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2009年1月10日 (土)

『ハイファイ新書』(相対性理論/みらい records)

 こ、これはただごとではない。ハマってしまった。一発でハマってしまった。相対性理論はニ〇〇六年九月結成だというが、こんなユニットを一年三か月も知らなかったとは、わが身の不明を恥じる思いである。べつにおれは音楽評論家じゃないし、最新の音楽シーンなんぞちっとも追っかけてない、ただただ自分の好きなものを繰り返し聴いているだけの能天気な音楽好きにすぎないので、よく考えてみるととくに不明を恥じることもないけれども、それでも個人的には、一年三か月ぶんの人生を損したような気分である。

 昨日、iTunes Store のトップページを開いたとき、奇妙なアルバムが「トップアルバム」欄の一位に突如ランクインしてきているのに気づいた。なんじゃこりゃ? 相対性理論? 人を食った名前だな。しかし、こんな名前で活動しているユニットを、SFファンとしてはすんなり受け流すわけにもいかん。しかも、二位も同じユニットの『シフォン主義』なるEPである。インディーズがにわかにメジャーに躍り出てきているらしい。これはいっぺん試聴してみずばなるまい……。

 で、『ハイファイ新書』の一曲め「テレ東」を二十秒かそこら試聴するや否や、おれは『ハイファイ新書』と『シフォン主義』を、ぽちっ、ぽちっとやってしまっていた。つまり、おれは iTunes Store で買った(iTunes URL:相対性理論)わけなので盤(いた)は持ってないのだから、「CDの紹介」として感想を書くのは厳密にはよろしくないのではないかとも思うのであるが、そんなことはどうでもよいほど、「ええもんめっけ!」という気持ちがあまりに強いので、クローズドな mixi の日記では書かずに、こうやってここで感激を表明するのである。

 聴いたとたんにおれがなにを思ったかを嘘偽りなく言うと、「あ、Scritti Politti だ」と思ったのだった。

 どこがスクリッティ・ポリッティだよ、全然似てねーじゃねーかとツッコむ人もいるかもしれないが、おれにはそっくりに聞こえたのだからしようがない。やくしまるえつこなる、これまた人を食った本名とはとても思えぬ女性ヴォーカルの歌唱は、まるで“岩男潤子と藤本房子を足して二で割ったような声をベースに開発した初音ミク”が唄っているかのようで、その“強烈な無個性”が尋常でなく心地よい。あたかも、グリーン・ガートサイドのようだ。無個性というのはどこまで行っても無個性だが、強烈な無個性というのは透明な個性なのである。

 おれは声フェチであるから、たいていのポップスは唄い手の声でハマるのであるが、相対性理論の場合、まずその“音”にハマった。強烈な無個性を主張するヴォーカルは、ギターやベースやドラムスのカッコよさを引き立てて、まったく食わない。いやもう、ことにギターがめちゃめちゃカッコいい。

 それにしても、この国籍不明のポップさ。お笑いのジョイマン川本真琴とSF短歌の笹公人がなにかのまちがいでコラボして書いてしまったような麻薬的な“声に出して読みたい”歌詞は、なにも主張してこないのに、キラキラと耳に刺さり、頭の中でぐるぐる回って離れない。やっぱ、スクリッティ・ポリッティの『Cupid & Psyche 85』を初めて聴いたときにガツーーーンとやられた記憶に重なってしまう。まあ、こういう奇妙な感想を抱くのは、おれのようなロートルだけかもしれないけどね。

 まいったなあ。しばらくは、相対性理論にべったりになりそうだ。「地獄先生」なんて、ポリス「Don't Stand So Close to Me」の今風アンサーソングに聞こえちゃうよなあ。「バーモント・キッス」もいいなあ。納豆の賞味期限はいつだったかなあなどとふと冷蔵庫の扉を開けたりするときに、「♪わたしもうやめた~、世界征服やめた~」とか鼻歌で唄っちゃいそうだ。「品川ナンバー」もいいなあ。カラオケにあったら(そのうち入るだろうか)、いっぺん唄ってみたい。

 おれは音楽に関する専門的語彙をあまり持たないので、まるで書物であるかのように感想を表現するしかないのだが、いまはまだ、こういうものにこの時代にこのタイミングで出会った驚愕と感激に圧倒されていて、ひたすら彼らの音が醸し出す世界に淫しているだけである。

 おれ的には、'00年代のスクリッティ・ポリッティが日本に現れたってのが、掛け値なしの感想だ。もう、目が離せない。これで、二、三枚のアルバムを出すだけですぱぁ~~んと沈黙しちゃうとなおさらカッコよく、伝説化すること請け合いなのだが、もっともっと新しいのが聴きたいと思うのも、また、偽らざるところである。悩ましいなあ。

 ひとつたしかな予感がある。おれが二十年以上経ったいまでも『Cupid & Psyche 85』を聴いているように、いまから二十年経っても、おそらくこの『ハイファイ新書』を聴いているであろうということである。もう、たしかにそう思えるほどに、おれのツボにハマった。よくぞ「相対性理論」なんてユニット名にしてくれたもんだ。そうでなきゃ、知るのがもっと遅れたかもしれんからな。うぅ~む、盤も買っちゃおうかなあ……。

 それにしても、こいつら、いったいなにものだ? ポップなアウトプットのバックエンドで、ガチガチに理論武装してそうだなあ。SFで言えば、円城塔みたいな連中にちがいない。

 まあ、社会的・政治的・経済的にはろくなことがない昨今ではあるが、こういうときこそ、文化的にはめちゃくちゃ面白くなるのだ。キターーーーーーっ、この時代に生まれてよかったー!

「地獄先生」PV (※わ、洞口依子じゃんか……好みってものは、どうしてこうヘンなところで繋がってゆくかねえ……)

 



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コメント

ああ……ジョシコーセーじゃなくなったら堂々と誘惑できるのに、と思ってしまった。大人って、やーね。

投稿: ふみお | 2009年1月19日 (月) 00時11分

>ふみおさん

 ジョシコーセーという特権的身分の響きがいいんじゃあ~りませんか。“This girl is half his age.”という背徳的な感じがね。ま、私くらいになっちゃうと、half his age どころか、三分の一ですけどね。

 卒業しちゃうと一応対等になっちゃうので、エロさが半減しますね。女子大生というのは、女子高生に比べるとそんなにエロい感じはないのですよね、不思議と。年齢的には、おっさん・おばはんから見ると、ニ、三歳なんてのは誤差の範囲なのですが、なぜか記号的には女子高生と女子大生は、絹ごしと木綿くらいの差がありますね。不可思議。

投稿: 冬樹蛉 | 2009年1月19日 (月) 01時37分

「高校教師」のアンサー論に「なるほど!」です。

投稿: champlasonic | 2009年1月27日 (火) 17時19分

>champlasonicさん

 いやあ、私ひとりが頓珍漢な好き勝手を言っているのは覚悟のうえでしたが、同調してくださる(しかも、音楽に詳しい)方がいらっしゃるとは思いませんでした。心強いかぎりです。

 アンサーソングという表現が適当かどうかはわかりませんが、あきらかにポリスを意識してはいると思うんですよね。「ホームルームの教室で 男女交際のうわさが飛び交う」のところで、即座に「Loose talk in the classroom / To hurt they try and try / Strong words in the staffroom / The accusations fly」のところを連想しましたから。あ、こりゃ絶対狙ってるなと。

投稿: 冬樹蛉 | 2009年1月28日 (水) 01時15分

何となく気になってCDを買ってしまいました、確かに不思議なグループ、特に不思議な女の子ですね・・・・

投稿: 村上 | 2009年1月30日 (金) 23時57分

>村上さん

 いやあ、私はiTunes Storeで衝動買いしておきながら、やっぱり盤も欲しくなって、とうとう買っちゃいました。アホです。これくらいハマったバンドもひさしぶりです。

投稿: 冬樹蛉 | 2009年1月31日 (土) 03時09分

おくばせながら私もやられた1人です。
なぜ今になって知ったのか。。
私もアンサーソングということに合点がいきました。
相対性理論、ニューウェーブの雰囲気が心地よいです。

投稿: けん | 2013年11月 4日 (月) 01時04分

>けんさん

 やくしまるえつこの声が好きということもありますが、相対性理論の音がいいですよね。やくしまる単独の仕事もいいけど、やっぱり相対性理論のときがしっくり馴染む感じ。

投稿: 冬樹蛉 | 2013年11月 4日 (月) 13時41分

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