盗っ人を刑事告発しない市長のつくりかた
「市長、警察の方がお見えです」
「お通ししなさい」
「ああ、市長、先日この男を微罪で捕まえたところ、年金を着服していたことを自白しましてな――ほらっ、顔を上げんかっ! 盗んだ金は累計で三十万くらいになるそうです」
「申しわけありません、市長。多かれ少なかれあちこちでやってるもんですから、つい出来心で……」
「あなたはなにを言っているのですか? その年金はあなたに差し上げたものじゃありませんか」
「え、ええっ!?」
「そうそう、あなたは忘れものをなさってましたよ。よっこらしょっと……ほら、税金で買ったこのふたつの銀の燭台もあなたにあげたじゃありませんか。持っていってくださらないと困りますなあ」
「いやしかし、市長、この男はたしかに――」
「私があげたと言っているんだから、なにか問題でも? この人は罪人なんかじゃありません。さっさと手錠をはずしてあげなさい」
市長の慈悲に打たれた男は心の底から悔い改め、まじめに働いて、ついに市長になった。
「市長、警察の方がお見えです」
「お通ししなさい」
「ああ、市長、先日この男を微罪で捕まえたところ、年金を着服していたことを自白しましてな――ほらっ、顔を上げんかっ! 盗んだ金は累計で三百万くらいになるそうです」
「申しわけありません、市長。多かれ少なかれあちこちでやってるもんですから、つい出来心で……」
「あなたはなにを言っているのですか? その年金はあなたに差し上げたものじゃありませんか」
「え、ええっ!?」
「そうそう、あなたは忘れものをなさってましたよ。よっこらしょっと……ほら、税金で買ったこの二十個の銀の燭台もあなたにあげたじゃありませんか。持っていってくださらないと困りますなあ」
「いやしかし、市長、この男はたしかに――」
「私があげたと言っているんだから、なにか問題でも? この人は罪人なんかじゃありません。さっさと手錠をはずしてあげなさい」
市長の慈悲に打たれた男は心の底から悔い改め、まじめに働いて、ついに市長になった。
「市長、警察の方がお見えです」
「(お、いよいよ来たな)お通ししなさい……」
かくして、年金や税金は、慈悲深い立派な市長を要請するための経費として、有意義に流用されているのであった――なわけねーだろ!
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コメント
考えてみると、もともとの「レ・ミゼラブル」でも、教会の燭台やら何やらは、信者から集めた寄付金等で購入しているのだろうから、司教の一存で泥棒にくれてやることはできないはずなんですよね。警官は撃退できても、教区民とか教会参事会員とかに、なんといって言い訳したんだろう(笑)(まあ、フランスの聖職者は、とんでもねー金持ちの家の出身者が珍しくないので、司教の個人財産で穴埋めしたのかもしれませんが)
投稿: クレイン | 2007年10月24日 (水) 17時01分
>クレインさん
>司教の一存で泥棒にくれてやることはできないはず
なるほど、言われてみればそうですよねー。そんなふうに考えたこともなかった(^_^;)。教区の人たちがあとで司教を猛攻撃して袋叩きにするバージョンも読んでみたいものです。
投稿: 冬樹蛉 | 2007年11月 5日 (月) 01時35分