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2008年12月23日 (火)

仮定法過去完了

 そろそろクリスマスなもんだから、定番のクリスマスソング「ママがサンタにキスをした」( I Saw Mommy Kissing Santa Claus )を耳にすることも増えてきた。これを聴くたびに思うんだが、これって、中学生時代のおれにとっては衝撃的な歌詞だったのよなあ。英語の先生は、これを利用しない手はないと思うのである。

  Oh, what a laugh it would have been if daddy had only seen mommy kissing Santa Claus last night!

 この文章、おれたちのころのカリキュラムでは、中学三年生までに習う英文法の中でも、最も難易度が高い(と、教えるほうは勝手に思っていたらしい)とされていた仮定法過去完了の代表的例文にしてもいいくらいの名文(?)である。そのほかにも、こういうときの only のニュアンスとか、see somebody ~ing とか、it would have been の it はなんなのかといった、“とても英語らしいノリの表現”がぎっしり詰まっている。

 実際のところ、いまの中学三年生でこの文章が正しく解釈でき、この文章に相当する構文の英作文ができる子は、抜きん出て英語のできる子だろうと思う。

 おれたちの中学生時代から、仮定法過去で躓くやつは、「過去形」がなぜに「仮定」として使われるのかが感覚的に理解できないらしいのだった。「ああ、そりゃそうだ」と誰に説明されずとも自明の理として納得できる“語感”を持っていたら、べつに難しくもなんともない。NHKの『ハートで感じる英文法』でおなじみの大西泰斗氏がみごとにシンプルに説明してらっしゃるように、いっぺん頭の中で「○○だったとしたら……」と思い描いたことは、心理的に“過去のこと”と捉えているからである。仮定した光景を一歩引いて描写するときの“心持ち”は、過去に起こったことを振り返って描写するときのそれとほぼ同じようなものだからなのだ。

 でもって、仮定法過去完了は、仮定法過去(というのは、結局、視点は現在にあるわけだが)の構造が、そのままガッチャンと過去にずれるだけのものである。“過去の一時点に於いて「そのとき○○だったら、××だったのになあ」ということ”を、現在の視点で述べているわけだ。だもんだから、仮定法過去完了が使われる文脈というのは、後悔していたり、残念がっていたりすることが日常的表現では圧倒的に多い。「ママがサンタにキスしているのをパパがもし見ていたら、そりゃあケッサクだったろう、ああ、残念」と、現在思っているわけである。

 『ダウンタウン物語』(Bugsy Malone)という、ガキのころのジョディ・フォスターなんかが出ている映画が三十年以上前にあったが、このラストシーンで唄われる歌がケッサクなんだよなあ。この映画、ギャング映画なんだが、演じているのはみ~んな子供なのである。そいつらが、「We could've been anything that we wanted to be……」と、まるで世を拗ねて裏の世界で地べたを這いずって生きてきたすれっからしの中年みたいな歌を合唱するのだ。アレがなぜ面白いかというと、ガキのくせに仮定法過去完了で唄うからである。あたかも、十四歳の少女「今まで生きてきた中で一番幸せです」とほざくがごとき、微笑ましさと滑稽さが醸し出される。

 で、だ。おれが中学生のときに「ママがサンタにキスをした」に衝撃を受けたのはなぜかというと、学校文法に於いて中学校を修了していなければわからないはずの構文が、実際の英語圏では“子供の歌”で使われていたからである。そりゃそうだわなあ。英語で生活しているやつらが、いちいち日本の学習指導要領などを気にしているはずがない。つまるところ、英語の先生にでもなるつもりがなければ、英語なんてのは、英語圏の幼児が身につけるであろうように身につけるしかないのだなあと、心底納得したものであった。要は、“フィーリング”なのである。

 だもんだから、今日の日記は、時節柄、受験生への応援である。英語の苦手な人は、「ママがサンタにキスをした」の歌詞をとにかく口をついて出るくらいに憶えなさい。絶対、役に立つ。ラテン語やなんかとちがって、英語は、いま、この世界に生きている連中が日常的に使っている言語なのだということを実感できれば、学校で習うような無味乾燥なものではないと、心の底から納得できると思うんだよね。

 Merry Christmas!



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コメント

ご教示ありがとうございます、この歌詞が日本語では「でもこのサンタはパパ」になっちゃうんですね、全くミもフタもない・・・・

投稿: 村上 | 2008年12月23日 (火) 21時34分

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