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2008年4月19日 (土)

鏡に不細工な自分が映っていたら、それは鏡が悪いのかね?

「アマゾン」の商品検索で 自殺に必要な品一式表示 (J-CASTニュース)
http://www.j-cast.com/2008/04/16019103.html

入浴剤と洗浄剤を混ぜ合わせてガスを発生させ、これを吸って自殺するケースが社会問題化している。たとえば、「アマゾン」で問題の入浴剤を検索すると、関連商品として、自殺に必要な品一式が表示される。ネット上には「これは自殺の勧めだ」という批判が出ている。

 こ、これは、アマゾンやら、「自殺に必要な品一式」に含まれるアイテムの各メーカーを批判したってしようがないでしょう。とばっちりもいいところだ。

 おれはむしろ、この記事を読んで、アマゾンの協調フィルタリング技術というのは、なかなか大したものだという印象を受けたけどね。ちゃんと動いて機能しとるなあと。

 たとえば、ハンマーで自分の頭を殴って自殺するという豪快な方法が一時的に流行したとすると、ふだんアマゾンを利用している自殺志望者はハンマーについてアマゾンであれこれ検索して自殺に適したハンマーを見繕い、また、書籍のコーナーでは自殺の方法についての本をあれこれ検索して研究することだろう。そういう自殺志願者が増えてくると、ハンマーと自殺方法についての書籍の相関が強くなってゆき、カスタマプロファイリングの有為なパラメータとして機能するようになってゆく。そうなると、単に家の棚を修理したくてハンマーを探している人に対しても、「自殺本はいかがですか?」と薦めてくるようになってしまうはずだ。たいていの人は、「なんで自殺本なんか薦めてくるのだろう?」と不可解に思うだろうが、“最近ハンマーで自分で自分の頭を殴って自殺するのが流行している”ということを知っている自殺志願者は、すすめられたアイテムをクリックして眺めてみたりする。するとさらに、ハンマーと自殺の相関は高くなってゆき、“ハンマーに興味を持つ人は自殺にも興味を持っている”と、システムがあたかも認識しているかのようなふるまいをする傾向が強くなってゆく――というわけである。つまり、端的に言うと、ハウリングを起こしているようなものだ。アマゾンが表示してくる“おすすめ”といったところで、その“おすすめ”の過程に人間は一切介在していない。ひょっとすると、電車に飛び込んで自殺したいと思ってアマゾンで調べる利用者が増えると、電車と自殺の相関が高くなり、アマゾン(のシステム)は鉄道模型と自殺本を薦めてくるかもしれないわけだ。つまり、アマゾンの利用者の中で特殊な動機を持つ人々のアマゾンでの操作履歴が、たまたま特定の目的に使えそうなアイテム同士の相関を、あたかもハウリングのようにぐんぐん高めてゆくことになる。

 この記事が取り上げている“事件”が示すのは、単に、硫化水素で自殺したがっている人も、相当数アマゾンの利用者であるということにすぎない。

 極端な話、SFの読みすぎで自殺するという方法が流行した場合(流行せんとは思うが)、アマゾンはアーサー・C・クラークの本を検索して買おうかどうか迷っている人に対して、『完全自殺マニュアル』を薦めてくるように動作する可能性が高い。もし、アマゾンで薬品や医療器具を売っていたとしたら、塩化カリウムを買った人に対して、アマゾンは注射器や自殺本を薦めてくるように動作するかもしれない。

 アマゾンが自殺を薦めてくるかのように見えているのは、単に世間の流行を忠実に反映し、その傾向を強化する方向へとデータを表示してくるからというだけのことである。つまり、アマゾンのシステムが自動的に行なっていることは、一種の報道と見ることができる。テレビの選挙予測報道が投票行動に影響を及ぼしてしまうのにも似た、ハウリングが起こっているのである。

 旧来のマスメディアもネットも、そのようなハウリングを生む媒体特性を内包している点に於いては変わらない。問われているのは、意識を持たず機械的なアルゴリズムで動いているだけのシステムが出してくる程度の情報に惑わされないための、利用者側のリテラシーだ。

 聖書で自分の頭を殴って死ぬという自殺方法が一時的なファッションとして流行すれば、アマゾンは、聖書を買った人に自殺マニュアルを薦めてくる可能性が高くなるだろう。つまるところ、協調フィルタリングによるレコメンデーションというやつは、“あなたに似た人と推測される人はこんなことをしていますが、あなたはそれをただただ真似しますか?”と言っているに等しいわけだ。真似したほうが便利だと思えば、機械のおすすめに従えばいいだろうし、「ふざけたおすすめをしてきやがる」と思うのならば、逆らえばいいだけの話だ。利用者の意志こそが最も問われている局面で、責任を機械になすりつけても虚しいことだ。

 もっと単純に言えば、「おまえはアマゾンが死ね言うたら死ぬんか?」という問題にすぎない。死ぬか、そんなもん。おれにはおれの意志があり、おれにはおれの考えがある。おれが死んで喜ぶやつに、おれのオールは任せない。アマゾンに文句を言うのは、どう考えてもお門ちがいだと思うのだがどうか。



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コメント

>ネット上には「これは自殺の勧めだ」という批判が出ている
開発者にとっては、これは批判などではなく賛辞ですよねぇ。
Amazonのサイトへ行くと「今から検索して買おうと思っていたモノ」がすでにおすすめ商品として表示されていたりして、思わず後ろを振り返って「どこからか見られてるんじゃないか」と確認してしまうことがあります。
Amazonのシステムがすごいのか、我々の趣味嗜好や行動パターンが単純すぎるのか、いづれにしてもこういう現象を趣しろいという視点から見ることができずに「不謹慎」で片付けてしまうのは、もったいないことだよなぁ。

投稿: koga | 2008年4月21日 (月) 01時42分

>kogaさん
>いづれにしてもこういう現象を趣しろいという視点から見ることができずに「不謹慎」で片付けてしまうのは、もったいない

 ほんに。情報処理技術的にはもちろん、社会学的にも心理学的にも哲学的にも面白いですよねえ。なんであれ、人生短いんだから、楽しめる面を見つけたもんの勝ちです。ちりめんじゃこには、いつか必ずちりめんタコ( http://ray-fuyuki.air-nifty.com/blog/2006/11/post_4f2a.html )が入っているものです。

投稿: 冬樹蛉 | 2008年4月22日 (火) 01時28分

冬樹蛉様

 Amazonで「○○さんおすすめのページ」を開くと、ずらっとシリーズものが並んでいることがあります。たいていその中の一冊を「すでに持っている」にチェックした際にこうなるのですが、それがコミックの30巻もあるようだと、もういちいち「すでに持っている」にチェックするのが面倒で、面倒で。
 こんなときに、それぞれの関連性をランク付けして、もっとも関連性の高いものは表示をはずせるようにするボタン(別名「もうそれは持っているよボタン」)をつけておいてくれないでしょうか。そうすれば、そのボタンを押しておくと、シリーズものは表示からはずれるでしょうし、くだんの入浴剤を注文しても、おすすめリストからは関連商品ははずれるでしょうし、めでたし、めでたし。
 ・・・・・・・・・・・・・アレ?

投稿: いぎたなし | 2008年4月25日 (金) 22時29分

>いぎたなしさん
>いちいち「すでに持っている」にチェックするのが面倒で、面倒で

 ああ、たしかにそういうことはありますねー。『こち亀』や『ゴルゴ13』だったらたいへんでしょう。

>「もうそれは持っているよボタン」

 それはいいアイディアかもしれません。アマゾンに提案してみてはどうでしょうか? でも、たとえば、膨大な既刊が出ているシリーズの新刊が出たときに、案内してもらえなくなるかもしれません。

投稿: 冬樹蛉 | 2008年4月27日 (日) 04時24分

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