お星様になった科学者
一昨日録画していた『サイエンスZERO』を、昨夜、晩飯食ったあとに観ていたのだ。「見えてきた“宇宙の謎” 日本の最新天体観測」というお題で、ゲストの小杉健郎(JAXA宇宙科学研究本部研究総主幹)という先生が、星をいちいち「お星様」とおっしゃるのが、じつに微笑ましかった。ものものしい肩書きをお持ちのわりに、「ああ、ええおっちゃんやなあ」という感じである。失礼ながらもはや相当薄くなった髪も目立つおっちゃんなんであるが、子供がそのまま初老の男になったかのような雰囲気があり、おれは番組を観ているあいだじゅう、この方に好印象を抱いていた。夢を追いかけて、このお歳になって、現実にこういう仕事をしていらっしゃる姿を、ちょっと羨ましいとも感じた。さだまさしの「天文学者になればよかった」が、少し頭の中で流れた。
もしおれに子供がおったら、「すざく」やら「あかり」やら「はるか」やら「ひので」やらと名前を付けてやろうかなとバカな想像をしていると、番組が終わった。と、なにやら、いつもは出ない画面が出た――「小杉健郎さんは11月26日/お亡くなりになりました/謹んで哀悼の意を表します」
…………。
この先生がプロジェクトを率いて9月に打ち上げた太陽観測衛星「ひので」のプロジェクトメンバーたちが静かに成功を喜ぶ映像に、嬉しさを抑えきれないといったようすで解説を加えていらした映像を、ついさっき観たばかりなのだ。言葉もない。テレビってのは、ときどき筋書きのないドラマを作るね。眞鍋かをりも驚いただろう。
おれはハードディスクレコーダを“巻き戻す”と、『サイエンスZERO』のエンディングで、いつも出演者たちが手を振って視聴者に別れを告げる映像を、もう一度観た。会ったこともない、ひとりの科学者の人生に感動しながら。
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コメント
こんにちは。小杉先生にお世話になった者です。
あたたかい書込みをして頂き、ありがとうございます。
書かれた通りの先生で、関係者一同肩を落としています。番組を見てあらためてその思いが強くなりました。
>会ったこともない、ひとりの科学者の人生に感動しながら。
私もその思いで見ていました。
でも何時までも嘆いていてはいけないですね。小杉先生の千分の1でもがんばらない。
投稿: K | 2006年12月18日 (月) 12時37分
すみません。文章訂正です。
「小杉先生の千分の1でもがんばらないと。」
投稿: K | 2006年12月18日 (月) 12時39分
>Kさん
いや、SF周辺のブログ圏には、JAXA関係の方も当然いらっしゃるだろうとは思っていましたが、小杉先生を直接ご存じの方からコメントがいただけるとは思ってませんでした。ありがとうございます。私はテレビで拝見しただけで、失礼なことを書き散らしておりますが、正直、ほんとに物腰の柔らかい人のよさそうな方で、とても親しみを感じたのです。
それにしても、あの「ひので」が送ってきたばかりの、太陽表面のものすごいデータをテレビで茶の間にお披露目する番組が放映される前に逝ってしまわれたとは、まったく人の運命というのはわからないものです。
あのお話しぶりから察するに、「素人になにがわかる」といった狭量な学者ではなく、カール・セーガン博士のように、自分たちが追い求めているものを多くのふつうの人に知ってもらいたいと素朴に願っていらした方なのだろうと感ぜられます。
私は科学者に対してはあえて“ご冥福”をお祈りしたりはしないことにしています。これからも、小杉先生が携わられた衛星が、文字どおり人類の“視野”を広げていってくれるというのは、なんとすばらしい遺産かと、ただただ賞賛させていただくのみです。
投稿: 冬樹蛉 | 2006年12月19日 (火) 02時04分
ほへえ。いいおはなしですね。私はこのところ就職し、忙しくてテレビを見ませんで存じ上げませんでした。ここにきていいお話がきけてよかったです。
一昔前の天文学者でちょっと名前をわすれちゃってますが、えーとほら、山口誓子と『星恋』を戦後すぐの時期に出した人がいるでしょう。そうだ、野尻抱影だった。あの本を読んだとき感じた、ふしぎなかんじ、そういうかんじを、これを読んで、かんじました。
投稿: ひめの | 2006年12月21日 (木) 20時51分
>ひめのさん
ここへもときどきいらっしゃるSF作家の野尻抱介さんのペンネームは、もちろん彼にあやかっているものなのです。
投稿: 冬樹蛉 | 2006年12月21日 (木) 23時53分
そうそう。それをね、いつか聞こうとおもってました。あまりになまえがおなじだから、子孫のひとかなあって。
じゃ、いってきまーす。
投稿: ひめの | 2006年12月22日 (金) 07時20分