かし続けてはどうか?

 あなたは仰天して反論する――なにを言う!? もし家に誰もいないときに冷蔵庫が火を噴いたらどうするのだ? 下手をすると家が丸焼けになってしまうのだぞ。みなが熟睡しているときに火事になったらどうする? 最悪、みんな焼け死んでしまうのだぞ。借金をしてでも冷蔵庫を買い換えるべきであるし、借金ができないのであれば、その都度必要な食べものをコンビニに買いにゆくような生活をしてでも、この危機を回避すべきだ。

 妻は食い下がる――いや、よしんば冷蔵庫が火を噴いたからといって、家が丸焼けになるとはかぎらないではないか。私は専業主婦だ。家に誰もいなくなる時間は、きわめて短い。

 息子と娘がかわるがわる泣きわめく――夏にガリガリ君が食えない生活なんて考えられない。先進国じゃない。経済大国じゃない。中国にも劣る。韓国にも劣る。北朝鮮のようだ。少量の火事は、むしろ健康によい。

 あなたは家族に押し切られ、しぶしぶ欠陥冷蔵庫を“しばらくのあいだ”使い続けることに同意する。

 ある日、あなたが会社から帰ってくると、なにやら近所が騒がしい。足を速めたあなたが自宅の、自宅のあるはずの場所にたどりついてみると、そこにはあるはずのものがなく、なにやら消し炭の柱があちこちでくすぶっている。妻や息子の姿は見当たらず、頬を煤だらけにした娘だけが、門があったあたりにしゃがみこんで泣いているのだった――。

 「……なーんてことになったらどうする!?」 あなたは声を荒らげてテーブルを叩く。

 「だから、あなたは心配性がすぎるのよ」と、妻。

 「♪ガーリガリ君、ガーリガリ君、ガーリガリ君」と、息子と娘。

 「しかしなあ、おまえら……」と、力なく呟くあなた。

 「大丈夫よ。いくらなんでも、明日火を噴いたりはしないから。当面は絶対大丈夫よ

 あなたは溜息をついて冷蔵庫の扉を開け、よく冷えた発泡酒の缶を掴むと、二階の自室へと逃げてゆくのだった。

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