『字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ』(太田直子/光文社新書)
いやあ、こんな愉快な本を見逃していたとは不覚であった。字幕翻訳家が書いた本だから外国語の話がたくさん出てくるのかと思いきや、これは“字幕屋”としての視点から著者が捉えた、現代日本語への抱腹絶倒のツッコミ集なのである。おれは太田直子と年齢が近いせいか、言語感覚が似ていて、大笑いしながら「うんうん、あるあるあるある」と大いに意を強くした。「そんなに叫んでどうするの~「!」の話」、「ルビと混ぜ書き」、「させていただきたがる人々」、「くさいものにはふた~禁止用語をめぐって」、「くさそうなものには全部ふた~禁止用語をめぐって」、「くさくなくてもこっそりふた~禁止用語をめぐって 番外編」などなど、章題を見ればだいたいどういうことをぼやいているか想像がつくと思うが、おれもどこかで書いたようなことを痛快に指摘してくれているので、じつにうれしい。
字幕という特殊なフィルタを通して見るからこそ、現代日本語のヘンな部分が、より鮮明に浮かび上がってくる。いやしかし、この人、字幕だけをやらせておくのはもったいない(と編集者が思ったからこそ、こうして本が出ているわけだが)。エッセイの呼吸が“筒井風”である。文中に一度だけ禁止用語絡みの話題で筒井康隆の名前が出てくるが、かなり筒井を愛読していると見た。『狂気の沙汰も金次第』を少なくとも三回は読んでいるにちがいない。笑わせかたがSF作家的である。隠れSFファンなのではなかろうか? だいたい、本のタイトルからして、(長いタイトルブームに乗って編集者がつけたのかもしれないけど)フィリップ・K・ディックとハーラン・エリスンを足して二で割ったようである。
ともあれ、日常生活で目にし耳にする「日本語が変だ」と思っている人、必読。肩の凝らない、ウケを狙った文体はつるつる笑いながら読める。そのわりにけっこう深いことを言っているんだが、そんなことを表面上は感じさせないところが、字幕屋の面目躍如たるものがあるかもだ(って、ここはやはり“なっち語”にせにゃ)。
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コメント
TBさせていただきました。
映画字幕の大変さがよくわかりました。
投稿: タウム | 2007年10月 2日 (火) 19時55分
この日の日記を読んですぐに図書館にリクエストしていたら、今頃やっと「届きました」の連絡があり、今日借りてきて読みました。
とても読みやすくて一気に読んでしまいました。
映画は字幕派の私ですが、吹き替え派が多くなっていると知ってびっくりしました。
投稿: こり | 2008年3月 8日 (土) 22時03分
>こりさん
図書館ってのは呑気な仕事してるんですね(^_^;)。そんなにかかるもんなんですかね?
声優としてろくな技量もないタレントが、知名度があるという点だけで声優の真似事をする最近の風潮は、私もいかがなものかと思っています。
ただ、『ハウルの動く城』なんかでは、「ををを、キムタクって声優としても使えるじゃん」と感心したので(というか、あの映画で感心したのはそこ“だけ”)、掘り出しものを見つけるチャンスとしては評価しているんですが、ああいうことはあんまりないですよね。
投稿: 冬樹蛉 | 2008年3月 9日 (日) 02時34分