« 旅の恥は書き捨て? | トップページ | 産地はどこか、前へ回ってウナギに訊いてくれ »

2008年6月26日 (木)

悪人なおもて説明される、いわんや善人をや

 とんでもない善人・Aさんが、それはそれは怖ろしいばかりの無差別善行事件を起こし、人々を不安にするとしよう。なぜ人々が不安になるかというと、Aさんに比べれば、自分は卑しく、みみちく、欲深く、穢れにまみれた極悪非道の人非人のように、誰もが思えてしまうからなのだ。

 マスコミには連日連夜さまざまな識者が登場し、Aさんのような常軌を逸した善人を生んでしまった社会の病理を説明しようとする。それらにつきあっていると、なにやら、Aさんが善人であるのはAさんがふつうの人よりえらいからでもなんでもなく、Aさんの高潔な精神を形作った社会的要因の為せる業であると、みなが納得したがっているかのように聞こえてくるのだった。要するに、みな、「ああ、こんなことどもが重なったのであれば、Aさんが善人になったのも無理はない。Aさんはたまたま環境の犠牲で善人になってしまったにすぎないふつうの人なのだ」と思いたいわけである。

 Aさんの凶善行の数日前に、善行心理学者がAさんのプロフィールをぴたりと言い当てた記事を書いていたことなどがクローズアップされると、「ほうら、やっぱりAさん自身が偉いわけじゃない」といった妙な論調がエスカレートし、Aさんは“たまたま善人になるべき運命を背負わされただけのふつうの人”に引きずり下ろされる。

 テレビを観ながら「Aさんはえらいなあ」と感心してひとことつぶやき、テレビを消して自分の日常に戻る――といったごくありふれた反応に、存外に強かな健全性を覚えてしまう今日このごろなのだったのだった……。

 ――なーんてひねくれたことを考えてしまうのは、例の秋葉原連続殺傷事件をきっかけに、おれを以前からずっと悩ませている例のダブルスタンダードが、またもや頭をもたげてきたからである。「加藤智大はただの悪人です。以上」じゃ、いかんのかい?

 いや、マジな話、「マザー・テレサはえらいなあ」で終わらせずに、「マザー・テレサは“なぜ”あんなにも善人だったのか」を徹底討論するワイドショーとか報道番組とかを観てみたい気がするのよ。そういう討論は、つまるところ、必然的に“マザー・テレサはいかに偉くなかったか”を説明しようとする事象や分析や意見で溢れかえることにならなければならないはずだ。なんだかなあ。



|

« 旅の恥は書き捨て? | トップページ | 産地はどこか、前へ回ってウナギに訊いてくれ »

コメント

俺は今猛烈に無差別善行事件を起こしてワイドショーを独占したくなったwww

それはさておき、私も勿論「加藤智大はただの悪人です。以上」で一向に構わないと思うのだが。
同様に「大量殺人をしたので死刑です。以上」も当然だと思うのだが、世の中にはそれではすまない人たちが日夜ダブルスタンダードを振りまいている。何故かそんなダブスタな人たちって人権屋とかサヨクばかりな気がする。

投稿: 超時空漫才 | 2008年6月26日 (木) 02時14分

どこがダブル・スタンダードなんでしょう?

投稿: ROCKY 江藤 | 2008年6月26日 (木) 14時20分

 昔から考えていたんだけど、日本の小金を貯めた老人たちから架空の投資話を持ちかけて、数百億円巻き上げて、その金でスーダンかどこか、戦乱で荒廃した地域に学校やら病院を作るような詐欺グループがいたら、どういう報道されるんだろう。

投稿: 林 譲治 | 2008年6月26日 (木) 21時15分

マザー・テレサについては、スプライトシュピーゲルIV(富士見ファンタジア文庫、冲方丁)で興味深い言及がありますね。天才的な経営者だったと。そして巨大な組織の前で個人であり続けたと。

投稿: 成田ひつじ | 2008年6月26日 (木) 22時00分

無差別平凡事件を起こして常軌を逸した凡人として槍玉に上がるにはどうしたらいいでしょう?

投稿: ふみお | 2008年6月26日 (木) 23時25分

>超時空漫才さん
>人権屋とかサヨクばかりな気がする

 まあ、そういう人たちも、反応が容易に予測できるので、時と場合によっては使いようなんですけどね。


>ROCKY 江藤さん

 えーと、エントリー中のリンク先を読んでいただければわかっていただけるんじゃないかと思いますが、ワタシ的には、悪人は社会のせいにしたがるのに、善人はただただ善人で偉いというのがダブルスタンダードに見えるわけです。


>林譲治さん
>どういう報道されるんだろう

 たぶん、“クロサギ”グループというふうに報道されるんじゃないかと思います。いまどき“鼠小僧”とか言っても、若い人には通じないかもしれないし。


>成田ひつじさん

 経営センスがあったというのはホントみたいですね。してみると、根っからの善人ではなかったのかもしれません。


>ふみおさん

 いいなあ“無差別平凡事件”。槍玉に上がるのは難しいでしょうねえ。不幸にも許してもらえちゃうでしょう。Mediocrities everywhere - now and to come - I absolve you all. Amen!

投稿: 冬樹蛉 | 2008年7月 8日 (火) 01時36分

>「ああ、こんなことどもが重なったのであれば、Aさんが善人になったのも無理はない。Aさんはたまたま環境の犠牲で善人になってしまったにすぎないふつうの人なのだ」

ここなんですが、これって無差別殺人ってお手軽なリセットボタンがありますよ、といったキャンペーンにしかみえないのですよ。マスコミの。
それに乗ってしまった馬鹿野郎がまた現れましたね。

いま八王子在住でして、今日も先日の事件のあったデパートの真下にある駅から通勤してきました。
八王子に越してから、行った回数の一番多いのが事件のあった本屋で、事件当日も2時間ほどまえに行ってます。

とにかく犯人には「てめーは最低の卑怯ものだ」と言ってやりたいです。

投稿: 修理屋ア | 2008年7月24日 (木) 19時19分

連投ご容赦。

うーん、読み返してみたら、自分も社会が悪いって言ってる。
難しいな。いろいろ……

投稿: 修理屋ア | 2008年7月24日 (木) 19時22分

>修理屋アさん

 ひえええ、このアホ日記の常連さんに、あの書店の常連さんがいたとは、なんとも世の中は狭いものです。きっと亡くなったアルバイトの女性も、「ああ、あのコだな」くらいには認識してらしたのでしょうね。

 でも、するってえとなんですか、もう二時間ほど遅く行っていたら、修理屋アさんご自身が刺されていた可能性もあるってことですよね。物騒な世の中だなあ。もっとも、あやつは女性ばかり襲っていますから、自分より強いかもしれない男は襲わなかったかもしれませんね。いかにも弱そうなやつで、私でも叩きのめせるかもしれない感じですし。

 なんと言いますか、私にはもはや「卑怯者」とすら感じられないんですよ。単なる“不気味に年老いた子供”とでも言いますか。

 マスコミとしては、これほどの事件を報道しないわけにもいかないわけですから、そのあたりが彼ら自身にとっても歯がゆいんだろうと思いますよ。また、歯がゆいと思っている人がいてくれないとね。

投稿: 冬樹蛉 | 2008年7月26日 (土) 03時59分

>「ああ、あのコだな」くらいには認識してらしたのでしょうね。

ええ。たぶんレジで会計してもらったことくらいあると思います。
それだけに、遭遇していたらなにか出来たかも、という思いが消えません。
多少の心得はあるので、取り押さえるのは無理(これはたぶん絶対無理)でも、被害を少なくすることは出来たかもと……。
実のところ、カバンの中には護身用もかねて折りたたみの傘が入れてあります。
包丁の相手をするなら、これで十分なのですが、なにかもっと重いものに変える予定です。捕まらない程度のものですが。

>単なる“不気味に年老いた子供”とでも言いますか。

いわんとするところはわかります。
ですが、あのような「幼稚さ」は、子供からも卑怯者と非難されるような気がするのです。

投稿: 修理屋ア | 2008年7月29日 (火) 19時40分

>修理屋アさん

 なんか、ほんとに護身用の傘( http://www.real-self-defense.com/umbrella.html )ってのがあるらしいですね。仕込み杖とかなら銃刀法違反でしょうが、これなら大丈夫そう。

 この手の事件ばかりが続くと、マジで護身用の傘にしようかと思う今日このごろです。

投稿: 冬樹蛉 | 2008年7月30日 (水) 01時53分

連日、どーもです。

良さそうですけど高いですねー。
自分はカメラ用の一脚にしようかと思ってます。
カバンに入れるのに丁度いいし、カメラも持ち歩いているのでいいわけ(^^;)もたつし。
ちなみに私のカバンは、昔の医者のカバンみたいな形で、ワンアクションで口が広く開き、中の物をさっと取り出せます。

なんか、この会話が護身具おたくのよた話じゃないのが悲しいですね。

投稿: 修理屋ア | 2008年7月30日 (水) 20時17分

>修理屋アさん

 護身用具にあまり凝っても、こちらがあんまり非力だと敵に奪われてしまう危険があるわけで、つまるところ、護身用具を有効に使うには、自分も鍛えておかんといかんということでしょうけどねえ(^_^;)。剣を取る者は、剣にて滅ぶ。

投稿: 冬樹蛉 | 2008年8月 5日 (火) 00時53分

この話題はもう終わり、と思っていたのですが、
私の行動範囲で、また刃物男が現れました。
東京虎ノ門のアメリカ大使館前で日本刀振したみたいです。
この門の前、毎日通勤で通ってます。
こんどは20分違いで遭遇するところでした。
この犯人は一般人狙いではありませんが、ほんとにちゃんと考えておく必要がありそうです……。

投稿: 修理屋ア | 2008年8月12日 (火) 18時49分

>修理屋アさん

 なんとねえ、ずいぶん物騒な運に恵まれて(?)らっしゃいますね。東京さは怖いとこだべ。特殊警棒とかスタンガンとかは携行を検討すべきかも。もっとも、人が銃持ってるから自分も銃持たなきゃみたいなとこまでいくと、バカなアメリカ人どもと同レベルになっちゃいますしね。

投稿: 冬樹蛉 | 2008年8月14日 (木) 01時50分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/161330/41649948

この記事へのトラックバック一覧です: 悪人なおもて説明される、いわんや善人をや:

« 旅の恥は書き捨て? | トップページ | 産地はどこか、前へ回ってウナギに訊いてくれ »