百億のシャンプーと千億の塩
先日、風呂に入っているとボディーシャンプーが切れた。やれやれと思い、買い置きを詰め替えると、今度はシャンプーが切れていた。やれやれ、なんてタイミングだと思いつつ、買い置きを詰め替えた。で、次の日の朝、洗濯機を回して家を出ようとしたら、今度は液体洗剤が切れていたので、やれやれとまた詰め替えた。重なるときは重なるものである……。
と、おれの頭を妙なイメージが一瞬にしてよぎった。たとえば、人はシャンプーがなくなると、すぐに買い置きを出してきて詰め替えるであろう。つまり、そのときシャンプーは初期状態にリセットされるわけである。つまりこれは、シャンプーが真円を描いて軌道運動をしていると考えても、いっこうに差し支えないのではないか。軌道運動をしていると見た場合のシャンプーの残量は mod 2π の性質を持つ関数であって、一本め(一周め)であろうが二本め(二周め)であろうが、残量が同じであれば合同と見なせるのである。そうだ。おれたちが日常生活で使っている消耗品の数々は、すべて人工衛星だったのだ!
とすると、ものすごく規則正しい、機械のような生活をしている人がいたとして、すべての消耗品が新品である状態を初期状態とし、シャンプーが何日でなくなるか、ボディーシャンプーが何日でなくなるか、液体洗剤が何日でなくなるか、味の素が何日でなくなるか、塩が何日でなくなるか、醤油が何日でなくなるか、胡椒が何日でなくなるか、砂糖が何日でなくなるか、酢が何日でなくなるか……(中略)……オリーブ油が何日でなくなるかなどなどなど、それぞれを一本使い切る日数(公転周期)を正確に測定できれば、それらすべてがいっせいになくなる“グランドクロスの日”が計算できるはずだ。「どうしたんだ、今日は!? なんだか一日中詰め替えばかりしているぞ」という日が、いずれはやってくるのである。
べつに代数的にややこしい計算をしなくたって、精密な時空図を描けば、幾何的に求めることができるだろう。塩やら味の素やらの公転周期がわかればいいのだ。よほど暇な人は、消耗品が切れるインターバルを正確に測定し、トイレットペーパーを何本も繋ぎ合わせたような長~~~~いグラフ用紙を使って時空図を描き、あなたの家の消耗品がいっせいに同時に切れる“運命の日”を算出(というか、描出)してみていただきたい。何十種類もの消耗品がぴたりと同時に切れるのがあなたが描いた時空図の示すとおりであったとすれば、それはそれは感動的な日を迎えることができるだろう。「おおおお……むかし図に描いてみたとおりだった! やっぱり、シャンプーとボディーシャンプーと液体洗剤と味の素と塩と醤油と胡椒と砂糖と酢と……(中略)……オリーブ油とがいっせいに切れる日は……五十六億七千万年後のこの日だった!」と、感涙に打ち震えることであろう。それまであなたが機械のように規則正しい生活をしつつ生き永らえていられるかどうかはわからないが、シャンプーやら塩やら醤油やらなにやらがいっせいに切れる歴史的な感動を弥勒菩薩と共に分かち合えるとしたら、それはそれでなかなかすばらしいことではあるまいか。
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コメント
家でも職場でも外でもトイレにいくたび、トイレットペーパーの交換をしなければならない日や、珈琲を入れにいくたびコーヒーメーカーが空で水をくみにいかなければならない日があるのですが、その周期の計算には、自分のときに空になったのに補充しない人の要素を入れる必要があるので計算しにくいですね、きっと。
投稿: 海 | 2009年2月 1日 (日) 03時15分
>海さん
あ、やっぱりそういう体験がありますか。ぜひこちらのエントリー( http://ray-fuyuki.air-nifty.com/blog/2007/01/post_69ac.html )もお読みください。
投稿: 冬樹蛉 | 2009年2月 1日 (日) 03時21分
やたらと、トイレットペーパーの芯に当たるときや、コーヒーメーカーのコーヒーが空っぽに当たるときは、たまたま、惑星が直列に並ぶような不運? なのでしょうか。太陽の質量は太陽系のカイパーベルトに及ぶまで、その影響を与え、規則的な周期運動をしています。ところが、海さんのおっしゃるとおり、そんな単純な計算式では表すことはできないんですよね。重力は距離の二乗に反比例して小さくなりますが、満員電車のような、人間と人間の距離が、ごく近い関係にあるときは、たとえ、ひとりひとりが勝手な動きをしようとする力が小さい場合でも、無視できない大きさになるんですよね。それは、自分だけは「いいだろう」という思い込みや、どうせ選挙の投票をしたところで、自分の「一票」が世の中を変えるわけではなし……という諦め。さらに、他の人がそうしているのだから、自分もそうしないと損だという身勝手な論理……。冬樹蛉さんのおっしゃるとおり「想像力の欠如」なのですが、短期的なスパンで見る限り、この人たちを一喝するような論理を、どう構築していけばいいのか、悩むところです。
「自分のベルトを緩めて、他人の迷惑を返り見ないでウンコをする奴は、いつか、太陽がカイパーベルトを緩めて、大きなウンコが降ってくるぞ!」と脅したところで、関係のない、つつましい生き方をしている人を巻き込んでの、ハルマゲドーーンとなってしまいます。そんな、世紀末的な思想や、「地獄に堕ちるぞ」的な、宗教パワーを、私は使いたくありません。やはり、その人が、何度もトイレットペーパーの芯に当たったり、コーヒーメーカーのコーヒーが空っぽ、という状態に遭遇することにより、「なんなんだよ~!」と「情けは人のためならず」と悟ることを待つしかないのでしょうか……(なんか、中途半端だ)。でも、トイレットペーパーの「三角折り」までは、私は望んでいません^^; それは、「あなたの幸せを祈らしてください」と言い寄ってくるような、ぶきみさを感じるからです(祈ると折るという字は似てるわ^^;)。私の幸せを願うなら、「陰でこっそりと祈っていてください」と願うばかりです。
ごめんなさい、じつは相当「いいちこ」な気分の酔っ払い爺@ガスコン研究所ですが、我が「ガスコン研究所」へのトラックバックの御礼でした。ぐだぐだなコメントになってしまい、もうしわけないです;;
投稿: Gascon | 2009年2月 1日 (日) 08時13分
確か海王星の軌道というのは、もっといまより内側にあったのに、木星の影響でいまの位置まで移動してしまったそうです。軌道に乗っている天体同士の相互作用の産物ですね。
同じように軌道を描いているはずの物品が、他の物品に影響を及ぼすことも考えなければならない。砂糖が切れたので買いに行って、ついでに塩も買ってしまうというように。あるいはパンが無ければケーキを食べて、それが日常化してパンを食べずにケーキを食べるようになる。リセットのはずがそのままエンドになってしまうとか。
そうやって、それそのものは欠乏していないのに、他のものの欠乏がリセットのタイミングをずらしてしまう。
そうだとすると、グランドクロスは典型的な複雑系かもしれない。
投稿: 林譲治 | 2009年2月 1日 (日) 21時32分
シャンプーも塩もみりんも香水もプリンタのインクも何もかもちょうど半分とか、ちょうど27%とか、こっそりといろんなグランドクロスが起こってるんでしょうねえ。観測してないだけで。いや観測してもしょうがないんだけど。
投稿: ふみお | 2009年2月 1日 (日) 23時34分
“常に買い置きは切らさないようにしてあるとする”という条件を加えたほうが、少しは問題は理想に近づくかもしれませんね。
投稿: 冬樹蛉 | 2009年2月 3日 (火) 01時19分