『A Long and Winding Road』(Maureen McGovern/P.S. Classics)
押しも押されぬ“ストラディヴァリウス・ヴォイス”、モーリン・マクガヴァンの懐メロカバーアルバム。六〇年代から七〇年代にかけてヒットした、アメリカ人なら誰でも知っているようなオヤジ世代の青春の名曲を、モーリン・マクガヴァンが非の打ちどころのない歌唱力で聴かせてくれる。アレンジもグー、グ、グーな大人の一枚である。
その歌唱力がジャンルを選ばないというか、その人が歌うとジャンルのほうに箔が付くくらいの、シンガーにとっての“大自在の境地”というのは、アメリカならモーリン・マクガヴァンのために、わが国なら美空ひばりのためにあるような言葉で、いや、このアルバムでまたまたモーリン・マクガヴァンに惚れ込んじゃいましたねえ。
ジョニ・ミッチェル、ジミー・ウェッブ、ローラ・ニーロ、ボブ・ディラン、ポール・サイモンといったラインナップは、じつのところ、おれの世代ではあとから追いかけた古典であって、リアルタイムの思い出に刻まれているわけではないのだ。ジョン・レノン、ポール・マッカートニーくらいになると、自分史のアルバムにBGMとして流れてくるけどね。とはいえ、どの曲も、洋楽ファンならどこかで聴いたことがあるようなものばかり。SFファン的には、The Moon's a Harsh Mistress なんてのも楽しい。曲のほうをハインラインの小説のあとに知りましたけどね。
おれはたぶん、歳のわりには、自分にとってのリアルタイム以前の洋楽懐メロを意識的に聴いているほうだと思うから(カーペンターズと小林克也のおかげだ)、モーリン・マクガヴァンの声で懐メロが聴けるこのアルバムにはゴキゲンなのだが、本来は、日本に於ける“団塊の世代”にとってこそ、このアルバムの選曲はストライクゾーンなのだと思う。
いやしかし、モーリン・マクガヴァンという歌手はすばらしいですなあ。たいていの歌手は、“おいしい”音域とあまり得意でない音域があるもんだが、モーリンにそんなものはない。どの音域も完璧。ストラディヴァリウスと讃えられるゆえんである。むかしのフォーク風から、堂々たるバラード、遊び心たっぷりのジャジーなアレンジまで、それが“歌”であるかぎり唄えないジャンルはないのではないかと思う。ビートルズ・ナンバーの Rocky Raccoon は、とくにすごかった。
若い人にはピンと来ないとは思うが(でも、いいもんは年齢に関係なくわかる)、四十代後半以上の洋楽ファンには、涙がちょちょ切れるアルバムでしょう。それにしても、日本のレコード会社は、なんでこういうのを出さないのかねえ。これからの時代は、音楽産業もおじさん・おばさん、爺さん・婆さんがターゲットなんじゃないの?
【収録曲】All I Want/America, The Times They Are a-Changin', The Circle Game, The 59th Street Bridge Song (Feeling Groovy), Cowboy, The Coming of the Roads, Will You Still Love Me Tommorow?, Shed a Little Light/Carry It On, The Fiddle and the Drum, Fire and Rain, Rocky Raccoon, Let It Be, By the Time I Get to the Phoenix, MacArthur Park, The Moon's a Harsh Mistress, And When I Die, Imagine, The Long and Winding Road
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