ひらかたパークと村上ショージの親和性
ちょっと前から京阪電車の利用者を苦笑させているのが、ひらかたパーク(の屋外スケートリンク)の、この広告――「すくなくとも村上ショージよりは、絶対おもしろい。」
「すくなくとも村上ショージよりは、絶対おもしろい。」というのが、いったい全体、どのくらいの面白さを保証しているものなのか、人は一瞬理解に苦しむ。村上ショージという人は、“面白くない芸人の代名詞としていじられるさまがそこそこ面白い”という、非常に特殊なニッチを確立している人である。それを利用した広告では、すでにミスタードーナツのCM「敏感」篇がおなじみだ。師匠らしき村上ショージのもとに、相武紗季がドーナツを手土産にやってくる。相武は「つまらないものですが……」とドーナツを差し出すのだが、村上はなぜか「つまらない」という言葉に異常に敏感になっていて、相武が「つまらない」というたびにいちいちビクビクするのであった。
ひらかたパークの広告は、このストレートなCMのさらに上を行っている。「すくなくとも村上ショージよりは、絶対おもしろい。」というのは、その言明のレベルで解釈すれば、“最低保証の水準が低い”と言っていることになってしまうのであるが、「すくなくとも村上ショージよりは、絶対おもしろい。」という札を掲げて広告に出ている村上ショージは充分面白いので、メタレベルで考えると、ひらかたパークはかなりの面白さをアピールしているということになる。村上ショージという芸人は、その面白さを“面白くない芸人の代名詞として人口に膾炙している”という点に依っているところ大であるから、芸能界における存在様態がそもそも多分に自己言及的なのである。その自己言及的芸人がおのれの自己言及的なありかたにさらにメタレベルから言及するさまそのものが、最初の自己言及に反する面白さを醸し出してしまう。えーと、ついてきていただいているでしょうか? なにやら自分でも言ってることがこんがらかってきたが、とにかくまあ、関西ではここまでやるのである。こういうのは「クレタ人広告」とでも名付けたいね。
ここ十年ばかり、ひらかたパークのブランディングのベースにあるのが、ほかならぬこの自己言及による開き直りだ。ずいぶんむかしにも書いたが、みずからを「ひらパー」などとビミョーにスベった名で呼び、“背伸びしてかっこよく見せようとしている姿がもののみごとにスベっている(と自分でわかっている)イメージ”を開き直って打ち出したあたりから、ひらパーは化けた。遊園地として煮え切らない中途半端な存在であることを、“強み”としてポジティブに打ち出したのである。つまり、村上ショージとひらパーは、その“強み”の構造が非常に似通っていて、とても相性がいいのだ。ひらパーが村上ショージを起用したのも、むべなるかなである。
ちなみに上のポスターで村上ショージのうしろをなにげなく滑っているのは、「ピピン」というマスコットキャラクターである。最初に見たとき、「ああ、ひらパーがまたやっとる」と思った。作ったように(作ってるんだが)“昭和の薫り”が漂う、いかにも遊園地のマスコットでございますと言いたげな時代錯誤なキャラなのだが、キモカワやらヌルキャラやらがあまりに当然のものとして巷に溢れているこのご時世に「ピピン」をぶつけられると、あまりの開き直りに笑ってしまう。どこかねじ曲がった歪んだキャラが受ける時代だからと、どんどんねじ曲がった、歪んだ方向に考えた結果、三百六十度ねじ曲がってしまいましたーというわけなのだろう。この「ピピン」にも、“遊園地のマスコットキャラクターなるもの”をメタレベルからくすぐった自己言及的な構えがある。ひらパーの広告を仕掛けている、才能豊かなねじ曲がった連中の“どや顔”が目に見えるようだ。
なんだかんだ言って、おれはひらパーの広告が好きである。次にどんな手でおれを感心させてくれるのか、楽しみにしているのだ。京阪神に住んでいてよかった。
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コメント
この人がいるから、たむけんとかトミーズ健が存在できるんでしょうか?
投稿: 林 譲治 | 2008年2月 2日 (土) 22時12分
そうですか、いろんな遊園地が閉鎖しまくる昨今、ひらパーがんばってますね~
私が大阪にいた頃は「ひらパー、ひらピー、ひらポー」ってCMでしたね。
プーとぺーはどこに行ったのかと夜も眠れませんでした
投稿: モりやま | 2008年2月 2日 (土) 22時42分
>林譲治さん
たむけんは副業がありますし、トミーズ健は相方があります。村上ショージの偉大なところは、“面白くない”というところをウリにして、厳しい芸能界でちゃんと生き残ってきているところですね。ほんとうに面白くないんだとしたら、そんなことはとてもできないでしょう。
>モりやまさん
ひらパーはがんばってますよ。村上ショージ起用の前から、テレビCMの最後では「続きはウェブじゃなくて……」などとほざいて、視聴者をずっこけさせていました。上記のピピンが出てくる「CMギャラリー」に、「注)WebにCMの続きは本当にありません。(ごめんなさい!!)」と書いてあるのは、そういうわけなのです。
投稿: 冬樹蛉 | 2008年2月 5日 (火) 01時56分