駅内留学
仕事が遅くなって終電になってしまい、おれは早足で駅のホームを歩いていた。ふと顔を上げると、おれの歩いてゆく先に、金髪をポニーテールにした青い目の若い女性がいて、ケータイにむかってなにやら熱心に主張している。ラフな服装が妙にキマっていて、アメリカの学園ドラマから脱け出てきたような娘だ。
どこの国のコだろうな、何語で話しているのだろうなと、おれはそのコの横を通り過ぎざまに耳をそばだてた。最近の若い娘が話す、活きのいい英語表現のひとつでも拾えたら儲けものだ。そのコの声が聞こえるところまで近づいたとき、たしかに、はっきりと、おれの耳は活きのいい会話表現を捕えた――
紛らわしい外見をするなー! あんたは、イーデス・ハンソンか(知らない人は、お父さんかお母さんに訊いてね)。そ、そういえば、むかーし、中学だったか高校だったかのころに、イーデス・ハンソンの英会話本を買ったことあるぞ。
英会話本だけじゃなく、この人には『花の木登り協会』(講談社/講談社文庫)という、日本語で書いた風刺小説もあって、筒井康隆が絶賛してたり、『ブラック・ジャック』でピノコが話題にしていたりしたもんで、おれもむかーし読んだ(“むかーし”ばっかりだ)。むろん、まだ持っている。いまとなっては、日本語のできる外国人タレントは珍しくもなんともないが、あれだけのちゃんとした小説を日本語で書ける外国人はそうそういないと思う。もし古本屋で見かけたら、迷わず手に入れておきましょう!
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