「すてきなチーズ切り」くらいなら、もう造れるんだから
▼エレベーターで宇宙に行けるかも 東京で今秋国際会議 (asahi.com)
http://www.asahi.com/science/update/0919/OSK200809180102.html
「上に参ります。次の階は宇宙でございます」――長さ約10万キロのケーブルをよじ登って、ロケットを使わず、そのまま宇宙へと飛び出す「宇宙エレベーター」の研究団体が日本で結成された。海外の研究者を招き、11月に第1回国際会議を東京で開催する。従来はSFの世界の乗り物とみなされてきたが、ナノテク新素材の開発によって実現の可能性が見えてきた。
宇宙エレベーターとは、赤道の上空、高度約3万6千キロに浮かぶ静止衛星から地上に向けてケーブルを垂らし、それをガイドとして利用して、宇宙との間を昇降するエレベーター型宇宙船のこと。
バランスが取れるように、静止衛星から地球と反対方向の宇宙にも向けてケーブルを伸ばすため、その総延長は月までの距離の約4分の1にも達する。ケーブルは、静止衛星と共に宙に浮いた状態となるので、よじ登っても落ちてこない。地球の重力を脱出する燃料がいらないので、宇宙旅行のコストが約100分の1になると見込まれている。総建設費は、約1兆円の予定。
SF作家の故アーサー・C・クラークが小説「楽園の泉」で紹介して有名になったが、実現は不可能に近いと考えられてきた。どんな素材でもその重さに耐えきれず、ケーブルが途中で切れてしまうからだ。計算上は、鋼鉄の約180倍もの強度が必要。だが、日本宇宙エレベーター協会会長で、IT会社社長の大野修一さん(40)によれば、軽くて強いカーボンナノチューブが開発され、必要強度の約4分の1の強さの繊維がすでに造られているという。米国では、米航空宇宙局(NASA)が賞金を出すコンテストも開かれている。
大野さんは「海外旅行感覚で、誰でも宇宙にいけるようになる。放射性廃棄物の太陽への投棄や、太陽光発電衛星の設置などいろいろな利用案も出されている」と話す。
約50人の会員の中には、大学教授や宇宙関連産業の技術者などもいる。来年には、ケーブルを昇る模型の速さを競う国内大会を開催する計画もある。ホームページは、http://www.jsea.jp/(久保田裕)
こういう会議が日本で開かれ、一般紙が報道するような時代になったか。感無量だねえ……。
おれは最近しみじみ思うのが、一九六二年あたりに生まれてほんとうによかったなあということである。おれたちの世代は、家の中にある最高のハイテク製品として箪笥の上に載っていた、あのチューナーの赤い針が物理的に移動する大きなラジオを知っている。白黒テレビを知っている。“ウチにカラーテレビがやってきた日”というのを、子供のころの大きな事件として胸に刻み込んでいる。ソノシートでアニメや特撮モノの主題歌を聴いた。人類が月に立ったとき、ちゃんとその意味がわかる年ごろになっていた。やがてデジタル技術の産物が次々と生活に入ってきた。新しい技術が出現するたびに、人類が一歩SFの世界に近づいたような気がした。ほんとうにした。オリヴェッティの機械式タイプライターで卒論を書いた。パソコン通信に感動した。インターネットにもっと感動した。牧歌的なアナログの世界にもノスタルジーを覚えつつ、デジタルなハイテクにもいちいち感動してきた。生まれたときからコンピュータがコモディティー化していた世代とはあきらかに一線を画する。着々と夢が現実になってゆくさま、テクノロジーが人々の生活や人間のありかたそのものを確実に変えてゆくさまを、みずからの成長や成熟と重ねて、まざまざと見てこられた世代なのだ。なんていいときに生まれたんだろう――と、このごろホントに思うのだ。
でもって、とうとう軌道エレベータである。あんまり長生きしたくないなあ、死ぬときにはスイッチが切れるように死にたいなあというのがおれの基本的願望ではあるのだが、こういう話に触れると、おれの生きているうちに実現するかなあとわくわくする。むかしのように「こんな夢みたいなものが実現したらいいなあ」という段階ではもはやないのだ。多少なりとも、要素技術の展望が開けてきたからこそ、こういう国際会議も開かれるのであって、人類が手を伸ばせば届く距離にそれは近づいてきているのである。あと四十年くらい生きられたとしたら、そのころには実現しているだろうか? もし間に合いそうだったら、酒も煙草もやめてみようかという気にすらなる。八十五歳でも乗せてくれますか? それこそ『楽園の泉』じゃないけれど、軌道エレベータの中で(できれば“帰路”で)息絶えるんなら、それはそれは素敵な死にかただと思う。
「総建設費は、約1兆円の予定」だって? なんだかずいぶん安いように感じるのだが、専門家が弾いているんだから、それなりに根拠のある見積りなのだろう。安い安い。FRBがAIGの救済に投じる金があれば、軌道エレベータが九基も造れるのか! そう考えると、ホントに安いなあ。
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コメント
もっと下世話な話にしてみましょう。
「アクアラインやめて軌道エレベーターにすれば良かったのに。」
こう考えるとちょっと安過ぎる気がする。
投稿: 超時空漫才 | 2008年9月20日 (土) 03時58分
>超時空漫才さん
それはまた生々しい(^_^;)。ハマコーも軌道エレベータを造らせのなら、人類史に名前が残るのに。
>こう考えるとちょっと安過ぎる気がする。
というか、その場合、アクララインが高すぎるのでわ……。
投稿: 冬樹蛉 | 2008年9月20日 (土) 23時42分
よく考えたら、軌道エレベータに必要な強度の「約4分の1の強さの繊維がすでに造られている」ということなら、「すてきなチーズ切り」ができるだけじゃなく、リアルに“秋せつらごっこ”ができるなあ……。
投稿: 冬樹蛉 | 2008年9月20日 (土) 23時44分
アメリカ政府が今後二年間、不動産関係不良債権を買い取る資金で、75基ほど造れるってことですねえ。
そんなにいらんて

投稿: ふみお | 2008年9月21日 (日) 11時46分
常識的に考えて、軌道エレベーターの建設に先行して静止軌道に作業ステーションを設ける必要があるはずです。
低軌道の国際宇宙ステーションでも数兆円かかっているはずです。静止軌道は現行の宇宙ステーションよりはるかに軌道が高く、当然建設費も桁違いでしょう。国際宇宙ステーションよりずっと小さくまとめないと、一兆円では建設できないでしょう。
日本宇宙エレベーター協会のサイトを見ると「建設に必要なコストは1兆円といわれています」と書いてあるだけで、試算の根拠は載っていないようです。
この数字はタネ本に載った試算をそのまま載せ、新聞はその数字をそのまま報道したんじゃないでしょうか。
投稿: 東部戦線 | 2008年9月23日 (火) 00時46分