CGMの資産価値
昨日ネタにした mixi の規約改定騒ぎだが、おれはたぶん mixi の法務担当者がとんでもなく顧客視点を欠いたアホか、そもそも法務担当がいないのであろうと推測している。つまり、mixi の今回の大ボケは、mixi がいよいよ肥らせたユーザを取って食おうと、かねてから周到に研いでいた邪悪な牙を剥いたなどという上等な事件ではなく、単に mixi が上場企業としては信じられないレベルの幼稚な体制しか持っていない(下手すると、笠原社長は新規約を見てもいない)といった程度の、“はらほろひれはれ”なポカミスなのではないかと疑っているのだ。新規約とやらは、若造が適当にコピペして作ったのではないかとすら思っている。
でも、もしそうではなく、一応ちゃんと考えて作って発表したのだとしたら、mixi はいわゆるCGM(Consumer-Generated Media ……って言葉は英語圏ではあんまり使われていないみたいなんだが)というものをまったく理解せずにそう呼ばれるサービスをうっかり提供してしまっているのではないかと思われる。
今回の事件を機に、CGMなるものの資産価値は那辺にあるのかを、改めて考えさせられた。ユーザが作ったコンテンツに資産としての価値があるのか? いや、ちがうちがう。そう勘ちがいしがちだが、そうではない。コンテンツは、CGMの副産物あるいは老廃物にすぎないのではあるまいか――そう考えてゆくと、CGMの本質は、昨年のベストセラーにちゃんと書いてあった。なにしろベストセラーであるから、相当多くの人がすでに読んでいるはずなのだ。ちょっと長くなるが、あえて引用しよう。これこそ、CGMの本質、CGMの価値である。
さらにシェーンハイマーは、投与された重窒素アミノ酸が、身体のタンパク質中の同一種のアミノ酸と入れ替わったのかどうかを確かめてみた。つまりロイシンはロイシンと置き換わったかどうかを調べたのである。
ネズミの組織のタンパク質を回収し、それを加水分解してバラバラのアミノ酸にする。二十種のアミノ酸をその性質の差によってさらに分別する。そして各アミノ酸について、重窒素が含まれているかどうかを質量分析計にかけて解析した。確かに実験後、ネズミのロイシンには重窒素が含まれていた。しかし、重窒素を含んでいるのはロイシンだけではなかった。他のアミノ酸、すなわち、グリシンにもチロシンにもグルタミン酸などにも重窒素が含まれていた。
体内に取り込まれたアミノ酸(この場合はロイシン)は、さらに細かく分断されて、あらためて再分配され、各アミノ酸を再構成していたのだ。それがいちいちタンパク質に組み上げられる。つまり、絶え間なく分解されて入れ替わっているのはアミノ酸よりもさらに下位の分子レベルということになる。これはまったく驚くべきことだった。
外から来た重窒素アミノ酸は分解されつつ再構成されて、ネズミの身体の中をまさにくまなく通り過ぎていったのである。しかし、通り過ぎたという表現は正確ではない。なぜなら、そこには物質が「通り過ぎる」べき入れ物があったわけではなく、ここで入れ物と呼んでいるもの自体を、通り過ぎつつある物質が、一時、形作っていたにすぎないからである。
つまりここにあるのは、流れそのものでしかない。
ユーザが作ったコンテンツがCGMの資産価値だと思うのは、アミノ酸やタンパク質やDNAに蓄えられている情報が生命の本質だと思い込むようなものだ。ちゃうちゃう。そこにある“流れそのもの”がCGMの資産価値なのである。
CGM(って言葉自体、おれはあんまり好きじゃないけど)を“マネタイズ”したいと考える企業家たちは、基礎教養として生物学を学ぶべきではないかとすら、おれは本気で思う。うまくすれば、大腸菌に人間にとって有益な物質を作り続けさせたり、DNAに演算をさせたりするようなことが、CGMを利用したビジネスモデルにも可能であるかもしれないじゃないか。
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コメント
じつは昨夜、夢枕漠さんとか永瀬唯さんらと発生学について話していたのですが、そのメカニズムを人間の組織マネジメントに降ろすことができれば、画期的なマネジメント手法になるんじゃないだろうか、と思いましたよ。
投稿: 林 譲治 | 2008年3月 8日 (土) 21時48分
mixiの「経営管理本部長 兼 コーポレートデザイン室長 兼 広報IR部長 兼 法務部長」
http://eir.eol.co.jp/EIR/View.aspx?cat=tdnet&sid=565495
は、このような方
http://rikunabi2009.yahoo.co.jp/bin/KDBG00700.cgi?KOKYAKU_ID=1887692001&MAGIC=&FORM_ID=K103
のようです。
投稿: バラライカ宮崎 | 2008年3月 9日 (日) 00時45分
>バラライカ宮崎さん
「同じ失敗は2度繰り返さないよう、しっかり学習することは言うまでもありません」とのことですので、そのようにしてもらいたいものです。一歩進んで、他社がすでにやったような、顧客視点ではおなじみの失敗を繰り返さないように心がけると、もっといいと思います。
投稿: 冬樹蛉 | 2008年3月 9日 (日) 00時50分
>林譲治さん
林さんのことですから、こういうことは四六時中考えているにちがいないと思っていました。なにしろ“組織”というくらいですから、生物という、とても実績のある存在に学ぶことは、いくらでもありそうに思うのです。本質的に control に逆らう存在のダイナミズムを殺さないように manage できるような仕組みを administrate する方法論や哲学を編み出すというのは、インターネットにかぎらず、二十一世紀の組織にとっては焦眉の急の最重要課題でしょうね。つくづく、ドラッカーは偉かったと思います。
投稿: 冬樹蛉 | 2008年3月 9日 (日) 00時59分
ネズミ(あるいはヒト)という一匹の生物はまた、生態系という大きな流れの中の一部なのであります-あれ、関係なかったかな?
投稿: 村上 | 2008年3月10日 (月) 16時03分
>村上さん
いやまあ、それを言うと、森羅万象あらゆるものは大きな流れの一部なので、はなはだ仏教的な話になってしまうのです(^_^;)。極論しちゃうと面白くないので、“さしあたり、どのレベルの系を念頭に置くか”を柔軟に使い分けるのが、楽しく生きるポイントなんじゃないかと思います。
投稿: 冬樹蛉 | 2008年3月11日 (火) 00時05分