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2007年9月 3日 (月)

完全剛体と宇宙の壊滅

 完全剛体というのは、永久機関と同じくらい魅力的な物理与太のネタである。そんなものはこの宇宙に存在し得ないということがわかっていながら、存在したら面白かろうとついつい考えてしまうからだ。

 物理に関心のない方にも話についてきてもらうために、簡単に説明しておこう。高校生程度の物理の問題に、「ただし、この物体は剛体とする」といった条件がついていることがある。ここで言う“剛体”とは、外からの力によって変形しない物体であるといった意味だ。完全剛体というのは、究極の剛体のことである。つまり、端的に言うと、“まったくたわまない物体”のことである。

 たとえば、完全剛体で作った長さ三十万キロメートルの棒があったとする。この棒の端をちょいと一センチ押してやると、もう一方の端が厳密に同時に一センチ動く。つまり、光ですら一秒かかる距離を、エネルギー(と情報)がゼロ時間で伝わることになる。この棒の端を硬い棒かなにかでカーンと叩いてやると、その“音”は、やっぱりゼロ時間でもう片方の端に伝わる。音波は疎密波だが、疎密波もなにも、この物体は疎にも密にもならない。片方の端の変化は、厳密に同時にもう一端に伝わるのだ。こんな物体が存在しては都合が悪いことは、どんな物理音痴の人にも即座に了解されるだろう。完全剛体というのは、その存在自体が絶対座標を意味し、その物体が占める領域内では時間も空間も意味を失い、たちまち相対性理論に抵触するわけである。

 しかし、だから完全剛体は存在しないでは、SF的に面白くない。この宇宙には存在し得ないからこそ、存在したらどうなるかを考えたくなるのがSFファンというものである。で、今日も今日とて酒の肴に考えていた。もしかしたら、エヌ氏が完全剛体を発明したその瞬間に、この宇宙はたちまち“絶対宇宙”になってしまうのではあるまいか?

 「やったぞ! ホニャペレルカをソバジョラルテして、完全剛体を発明したぞ!」

 と、エヌ氏が叫んだ瞬間、この宇宙は、つじつまを合わせるために、一瞬にして、ひとつの均質な完全剛体になってしまうのではあるまいか? いやべつに確固たる理由があるわけではないのだが、なんとなくそんな気がする。自然はけっこう律儀なので、そんなふうにふるまいそうな気がするだけだ。

 もしかしたら、われわれの知っている宇宙の“外側”には完全剛体でできた絶対宇宙があって、絶対宇宙は隣接する(?)相対宇宙を“一瞬にして”自分たちの側に取り込んでいっているのではあるまいか? 異なる数学とわれわれの数学とのせめぎあいを描く、グレッグ・イーガン「ルミナス」のように……。

 だとしたら、絶対宇宙がわれわれの相対宇宙に“感染”してくるスピードはどれくらいなのだろう? その“界面”が迫ってくるスピードは? 絶対宇宙の側から見るとゼロ時間だが、われわれの宇宙の側から見ると光速を超えることはないというケッタイなことになるのかもしれない。というか、もしその界面が光速以上で迫ってくるように観測されたとすれば、観測者はすでに完全剛体になりかかっているのだ(?)。

 いやまあ、酒飲みながら書いてる与太だから、あんまり本気で考えんように。SFファンというのは、酒飲むと、こういうことばかり思いつくのである。



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