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2007年3月 5日 (月)

『逆境戦隊バツ「×」〈2〉』(坂本康宏/ハヤカワ文庫JA)

 〈1〉の紹介からずいぶんと間が空いてしまったが、「かなりSF的にしっかりした仕掛けを用意していそうな気配あり」という期待が裏切られることはなかった。作者が意識しているのかどうかはわからないが、あるポーランドのSF作家(って、何人もおるのか?)による古典中の古典を生物学的にアレンジした仕掛けと見ることができる。デビュー作『歩兵型戦闘車両OO(ダブルオー) 』で、坂本康宏は合体ロボットがなぜ合体しなければならないかを合理的に説明してみせたものであるが、本作でも、少なくとも作品世界中では、劣等感の塊である冴えないサラリーマンがなぜ戦隊ヒーローなどというものに都合よく(悪く?)変身してしまうのかに、ちゃんとした説明を与えている。あっぱれである。バカSFにはバカSFだからこそのしっかりした論理が必要なのだ。

 おれはこの作品で、坂本康宏という作家に安心した。デビュー作を読んだときに感じた荒削りなハチャメチャさが、決意と自覚と技巧を伴ったよい方向へ転がっていっている。この作家は、眉村卓梶尾真治かんべむさし草上仁の正統な後継者となる素質と実力を持っている。つまり、ふつうの勤め人としての経験をSF的に昇華できる作家の系譜に連なるにちがいない。

 いや、なんかね、吉本新喜劇と松竹新喜劇を同時に観ているような感じですよ。おれは“ヒーロー”というものの本質をこれだけ考えさせられたのは、大迫純一《ゾアハンター》シリーズ以来だ。いやね、サラリーマンが戦隊ヒーローに変身して怪人と闘うというアホな話だけれどもね、コアがしっかりしているので、泣けますな。号泣はせんだろうけれども、うるうるキますな。ふつうの小説ではこっ恥ずかしくて描けないようなことがね、バカSFだと描けるということがあるわけだ。『探偵!ナイトスクープ』観ながら、一見アホらしい依頼にちっぽけな人間へのいとおしさのようなものを感じて笑い泣きしてしまうような人にはね、とくにお薦めですよ。そう考えると、梶尾真治に解説を依頼した編集者の慧眼には感嘆させられる。坂本康宏の本質を見抜いてるね。まあ、編集者もサラリーマンだからねえ。

 ティーンズ向けライトノベル風の装丁に騙されてはいけない(いや、もちろんティーンズも読んでいいのよ)。これは、下手すると、四十、五十のいいおっちゃん・おばちゃんが、西田敏行局長のように、へらへら笑いながらもハンカチが必要になるかもしれないナニなアレだ。劣等感を持つすべての人に(ってことは、要するに、すべての人に)お薦めの真のヒーロー小説である。



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