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2007年12月15日 (土)

絶滅危惧フレーズIA類

 この時節ともなると、夜には拍子木の音と共に火の用心を呼びかける声が聞こえてくる。子供はああいうのが好きで、大人と一緒に大声を張り上げて夜回りをしていたりする。おれも子供のころはよく町内の大人について回って拍子木を打たせてもらったりした。

 今日も夜回りの声が聞こえてきて、「ああ、またやっとるな」と本格的な冬の到来をしみじみと味わっておったのだが、ふと、あることに気づいた。違和感がある。なにかが足りない。なんだかまぬけな感じだ。あれはもはや、おれが子供のころにやった夜回りではない。

 「火のよーじん!」

  (カチ、カチ)

 「火のよぉ~じん!」

  (カチ、カチ)

 「火のよーじん!」

  (カチ、カチ)

 「火の……」


 えんえんとそれだけかい!?

 「マッチ一本火事の元」はどうした? あれが入らんと、メリハリというものがないではないか――。

 そこでおれは愕然とした。

 おれはもう何年もマッチというものを使っていない。煙草を吸うにもかかわらずだ。

 そうか。『ダイヤルMを廻せ!』だ。「マイ・ピュア・レディ」だ。「このテープは自動的に消滅する」だ。つまり、今の子供には「マッチ一本火事の元」と言ったって、そもそもなんのことかわからないのだろう。その可能性は高い。大人にしたって、そのフレーズは知っていても、今の世で“お約束”としてそんなことを大声で言うのがはばかられるのにちがいない。

 うーむ。

 しかし、これは由々しきことである。夜回りのかけ声の存亡にかかわる問題である。だいたい、「火の用心」ばかりをただただ阿呆陀羅経のように「ヴェクサシオン」のように繰り返されたのでは、どうにも気色が悪い。日本の伝統藝能(?)の危機である。二十一世紀に生きるおれたちは、「マッチ一本火事の元」に代わり得る、防火の心構えの本質を端的に剔抉した語呂のよいコピーを産み出さねばならない。

 「ライター一個火事の元」では、むろんサマにならない。そもそも、ライターそのものは、あんまり火事の元になったりしないだろう。現実的なのは、それこそ「煙草一本火事の元」だが、これでは非喫煙者がかえって火の用心をしなさそうで具合が悪い。いずれにせよ、「マッチ」という緊張感のある語感とタメを張るのは、ちょっと難しい。

 どうしたもんでしょうなあ。



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コメント

ということは…マッチポンプという言葉も失われてしまっているんですね。
でも代替する言葉が見つからないなぁ。

投稿: 久枝アリア | 2007年12月15日 (土) 09時55分

はじめまして。毎度楽しく拝読しております。
当方の近所の夜回りでは「焼きいも焼いても家焼くな」と続きます。
けど、焼きいもを自宅で焼くのも既に一般的でなくなりつつあるようで、
ほかにもたこ焼きやサンマなど地域ごとにバリエーションがあるみたいです。

投稿: 椎葉たけし | 2007年12月15日 (土) 11時10分

 しかし考えてみれば、マッチが一般化してから作られたものですから、そんなに昔のものでもないのですね。
 上方落語の「二番煎じ」は町内の皆が火の用心に回る噺ですが、「マッチ一本」に相当するようなフレーズは出てきてないと思います。誰が考えたのかなあ。名コピーですね。
 あ、うちは「サンマ焼いても」と続いてました。あれは火事と間違えるくらい煙が出るし、実際に油が出て本格的に燃えたりするからでしょうか。

投稿: 北野勇作 | 2007年12月15日 (土) 14時33分

あとから気づいたのですが「○○焼いても」のフレーズはやっぱり日本食研のCMが元なんでしょうか。
すると本来の元ネタは焼肉であって「焼きいも」のほうが突然変異的なバリエーションなのかもしれません。

投稿: 椎葉たけし | 2007年12月15日 (土) 18時26分

火の用心の夜回りは、江戸時代から続いている風習だそうです。
江戸時代にマッチがあるはずもありませんので調べてみますと…
ありました。
http://rakugo.txt-nifty.com/kamigata/cat4257355/index.html
> ●笑福亭松鶴「市助酒」
> 酒に酔って火の用心の夜回りをする市助が、くどくど「火の
> 用心お頼の申しまっせぇ」を繰り返すのに「いっぺん言ぅた
> ら分かったぁる、どびつこい」と言葉を荒げた番頭を「船場
> の番頭さんがそんな荒くれない言葉使う人があるかい」大旦
> 那がとがめる。
だそうです。
そういえば昔時代劇で「火の用心、さっしゃりまーせー」と繰
り返していたのが、ありましたです。

投稿: いかなご太郎 | 2007年12月15日 (土) 20時09分

一方、チャンネルを「回す」とか、ワードの保存アイコンがフロッピーだったりとか、ひっそりと生き長らえているものも。

投稿: ふみお | 2007年12月15日 (土) 23時48分

私も最近ブログ始めました。よろしくお願いします。

投稿: ずーさん | 2007年12月16日 (日) 11時37分

「火事1件、地球が温暖化」とかやると教育的かも知れない。

投稿: アダチ@初音ミク中毒 | 2007年12月17日 (月) 00時14分

昔住んでた京都北区では
「火のーようーじん、さっしゃりまーしょーぅ」
と言ってたような記憶が。

投稿: いまは東京 | 2007年12月17日 (月) 01時36分

「マジでいっぺん 死んでみる?」
逆に町内が火の海になりそうな気がします。
「マッチよっちゃん 勝ち組だ」
いまひとつ火災予防を促す感じがしません。

投稿: mofmof | 2007年12月19日 (水) 04時46分

>久枝アリアさん

 マッチどころか、井戸なんてものをあんまり見たことがない現代っ子は、「ポンプ」と言っても、なにやらでかい機械をイメージするかもしれませんね。「マッチポンプ」のポンプは、むかし庶民の日常にあったポンプ、つまり、井戸のポンプのことなんでしょうし。


>椎葉たけしさん

 私が子供のころに住んでいた界隈では、サンマ派でしたね。日本食研のCMが先ということは、いくらなんでもないです(;^_^)/。
 まあ、北野さんのおっしゃるように、誤通報で消防車が来たりするので、最近あんまりサンマも家で焼かないですね。ウチは団地なんで、サンマを家で焼く家庭はとくに少ないようです。


>北野勇作さん
>サンマ

 ほんとに消防に通報されて騒ぎになった例が、子供のころから数えると、近所で三、四例はありました。

>マッチが一般化してから作られたものですから、そんなに昔のものでもないのですね

 そうなんですよねー。どこかに最初に考えた人がいるはずなんですが、それがこれほど全国的に人口に膾炙しているのはすごいことです。おそらく、最初はラジオで広まったんじゃないかなあ。このコピーの伝播過程をあきらかにすれば、立派な考現学になりますね。インドの山奥ででんでん虫が転んで大事なところを擦りむいた歌の伝播過程の研究と同じくらい貴重な研究となることでしょう。


>いかなご太郎さん
>時代劇で「火の用心、さっしゃりまーせー」

 それそれ! それは時代劇で言ってますねー! なんとも言えぬ風情があって、いい文句ですなあ。「マッチ一本……」は、それに比べれば、味気ないかも。


>ふみおさん

 コンピュータの世界でも、改行(行頭復帰)コードがCR(Carriage Return)、行送りコードがLF(Line Feed)と呼ばれているのは、タイプライター文化の名残りです。若い人には、そもそも carriage とはなんのことやらわからないでしょう。多くの若者は、伝統的にそう呼ぶもんだと、さほど気にも留めずに覚えているんだと思います。むかしは、CR/LFには対応するハードウェアの操作があって、チーン! ガッチャン、カリカリッという皮膚感覚が伴っていたものですが、まあ、あんなものを懐かしがるのは年寄りだけで、やっぱりいまのパソコンのほうが便利です(笑)。


>アダチ@初音ミク中毒さん

 うーん、コピーとして語呂が悪いですねえ。


>いまは東京さん

 私は、東京都渋谷区で生まれて、幼いころに京都市東山区(のうち、のちに山科区になる区域)に移り、さらに伏見区に移ってずっと伏見に住んでいますが、そのような風情のある掛け声を実際に聞いたことはないです。やっぱり北区のほうは、古風なのかなあ。


>mofmofさん

 「マジでいっぺん 死んでみる?」ってのは、なかなか語呂がいいですね。ただ、大声で呼ばわるよりも、能登麻美子さんのウィスパーヴォイスで耳元に囁いてほしいかも。


 

投稿: 冬樹蛉 | 2007年12月22日 (土) 05時20分

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