不二家の罪
今回の不二家による期限切れ原料使用事件、まことに残念なことである。組織ぐるみの隠蔽を裏付ける文書やら、どうやら期限切れ原料を意図的に使用することが常態化していたといった話やらが出てきているようでは、従業員やフランチャイズ店の方々には気の毒だが、もう不二家というブランドはダメだろう。件の文書を作成した者が正しく認識していたとおり、「雪印乳業の二の舞」になるのは確実だ。食いもののことである。一度不潔だと思われたら、もう終わりだ。本を買ったら落丁がありましたなんてのとは、わけがちがうのである。そこまで正しく認識しながら、どうして隠蔽とはちがう道を取れなかったのか、他人の会社のことながら、まことに残念だ。
そう、残念なのだ。お客様をお客様とも思わぬ企業の悪行が表沙汰になったのだから、消費者としては喜んで然るべきなのだが、どうもおれは素直に喜べない。やはり、一消費者、いや、一日本人として、残念だという思いが強い。不二家くらいになると、もはやひとつの営利企業の浮沈などといったものを超えた責任があるのだ。それは、人々の思い出や夢に対する責任である。こういうのだって、歴としたCSRだと思うね。
おれは不二家と聞くと、オバQやパーマンや怪物くんやらといっしょに、地蔵盆やらクリスマスやらなにやら、まるで時間が止まっていたかのような、子供のころの“よきひととき”を思い出す。これはなにもおれにかぎったことではないだろう。この国に生まれ育ち、いまこの時代を生きている人であれば、百人百様それぞれのあの“よきひととき”と常に共にあった不二家のお菓子と、ペコちゃんの真っ赤なほっぺといたずらっぽい舌を思い出すにちがいない。不二家というのは、そういう存在であったのだ。人々のそんな“よきひととき”に繋がる魔法の言葉「不二家」に、今回の事件は、永久に消えない醜い染みをつけてしまった。残念としか言いようがない。
オバQが泣いているぞ。パーマンが泣いているぞ。怪物くんが泣いているぞ。もちろん、ペコちゃんもポコちゃんも泣いているぞ。山一證券が潰れようが、アーサー・アンダーセンが消え失せようが、オバQやパーマンは泣かないだろう。
そりゃたしかに、自分ちの冷蔵庫に賞味期限・消費期限を少々オーバーした食いものが入っていたって、たいていの人は、匂い嗅いで大丈夫そうなら食うだろうさ。それ自体は、実害がなきゃ、ホントのトコ、おれはどうだっていい(基準の十倍の細菌ってのはまずいけどね)。だが、あの不二家が、消費者の健康を守る目的の決めごとを意図的にないがしろにし、それを隠蔽しようとする会社に成り下がってしまっていたという点は、なんとも悲しい。
不二家が罪深いのは、まかりまちがえば、おれたちが腹を下して吐きながら寝込んでいたかもしれないからばかりではなく、なにより、おれたちの中のオバQやパーマンを、ペコちゃんやポコちゃんを泣かせたからである。
さらば、不二家。さらば、ペコちゃん。さらば、少年の日よ……
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コメント
いやまったく同感でありますねえ。ラジオ党だった私の場合、日曜の朝にロイ・ジェームスがパーソナリティをしていた不二家歌謡ベストテンの思い出が。CMに「やさしさにつつまれて」が流れていたのも痛ましい……(;_;)。
菓子といえばかりんとうやキャラメルだった時代に、甘美な洋菓子の世界を教えてくれたのも不二家だったのであります。
日本人は「穢れ」に敏感だというから、もうダメなんだろうなあ。私としては、一回くらい再起のチャンスを与えたいですけどねえ。
投稿: 野尻抱介 | 2007年1月16日 (火) 02時35分
不二家歌謡ベストテン・・・ああ・・・懐かしいですね。
そして、ミルキーの歌を最後までちゃんと歌えることが自慢できなくなる~(涙)。
投稿: 湖蝶 | 2007年1月16日 (火) 06時36分
ふじや。ちゆうたら、みるきぃはままのあじ。でしょうが。昭和29年第五福竜丸びきにおきひばくそとしうまれのじえいたいたんじょうのとしのうまれのおにばばはおもうだよ。
あのじゃん。その不二家のおかあさんがねむるおんなのこのほっぺにちゅってする、その宣伝がはずかしゅうて、わしはみるたびににげていただよ。文化ですね、ひとつの。
投稿: ひめの | 2007年1月16日 (火) 08時04分
はじめまして。まんが家をやっているゆうきといいます。
不二家の事件に関して最も感銘を受けたエントリだったものですから、激しく同意したく、書き込ませてもらいました。
僕は北海道の出身ですが、小学校低学年時代のいっとき、東京の某区に住んでいたことがありまして、年に一、二度、晴れ中の晴れの日に、親に駅前の不二家レストランに連れて行ってもらったのを思い出しました。
野尻さんの「一回くらい再起のチャンスを」というご意見にも同意です。
投稿: ゆうきまさみ | 2007年1月18日 (木) 21時27分
ゆうきまさみさん。おはようございます。おもしろい連携ですね。
きのうのつづき、冬樹さん。とうとう引用までしました。ひまなときによんでみてね。つながってきたなあという感慨がありまさ。
まんがは最高に先端をいってる文化ですよね。子を三人もったおかげで、アンテナが三本もてました。ではいってきます。
投稿: ひめの | 2007年1月19日 (金) 06時47分
おお、「逆光は勝利!」のゆうき先生! あ~るとパトレイバーとじゃじゃ馬は私の精神の一部です。
でもなんかいよいよ再起不能ぽいですね、不二家は。ユスリカぐらいなら許すけど、蛾の卵まで産んでたとなると。
下記によると戦前からの社風だそうで。人死んでるし。
http://www.zetubou.com/nikki/2007/01/13/180.htm
投稿: 野尻抱介 | 2007年1月20日 (土) 02時43分
不二家は思い出とともに。
そう、私らの世代(昭和30年台生まれあたり)にとっては、不二家は特別思い入れのある、お菓子メーカーなのだ。
パーマン はーい。
ペコちゃん はーい。
ぼくらはゆかいな仲間です。
不二家 不二家 ではまた来週。
のパーマンのエンディングは40年も経ったいまでも鮮明に思い出すことができます。
オバQ、怪物くん、どれも不二家が提供してくれたTVマンガ(昔はTVアニメをこう呼んでいた。)だ。
いわば、不二家がなければ、これらの作品がTVで放送されることはなかったのかもしれない。
オバQガム、怪物くんチョコは憶えているし、怪物くん商品の点数券を集めてもらえた、マジックコースターというおもちゃも忘れられない。
CMの「お近くの不二家チェーンで。」のナレーションを聞くとまるで夢の店のように思えたものである。(ついぞ、幼少時には連れて行ってもらえたことはなかった。)
不二家の自力再建は限りなく不可能に近い、でも最低でも、ペコちゃんの再就職は実現してほしいところである。
たとえ、森永のペコちゃんになったとしても。
ここ数日で、LOOK6個、ペンシルチョコ2個、ペコポコチョコ2個、ポップキャンディー大袋2つ、ミルキー大袋1つを入手しておきました。しかし、蛾の幼虫とか、鉄片とかが入ってないか本当に心配になってきました。
投稿: わい | 2007年1月20日 (土) 23時54分
>野尻抱介さん、湖蝶さん
ロイ・ジェームスさん、懐かしいですねー。うちはあまりラジオを聴かず、私が小学校高学年ころからラジオ漬けになっていたときにも、ほとんどKBS京都ばっかり聴いていたんで、それほど不二家歌謡ベストテンには思い入れはないのですが、それでもやっぱり記憶に残っている名番組ですね。
どうも、その後報道されるありさまでは、不二家の再起は難しそうですが、ペコちゃんは残してほしいもんです。
>ひめのさん
ひめのさんはゴジラと同い年なんですよね(笑)。十年近くちがうと不二家に関する想いもいろいろちがうかもしれないと思っていたんですが、ウェブをあちこち読むかぎりでは、やっぱり年配の方にも、寂しい、悲しいとおっしゃる方が少なくないようです。うーん、だけど私はそのCM、記憶にないです(^_^;)。オバQ時代にもまだありましたっけ?
>ゆうきまさみさん
>まんが家をやっているゆうきといいます
こっ、これはこれは、はじめまして。簡潔な自己紹介を頂戴いたしましたが、ここを読んでいるような方の八十パーセントくらいは、ゆうきさんのご職業をよーくご存じにちがいありません。コメントをいただけて光栄です。
そうですね、むかしはファミレスなんてものもなかったので、とにかく“レストラン”という言葉自体が“ハレ”の響きを持っていましたね。それに輪をかけて、“不二家のレストラン”なわけですから、当時の少年少女にとっては、ほんとに“夢の国”みたいな響きでした。
報道によれば、不二家は外食分野ではとくに近年不振が続いていたとのことですから、不二家のレストランに特別な思いを抱いているのは、特定の年齢層だけかもしれませんけれど、なんとも寂しいですね。
>わいさん
>怪物くん商品の点数券を集めてもらえた、マジックコースターというおもちゃも忘れられない
同世代ですねー(^_^;)。それで思い出しました。たしか、怪物くんのキャラメルだったかなんだったかのプレゼントに応募して(ちゅうか、親に応募してもらって)、空気を圧搾して飛ばすロケット弾みたいなやつが当たったことがありましたよ。ハンドルのついたピストンをシュポシュポと往復させていると、先端につけた中空のロケットの中の圧力が高まっていって、やがてポーンとすごい音がして飛んでゆくというやつです。いま考えると、ずいぶん乱暴なおもちゃでしたが、そういうのに当たったことがなかったので、自分が選ばれた人間であるかのような気がして(単純なやつ)、とても嬉しかったものです。
あっ、もしかしたら、私はあそこで人生の運をすべて使い果たしたのかもしれない(笑)。
投稿: 冬樹蛉 | 2007年1月21日 (日) 02時25分
どうも恐縮です、みなさま。
>野尻さん
漫画家冥利に尽きるコメントありがとうございました。僕は『ロケットガール』のシリーズと『ピニェルの振り子』、『ふわふわの泉』を楽しく読ませていただきました。『太陽の簒奪者』も買ってあるので、間もなく読み始める予定です。
多くの作品を読んでいるわけではありませんが、SFにはあこがれがあるのです。
不二家は再起に向けて動き出したようですが、前途は多難でしょうね。
>冬樹さん
ずっと前からこの日記は読ませていただいて、「アニソン紅白」で笑わせてもらったり、「○○と××くらいちがう」には何度か応募しようかと思いながら、度胸がなくて発信手前でやめておりました。今回の投稿で何か一つハードルを越えたような気がしています(笑)。
そのようなわけで、ご挨拶返しまで。
投稿: ゆうきまさみ | 2007年1月22日 (月) 13時29分
>ゆうきまさみさん
>「アニソン紅白」で笑わせてもらったり、「○○と××くらいちがう」には何度か応募しようかと思いながら
どひゃーっ、そんなに古くから読んでくださってるんですか(^_^;)。あ、ありがとうございますっ! アニソン紅白は、マイソフさんという方の投稿企画なので、私はちょっとしか考えてないんですが、そういえば『究極超人あ~る』もありましたですね( http://web.kyoto-inet.or.jp/people/ray_fyk/diary/dr0111_2.htm#011113 )。
いやあ、なんと申しますか、お目汚しですんません。ほんとにウェブってのは、どなたが見てるかわからないもんだなー( http://web.kyoto-inet.or.jp/people/ray_fyk/diary/dr0102_1.htm#010202 )。
>今回の投稿で何か一つハードルを越えたような気がしています(笑)
ど、どうぞ、私がしょーもないこと言いましたら、ご遠慮なく、息抜きにツッコんでください(;^_^)/。
投稿: 冬樹蛉 | 2007年1月22日 (月) 23時29分
ああ、ここにも悲しんでいる同世代が……。
▼おれは怪物くんだ
http://blogs.yahoo.co.jp/yoriko3182006/27869801.html
投稿: 冬樹蛉 | 2007年2月 3日 (土) 05時13分