『ソーシャル・ウェブ入門―Google、mixi、ブログ…新しいWeb世界の歩き方』(滑川海彦/技術評論社)
あちこちで評判がいいので、一応読んでおくべきだろうなと手に取ったんだが、なるほど、こりゃ評判がいいのも道理だ。
“入門”とついてる本には、ちっとも入門じゃないがちゃがちゃしたものも少なくないけれど、これはタイトルに恥じない優れた入門書にちがいない。たとえば、12くらいしかわかってない人が10くらいの内容を書いたものは、“入門書”じゃないのである。ただの内容の薄い本だ。120わかっている人が10くらいに圧縮して書くと、本書のような好著になるのだろう。この10は濃い。だものだから、「おれは70~80はわかってるつもりなんだけど、深く突っ込まれると、本質を掴んでいるかどうか心許ないかもな……」というくらいの人(というのは手前のことだが)がこの10を読むと、そいつが頭の中で“増えるわかめ”みたいにむわむわっと膨らんで、100くらいになる。要するに、入門者以外にとっても大いにためになるのが、よい入門書というものなのである。
もっとも、0の人がこれを読んでも、やっぱり0だと思う。見よう見まねでウェブをあちこちいじくりまわしてみて、3くらいになったときに読むと、目から鱗がぼろぼろ落ち、パズルのピースがかちゃかちゃ繋がって、たちまち50くらいになるにちがいない。
ここ二、三年ばかり、ほとんど“相転移”と呼べるくらいに、音を立てて社会が組み変わってゆくのを感じている人は少なくないと思う。過冷却液体がなにかの拍子に一気に氷結しはじめたかのように、なにもないところに見るみる“構造”ができあがってゆく。そこには常にウェブがある。いやあ、こんなめちゃくちゃ面白い時代に生まれて、ほんとうによかった。
本書は、一見、新奇な小ネタ的ノウハウと薀蓄を詰め込んだイージーな本に見えてしまうかもしれないのだが、とんでもない。ビシッと一本、筋が通っており、しっかりとしたパースペクティブで“いま、ここ”のウェブと社会をみごとに鳥瞰した本である。蛇のような長い鼻やら、巨木の幹のような脚やら、ひらひらした板のような耳やらに混乱している人にお薦め。たぶん、象らしきものがおぼろげに見える。この象がこれからどうなるのかは、誰にもわからんけどね。なんにせよ、なんだか面白いことが起こりそうだ。Who says elephants can't dance?
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