『クロサギ(14)』(黒丸/原案:夏原武/ヤングサンデーコミックス)
12巻あたりから、ひとつの詐欺ネタで連載八回といった長い話と三回くらいの短い話が交互に出てくるようになった。人気が不動のものになったために、長い話でも充分読者がついてくると判断したのだろう。実際、長い話のほうが、大がかりな詐欺が扱えて面白いのである。14巻ともなると、脂が乗り切っている。
14巻の大部分を占める「テナント契約詐欺」(第145話から第152話までの八回分)は、いままでのエピソードでいちばん面白い。巨額の遺産を相続した学者バカの先生を寄ってたかって食いものにするのは親戚や銀行。詐欺同然の賃貸借契約書で世間知らずの学者先生から金を毟り取っている銀行をターゲットに、黒崎は学者の秘書として動き出す。ところが、悪辣な銀行とくれば、もうひとりの詐欺師が狙っているのはお約束。そう、黒崎のライバル、大企業専門の詐欺師、白石である。銀行、シロサギ、クロサギという三種類の詐欺師が、金融庁や財務省まで絡めて、虚々実々の詐欺合戦を展開する。いやあ、日本のマンガはほんとにレベル高いねえ。
このエピソードで作者は、とくにバブル期における銀行の悪辣な行為を容赦なく糾弾する。巻末の「シロサギ・データ・ファイル 14」で、原案の夏原武は、銀行を「ハイエナ」とまで呼んでいるくらいだ。以前おれは、「もしかすると『クロサギ』は、“この社会そのものが、合法的な巨大詐欺システムである”というところにまで斬り込んでゆこうとしているのかもしれない」と書いたが、14巻を読んで、その期待をいよいよ膨らませた。行け、黒崎、行くとこまで行け!
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