「これにより」って、なんによるんだよ?
これはおれだけなのかなあ? いや、最近「これにより」って表現が気になってしかたがないのよ。「これにより、なになにが可能になりました」みたいな文脈で近年非常にしばしば目に耳にするようになったのだが、むかしはこんなのこれほどしょっちゅう使ってたかなあ? べつに日本語として文法的にまちがっているわけではないよ。でも、昨今の使われかたを見ていると、なんだか“思考が雑”みたいな気がするんだなあ。つまり、“これ”が指すものが非常にあいまいなケースが多い。そこまでの文脈をな~んとなく受けるといった感じで野放図に“これ”を使っている例にたびたび遭遇する。
たとえばどんな例かと言われるとすぐ思いつかないので、いかにも作りましたという例を作ってみよう。
「2に2を加えると4が得られる。これにより……」みたいな例だ。この場合、“これ”はいったいなにを指しているのだろう? 最初の2か、二番目の2か、4か、“2に2を加える”という操作か、それとも“2に2を加えると4が得られる”ということそのものか? おれが細かいことを気にしすぎるのかもしれんが、むかしはこういう場合、「2に2を加えると4が得られる。この操作により……」といったような、対象をはっきり絞り込むような表現が好まれていたように思うのだ。だいたい、「これにより」なんてのは、文法的には正しいかもしれんが、思考が大ざっぱすぎて気色悪いと思いませんか? 頭の中で文章を組み立てるときの怠慢としか思えない。英語で、ただ by this なんて言われたら、すごく違和感がある。this なんだよ、と思ってしまう。by this operation とか with this method とか through this procedure とか、もっとこう、誤解を避けるような補足的な名詞がつくのが自然じゃないか。おれの思考が英語に汚染されすぎているのかもしれんが、日本語としても、あまりに曖昧すぎて気色悪くないすか?
おそらく、このあまりに曖昧な「これにより」により、世間ではかなりコミュニケーションの齟齬が生じているのではないかと思う。言うほう、書くほうは、“これ”がピンポイントになになのかについて深く考えずに感覚的に使っており、聞くほう、読むほうも、「たぶん“これ”とは“ここいらあたり”のことだろう」と、大ざっぱに捉えてよしとしているため、とんだ誤解が生じる可能性を孕んでいるのではあるまいか。
そこでおれは“「これにより」をできるだけ使わない運動”を呼びかけたい。「この○○により」と言い換えたほうがよいと思う。もし言い換えられなかったら、それは思考が粗雑なままものを言おうとしているのである。ちゃんと明晰に思考しているのなら、「この方法により」とか「この新技術により」とか、いくらでも対象を絞り込んだ言い換えが可能なはずだからだ。
じつは、最近この「これにより」が非常にしばしば登場するのは、技術分野の報道原稿や、テレビのニュース原稿なのである。ロジックではなく雰囲気で文章を書いているとしか思えない。むろん、ロジックより雰囲気や感性(?)を優先して書くべき文章はある。だが、報道はロジックを明確にすべきだ。「これにより」を多用して、雰囲気でお茶を濁しているような文章を書いているあなた、いっぺん自分に「これにより」禁止令を発令して、ちゃんと文章が書けるかどうか、試していただきたい。
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