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2009年6月25日 (木)

採用条件:地頭のよいバカ

文科相「平日の就活禁止を」新ルールづくりへ持論披露 (asahi.com)
http://www.asahi.com/politics/update/0624/TKY200906240374.html

 「就活」に新しいルールを――。塩谷文部科学相は24日の参院行政監視委員会で、学生の就職活動が長期化、早期化して学業に影響が出ていると指摘されていることに関連し、「少なくとも平日は、企業も就活(就職活動)の会合をしてはいけないとか、それぐらいのルールを最低限つくってもらいたいと思っています」と述べた。
 山下芳生議員(共産)が「学生は大学3年の早い時期から負担を強いられている」として就職活動のルールづくりを求めたのに答えた。
 塩谷文科相は「かつては就職協定があり、今は(日本経団連の)倫理憲章のもとにやっているが、現実には守られていない」と指摘。「要は授業のある日は(企業が就活中の学生を集める会合を)やっちゃいけないとか、それぐらいのルール」が必要だと語り、山下議員も「なかなか具体的な検討内容を披瀝(ひれき)していただいた」と評価した。
 就活に関する新しいルールづくりは、何度も議論にはなるものの、企業側が難色を示すなど状況は変わらないまま。ただ、今回の大臣の持論披露には、当の文科省内でも「ちょっと現実的ではない」と受け止められている。(青池学)

 塩谷文科相の持論はたしかにいまの状況に照らすと現実的ではないとは思うが、“学生は勉強せえ”というあたりまえのことをあたりまえに言っている点で評価できる。あたりまえのことをあたりまえに言うことは、存外に大事なことだ。

 少し前にあちこちで話題になった「三角錐の体積が計算できない技術系新入社員---深刻な若手の学力低下」という記事をいま一度併せて読むと、いったい企業側はなにを求めているのかよくわからなくなる。おれがわからなくなるのだから、就職活動中の学生諸君はなおさらわからないだろう。企業側は、自分たちが大学でろくろく勉強させずに採った学生の基礎学力がないと言って嘆く。矛盾しとらんか?

 企業側のぶっちゃけた本音を想像するに、「十八、九歳の時点の瞬間風速でそこそこの大学に入れたという“そこそこの地頭のよさ”だけを一応証明してくれれば、大学の役目などそこで終わっている。大学でなにを学ぶかなど知ったことではない。というか、あんまり余計なことを教えないで、できるだけ白紙のままでこっちに渡してくれ」ということなのではなかろうか? つまり、“できるだけ地頭のよいバカが欲しい”というのが企業側の(もしかすると、企業側自身も気づいていない深層の)本音なのかもしれん。

 このような企業側の明示的メッセージと暗示的メタメッセージとの乖離は、学生たちをいわゆる“ダブルバインド”の状況に置く。学生たちは、“私はじつは「やればデキる子」なのですが(その証拠にそこそこの大学には入れたのです)、大学では毒にも薬にもならないことをちゃんと勉強するふりをして着々と単位を取っているくらいに世渡りは上手です。もちろん、卒業後はどんな色にでも簡単に染まってみせる、要するにあなたがたの脅威にはけっしてならないアホです”というケッタイなアピールをしながら就職戦線を戦わなくてはならない。

 大学生にろくろく勉強をさせないように行動しながら、採用した新人の基礎学力がないといって嘆くのは、ちょっと学生に酷じゃないの? 企業側はここらで本音で勝負したほうがいいと思う。「まぐれだろうがなんだろうが、そこそこの大学に入れたという一事を以て、少なくとも地頭は悪くないと認定する。だから、大学生時代はできるだけ余計なことは学ばないでくれ。なあに、こっちが内定さえ出しゃ、大学の教師なんぞ簡単に折れて卒業させてくれるよ。キミは義務教育修了程度の四則演算と日本語の読み書きができりゃいい。その代わり、ウチの会社に入ってから、ちゃんと“教育”してあげるからウチに来てくれ」──要するに、こう言いたいのだろう? ぶっちゃけた話。

 「へえ、企業ってそうなんだ? じゃあ、大学なんて要するに“入れれば勝ち”なんだね? よーし、大学入って、思いきり遊んで、立派な“地頭のよいバカ”になっていい会社に入るぞお」などと目から鱗が落ちた学生が仮にいたとしたら、そういう人は「優秀なエンジニアは「入社時のスキルを問わない会社」には就職してはいけない」という、これまた一時話題になったブログエントリーも読んでおいたほうがよい。べつにこれって、もはや“SIer”にかぎった話じゃないからね。定式化すると、“○○を以て競争力とし、○○で食っているはずの企業が「入社時の○○を問わない」と新卒を募集しているのはあきらかにおかしい。なにか裏がある”ということだ。

 なんの道によらず、大学でちゃんと勉強してきた人は、「入社時の○○を問わない」企業じゃなくて、「入社時の○○を大いに問う」企業に入ったほうが、なにかと面白いだろうと思うよ。せっかく○○をしっかり勉強してきたのに、入社してみたらいきなりド素人と横並びで、「大学教育? 専攻? なにそれ? 食えるの?」みたいな扱いをされたら、「だ、大学って……なんだったの?」と、ヤワなやつは五月病になっちまうよなあ。でも、基本的に“地頭のよいバカ”を欲しがっている企業ってのは、どこも似たり寄ったりだろうと思いますよ。

 純プラグマティックに考えると、大学時代の勉強は“趣味”と割り切って思いきりやって(趣味だからこそ、損得考えずに打ち込めるのだ)、就職活動では適当に“地頭のよいバカ”を演じて適当なところに潜り込む──ってのが、今風の処世術かもしれん。そのうち、デジタルネイティブのキミらがほんとうに面白いと思えるなにかにめぐり会うかもよ。会わないかもしれないけど。



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コメント

 私ゃ、大学の事務にも企業の人事にも、大学で学んでおかなければいけないのはヒューマン・スキルだといわれましたよ。

投稿: 東部戦線 | 2009年6月25日 (木) 09時43分

小学を「小さいうちに学び方を教わる」と考え、中学を「中年に至るまで使われる事を学ぶ」と考えると大学は「大いに学びたい物を学ぶ」って事でどうだろう?
んで、企業は大学出が欲しいなら、それなりの情報開示をしてくれなきゃね。
入ってから知る裏事情が多すぎると何ぼ地頭がそこそこ良くてもモチベーションダダ下がり。
持てる能力の半分も出せない結果になると思うんだけどな~。
企業側も裏事情を「知った上で覚悟してくる」ヤツと、「何も知らずに学歴だけでくる」ヤツとじゃ、戦力的に前者の方が使いやすいのじゃないだろうか?
ま、そこが第一志望の会社だったらの話だけれどもw

投稿: ちいこ | 2009年6月25日 (木) 10時25分

正直、私は中卒なので高学歴、有名大学の方には一目置いてしまいます。
でも社会人として働いていると「できる奴」「使える人間」として尊敬してしまう人は
必ずしも有名大学出身者だけではないと感じるのは私だけではないでしょう。
ホントの意味で地頭のよい学生は今の方法では人材を確保できないでしょう。
それに私には企業が本気で人材を育てたいと考えているとは思い難いのです。
人事部は育てればいいと思っていたとしても、現場の人間は
じっくりと新人を育てる時間と余裕がないのが現状です。
企業が本当に人材の大切さを実感できているなら、違う次元でのアプローチが
必要だと思います。が、それにはあまりに大変というなら
「ちいこさん」の言うとおり表も裏も情報開示するしかないですよね。
大学でしっかり学んだ事が仕事で役立つような社会になれば今の問題も…
あ~伝えたい事がうまく文章にできなくて、すいません。中卒ですから。

投稿: いい子 | 2009年6月25日 (木) 14時40分

就職活動が新卒一括採用で網をかけている以上、バルクで効率よくとる仕組みから脱却するのは難しいでしょう。優秀な人間ほど、安定した一流企業に入社すべきだという日本文化において、逆に張るってことはそういった層の学生を逃すことになるから。

所詮、人事部というのもサラリーマンなので、目標の学生をどれだけ取れたのか、どれだけのランクの大学から何%入社したかという評価からは逃れられないのでしょうね。

ただ、大企業であっても早期退職制度の進展など、ピラミッド型の組織が維持できなくなっているので、そういった大企業優先の選択肢が必ずしも勝利の方程式になってきている部分があり、そういった意味で段々とこの仕組みは崩壊していく方向にはあると考えます。

その意味で、入社時にスキルを問う入社制度を行っている会社に就職すべきであり、それが生き残る会社ともいえるでしょう。日本という市場が成長市場であれば、営業力=営業人員の数が最重要なビジネスモデルだったかもしれませんが、日本市場そのものとして人口減に見舞われている以上、このビジネスモデルは成功体験の逆になるはずだから。

ここまで見えて入社先を選ぶ学生はなかなかいないでしょうが、自分も就職し、20年間働いて実感として理解した部分も大きいからね。

ちなみに、自分はフリーのプロ管をやってます。。。

投稿: 猛牛軍団 | 2009年6月25日 (木) 16時41分

十八、九歳の時点の瞬間風速でそこそこの大学に入れたというのは地力じゃなくて、空力・虚力のような気がする。

投稿: 杉並太郎 | 2009年6月25日 (木) 21時14分

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