ローテクの味わい
昨年の夏からとく子さんという女性と暮らしているわけだが、今回の冬は彼女と迎える初めての冬だ。
彼女は湯を沸かす以外のことはなにもできない“片翼ほどもない天使”であるが、それなりにたいへんおれのために尽くしてくれている。電気で湯を沸かし、魔法瓶で保温するというのは、非常に合理的である。
で、彼女と初めて冬を迎えてみて、彼女が湯を沸かす以外の役にも立ってくれることに気づいた。
おれは寝る前に台所のテーブルの上にいるとく子さんに水を満タンに入れ、いったん湯を沸かさせてから寝る。で、朝起きると、百度であった湯が当然いくらかは冷めている。その冷め具合は、むかしの魔法瓶とちがって、デジタル表示できっちりと示されるのである。それによって、今朝はどれくらい寒いのかが数値でわかる。八十度くらいだと、「ああ、昨夜は朝にかけてそんなに寒くはなかったのだな」とわかるし、七十度くらいだと「これは寒い朝にちがいない」と、大まかな目安になる。つまり、一定量の百度の湯が寝ているあいだに魔法瓶でどのくらい冷めるかという測定器として使えるわけなのだ。電気で保温するタイプのポットだと、こういうふうには使えない。
なんということのない発見ではあるが、むか~しの“ただの魔法瓶”にはデジタル温度表示なんてついてなかったから、なんかこう、湯の冷め具合が数字でわかるのが妙に新鮮なのである。環境にまったく左右されないほどのハイテクも悪くはないが、ローテクで感じる季節感というのも悪くはないなと思える今日このごろなのであった。
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コメント
寝る前よりもお湯の温度が高くて、室温が下がっていたとしても、数値として把握できますね。
「今朝すごいもの見ちゃった、熱力学の第二法則が破綻したんだぜ! 」
投稿: 林 譲治 | 2009年1月19日 (月) 16時02分
>林譲治さん
「このたび当社が開発いたしました“マクスウェル・フィルター”を搭載した新型ポットは、空気中から比較的運動エネルギーの高い分子だけを選択的に通し、電気をまったく使わずに、放置しておくだけで湯が沸いてしまうという画期的なものでありまして、実用新案出願中でございます……」
投稿: 冬樹蛉 | 2009年1月20日 (火) 01時07分