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2009年3月 5日 (木)

“ついこのあいだ”のできごと

 おれが生まれたのは1962年であるから、おれが十歳のころは1972年である。そのころの大人が広島・長崎に原爆が投下されたことやら、マッカーサーがコーンパイプを咥えてわが国土に降り立ったことやらを思い返す感覚は、いまのおれが二十七年前を思い返す感覚と、まあだいたい同じようなものだったのだろう。

 そう思って、1982年にはどんなことが起こっていたのだっけなと調べてみて、おれは愕然とした。

 そうか、おれが十歳のころの大人たちは、いまのおれがホテルニュージャパンの火災やら日本航空の逆噴射墜落事故やら『笑っていいとも!』放送開始やらPC-9801初代機発売やらを思い返すのと同じような感覚で、アメリカと戦争をしていたころを思い返していたわけなのだな。なんだかとても不思議な感じだ。ニュージャパンやら逆噴射やらは、つい昨日のことのようなのだがなあ。こういうふうに感じるということは、おれもずいぶんと歳を取ったということなのだろう。

 あ、そうだ。1982年といえば、cyberspace という言葉が誕生した年でもある。もっとも、おれはその言葉を1986年ころに知るのであるが……。

 そう考えると、おれが十歳のころの大人たちは、ほんとうに“ついこのあいだまでアメリカと戦争をしていた”という感覚でいたのだろうなあ。ときどきこうやって、おのれの主観的時間感覚を、客観的な数字で補正してやるのは大事なことだと思う。あのころの大人はどう感じていたのか、また、いまの子供や若者はどう感じているのかを想像するための手がかりがいろいろと得られるのだ。

 十年前を“ついこのあいだ”と思えるような感覚は、三十代くらいでわかるようになる。二十年前を“ついこのあいだ”と思えるような感覚は、四十を超えるとわかるようになる。なあ、いま十代、二十代の人たちよ。十年後、二十年後には、いまのあなたがたのこのひとときを“ついこのあいだ”と感じちゃうんだぜ。いまのあなたがたには、十年後、二十年後なんて、すげー未来みたいに思えるだろうけどさ。うしろを振り返るころになると、その十年、二十年は、“ついこのあいだ”になっちゃうわけだ。いまのおれが「ああ、あのころ『笑っていいとも!』がはじまったんだっけなあ」と思うのと、おれが十歳のころの大人たちが「ああ、あのころ原爆が落ちたんだなあ」と思うのは、同じ感覚なのだ。まこと、人の時間感覚というのは面白いものである。



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コメント

 この感覚はすごくわかります。私も似たようなことを考えていました。

 たとえば明治の人間。少年時代にはまだ幕府があって、大人になったら当時のハイテクである蒸気式装甲軍艦の艦隊がロシア艦隊を破ったなんてニュースを新聞で読んでいる。でも、その時代の当事者には、日々の生活の中で時代の激変は以外に感じられなかったのかもしれない。
 

投稿: 林 譲治 | 2009年3月 5日 (木) 07時25分

手作りのコメントでお邪魔した、たぬきです。
先日は、なんか騒ぎに火をつけたようで、かつ北野さんに喧嘩を吹っかけた形になってしまいすみませんでした
毎日楽しんで読ませていただいてます。これからも頑張ってください。

この感覚ってすごく分かります。
未来は遠くに感じるのに、過去はすぐ身近に思えますよね。
林さまのコメントにも同感です。
ちょんまげ以前とちょんまげ以後って、すごく当時の人にとっては虚脱感に似た激変を肌で感じたんではないかなぁと思います。

投稿: たぬき | 2009年3月 5日 (木) 09時56分

 いえいえ、別に喧嘩をふっかけられたなどとは思っておりませんよ。
これからもよろしく。そういえば、こういうコミュニケーションの形
というのも、ついこのあいだまでなかったものですよね。携帯も
インターネットもビデオさえなかった時代との距離感なんてのも
世代によって全然違うんでしょうね。

投稿: 北野勇作 | 2009年3月 5日 (木) 14時04分

北野さま、こちらこそよろしくお願いします。
「かめくん」好きです(^_^)。
冬樹さまも、時々お邪魔させていただきたいです。
よろしくお願いいたします

投稿: たぬき | 2009年3月 5日 (木) 20時51分

>林譲治さん

 たしかに明治の人って、そうなんですよねえ……。

 ミサトや赤木博士はセカンドインパクトを幼少時の体験として知っているけれども、シンジやらレイやらアスカには、もちろん“大むかしのできごと”なわけですなあ。シンジが三十代近くになると、ようやく「ああ、あのころの大人はこういう感覚だったんだ」とわかるようになるのかも。


>たぬきさん

 ええ、どうぞどうぞ、いくらでも気軽にいらしてください。ここはあんまり濃ゆいことを書いているつもりはなく、どっちかというと、どなたにでも気軽にコメントしていただけるようなアホなことばっかり書いていると思いますので、「そんなアホな」といくらでもツッコんでください。


>北野勇作さん

 このエントリーみたいなテーマは、北野さんお得意の分野かと思います。

 最近“デジタルネイティブ”なんて言葉が出てきてますが、生まれたときからインターネットがある世代のメンタリティーなんてのは、非常に興味深いものがありますね。「音響カプラってなんですか?」みたいな(笑)。

 もっとも、デジタルネイティブに引けめを感じたりはせんのですなあ。なにせ、“振れ幅”という点で言えば、われわれの世代がいちばん激動の時代を生きているはずですから。箪笥の上に恭しく置かれた大きな真空管ラジオや、レースのカーテン(?)をかけて家宝のように扱われていた白黒テレビから、カセットテープのウォークマンやMDを経て、iPod やスマートフォンまで、常に現役でついてきているわけですからね。ついてゆけなくなったときに“老い”を感じるのかもしれませんが、わたしゃこのまま『老人Z』のハッカー老人みたいになってやるのが目標です。

投稿: 冬樹蛉 | 2009年3月 6日 (金) 00時58分

以前、手作りとは何ぞや?(そんなタイトルだっけ?)にてお邪魔しました、ちいこです。
二度目まして´ω`)ノドモ←この時点でちょっと過去を感じて頂けると幸い♪

人間の時間感覚って実に不思議。
私の子供の頃に毎晩の様に家に来ていた坂本のお爺さん(非血縁関係)が「こねえだの話だども…」って話し出す物語(実話)は確実に戦前の話でした。
戦前に青春を謳歌していたであろう坂本のお爺さんの話は、その頃幼かった私には架空の物語に匹敵するほど面白い物で毎晩楽しく聞いたものです。
私の当たり前とする物が其処には無く、都市伝説みたいなもの(所謂噂)が当たり前のように存在している。ちょっと不思議な感覚で聞いていました。因みに私、1969年アメリカがラブ&ピースって言ってた頃の生まれ。
坂本のお爺さん、当時何歳だったんだ?と今更ながら疑問。ほら、子供って年とか気にしない生き物だから。今なら幾つなのか聞けただろうに、相手は既に鬼籍に。
坂本のお爺さんの話をワクワク聞いていた頃からの自論。

「人間が想像出来るものは、未来には創造出来る」

ま、これって各界の有名人や著名人が、もっとカッコいい言葉で言ってる事だけれども。

長生きする予定の無い私なので、長寿の人は既にSF的な存在。
なので旦那の婆ちゃんが白寿をとうに越えた人ゆえ、なんて話しかけたら通じるのか未だ不明。
宇宙人の方が、よっぽど話しかけやすいと思う。
あちらが何言ってるかも8割分らないから、私も感覚で相槌打ってるし。
あ、それは婆ちゃんが鹿児島の人だからか?
いずれにしても、一世紀生きてる人は、摩訶不思議な存在であります。

投稿: ちいこ | 2009年3月 6日 (金) 12時07分

82年ですか、我が家に初めてパソコンが来たのはその年、身内の学生(工学部)に教えてもらってIF THEN GOとかFOR TO NEXTとかを動かしたものでした、つい昨日-だけどものすごい昔

投稿: 村上 | 2009年3月 6日 (金) 13時25分

>ちいこさん

 オバマの演説ってのは、こういった“人の時間感覚”というものをうまく操る仕掛けをいつも使っていますね。


>村上さん

 あはは、当時のそれだと、N88-BASICですか(^_^;)。

 小倉智昭さんがむかしやってた『パソコンサンデー』なんてテレビ番組では、副音声でプログラムを流すなんてことをやってましたよねえ。ピーーーーガガガガーーピピピーー(笑)。

投稿: 冬樹蛉 | 2009年3月 6日 (金) 22時15分

今朝マイケル・ジャクソンのニュースを見ながら、「そうか、私が幼稚園児だった頃の大人たちは、私が今『スリラー』を思い出す感覚で太平洋戦争を思い出していたのか」と思って愕然としました。

投稿: ふみお | 2009年3月 6日 (金) 23時22分

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年を取るのは素敵なことです。そうじゃありませんか。という中島みゆきの歌詞が思い浮かんだ。それは、「ついこのあいだのできごと」っていうブログを読んだ時だ。ワシも40の年をこえて思うのは、大学生活、そして就職したのはついこの間のように感じることだ。そして、...... [続きを読む]

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