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2008年3月 9日 (日)

山中伸弥教授がカッコよかった『サイエンスZERO』

 このところいろいろとバタバタしているので周回遅れで録画を観ている『サイエンスZERO』、今回のお題は「夢の万能細胞に挑む」。人間の皮膚から万能細胞「iPS細胞(induced pluripotent stem cell)」を造り出した時の人、京都大学再生医科学研究所の山中伸弥教授がゲストだというので興味津々。このあたりが痩せても枯れても腐ってもNHKだ。

 山中教授はおれと同い年なのである。SFギョーカイで囁かれる“魔の1962年生まれ”だ。遅かれ早かれ、ノーベル医学・生理学賞を取るにちがいない。いやまったく、おれは生まれて四十五年間もぼけーっといったいなにをしておったんだろうねと思わされますなあ。

 まあ、あくまでテレビで観た感想ではあるが、実直を絵に描いたような人ですな、この先生は。すごい科学者というと、なんとなくエキセントリックな天才肌の人をステロタイプとして連想してしまうのだが、山中教授はそんな感じではない。やるべきことをこつこつこつこつこつこつこつとやってきたからこそ、人のやれない仕事にたどり着いたという感じだ。

 山中教授の態度や雰囲気は、昨日もネタにした『生物と無生物のあいだ』がとくに共感を込めて讃えている、大発見の一歩手前でそのジャンプ台を地道に作った陰の英雄とも言うべき報われなかった偉大な科学者たち――DNAこそが遺伝子の本体であることを地道に解き明かしたオズワルド・エイブリーや、X線結晶学を武器にDNAの二重螺旋構造解明に繋がる写真を撮影していた夭逝のロザリンド・フランクリンなどなど――を連想させる。華々しい天才という感じがしないのだ。きっと山中教授自身も、「おれは生物学に巨大な足跡を記した大天才である」などとは、微塵も思ってらっしゃらないことであろう。ただ、地道な探求を通じて養われた prepared mind に来るべくして来るアイディアが降ってきて、自分以外の誰に訪れても不思議はなかったかもしれぬ僥倖がやってきた程度にしか考えてらっしゃらないのではなかろうか。むろん、そのような僥倖を掴める状態に自分を持ってゆき、それを維持できることが、客観的に見ると、とんでもなく非凡な才能なのである。

 「人の役に立ちたい」という元臨床医としての使命感を保ち続けて、(多くの場合はあまり報われることのない)基礎研究を地道に続けていらした姿にも頭が下がる。モーツァルトよりベートーヴェンが好きな人は、たちまち山中教授のファンになってしまいそうだ。いやあ、この先生がノーベル賞を取る日が楽しみだなあ。



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