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2009年3月15日 (日)

『zabadak 1986-1993 SPECIAL EDITION』(zabadak/バイオスフィア・レコーズ)

 おっと、去年にこんなものが出ていたとは……。「1985-1993」というのは、要するに、上野洋子がいたころのzabadakということである。おれはべつに吉良知彦が嫌いというわけではなく、それどころか、非常に品のよい優れたミュージシャンであると評価しているが、なにせおれ自身が声フェチなもんで、どうしても上野洋子のウェイトが重いんだよなあ。

 上野洋子のいたころのzabadakというのは、まことに奇跡的なユニットであったと思う。人ごみが嫌いで、まずライブなどというものには出かけてゆかないおれが、zabadakのライブには二回も足を運んだのだからな。あれは、大阪ビジネスパークのIMPホールと、新大阪のメルパルクホールだったなあ。ライブの上野洋子は、それはそれはシャーマン的な魅力を湛えた少女のような魔女のような人だった。

 このDVDは、まあ、既出のPVやDVDのおいしいとこ取りみたいなもんで、zabadakファンにはさほど新鮮というわけでもないのだが、おいしいとこ取りだけに、上野洋子在籍時代zabadakのダイジェストが効率よく(?)楽しめるそこそこのものである。初期のPVのしょぼいこと。低予算の映像をやたらにクオリティーの高い音楽が完全に食っていて、その滑稽さがなにやら微笑ましい。名曲「harvest rain 豊穣の雨」あたりから、ようやくまともなPVになってくる。しょぼいPVもいま観ると懐かしいですけどね。

 あのころのzabadakの面白さというのは、凡百の男女デュオとはちがった“ねじれた関係”だったのだよなあと、いまこのDVDを観ながら、改めて思う。声を楽器のように操る理知的な上野洋子の歌唱を、唄うようにギターを奏でる情緒的な吉良知彦の演奏がしっかりと支えている。つまり、紋切り型の男女の役割が逆転しているのだ。その面白さと危うさは、「このままの姿では長くは続かないだろうなあ」という哀しい予感を伴いつつも、その奇跡的な数年間に立ち会えることの喜びをいや増すものだった。なにもかもみな懐かしい。

 その後、上野も吉良も、それぞれの音楽性をそれぞれの方向に追求し、深化していっているのは若い人もご存じのとおりである。いまの上野洋子、いまの吉良知彦がお好きな若い方々は、このふたつの才能が奇跡的に交じわっていたあの数年間を、御用とお急ぎでなければ、ぜひ味わっていただきたいと思う。『飛行夢』から『私は羊』あたりまでのzabadakは、ほんとにワン・アンド・オンリーの、昼下がりのうたた寝に見た前世の夢のようなユニットだったなあ。



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