『オリジナルベスト50~悲しき口笛,川の流れのように』(美空ひばり/コロムビアミュージックエンタテインメント)
母が美空ひばりのファンなので、ボケ防止にDVD/CDデッキの使いかたを覚えさせるには、これくらいの強い動機がなくてはならないだろうと買ってやったのだが、じつのところ、半分くらいはおれ自身が欲しくて買ったのである。うちにはシェイクスピア全集やら夏目漱石全集やら坂口安吾全集やら筒井康隆全集やらがあるわけだから、なにはともあれ、歌謡曲好きとしては、一応、美空ひばりの代表作くらいは所有しておかねばなるまいと、にわかに一念発起して投資したのだ。天才の仕事はとりあえず手元に置いておき、いつでも触れられるようにしておきたい。メジャーなものはしっかり入っているから、美空ひばり決定版として持っておくにはお手ごろなベスト50だ。すぐに全曲 iTunes に取り込み、このところ美空ひばりを集中的に勉強(?)しているのであった。
あまりの灰汁の強さに辟易する部分もないでもないし、おれは美空ひばりというキャラクターがそれほど好きではないのだけれども、歌手としては文句なしにすごいのだからしようがない。おれが美空ひばりという歌手を知ったのは、ちょっと変則的だが、「真っ赤な太陽」であって、子供のころは箒のマイクを持ってしょっちゅう歌っていたものである。箒を持つとおれは美空ひばりになり、算盤を持つとトニー谷になっていたのだ。
おれはどうも演歌というやつが大嫌いであって、「悲しい酒」なんかはほとんど評価しない人なのである。だがやはり、ひばりが歌うと“演歌ですら”なかなかよいものに思えてくるから癪に障る。基本的におれは、美空ひばりという人は、ジャズ歌手・ポップス歌手として認識している。“演歌も唄う人”といった感じだ。三つ子の魂百までなのだ。
おれ的に順不同でベスト10を選ぶとすれば、「東京キッド」「私は街の子」「リンゴ追分」「お祭りマンボ」「港町十三番地」「車屋さん」「柔」「真っ赤な太陽」「愛燦燦」「川の流れのように」といったところかなあ。比較的初期のが好きみたいだ。「東京キッド」や「港町十三番地」みたいなのは、いまの時代には絶対出てこないノリの世界だよなあ。それだけに貴重な、昭和の一ページを飾る名作だと思う。「車屋さん」なんて、和風ガーシュイン(言ってることが自分でもよくわからん)かと思うよな。
もう少し長生きしてくれて、“TAK MATSUMOTO featuring Hibari Misora”とかを聴かせてほしかったものだ。この歳になっていまさらながらに新鮮な思いで聴いているのだが、いやホント、いいすよ、美空ひばり。
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コメント
おはようございます。
わしは、男性歌手では田端義男が最高だとおもとります。
今度氏の米寿(!)記念アルバムが新収録で出るはずです。
乞うご期待。
投稿: zazatto | 2006年11月15日 (水) 08時49分
私も美空ひばりは好きです
私的には、柔 りんご追分 真っ赤な太陽 がベスト3です
日本語と言う言語が持つリズムの至高にあるんじゃないかと
宇宙人じゃありませんが、八代亜紀も好きです
投稿: かおる | 2006年11月15日 (水) 17時53分
そっすね。さかなはあぶったイカがいい。ほんなこつはスルメじゃなかとちおもうとです。まよねーずしょうゆなんかつけてですね。
春日八郎、もよかとです。あと田端義男の帰り船と忘れちゃいけない三橋美智也。よかなあ。うーん哀愁っていうかなんというか。
美空さんは「りんごうぬおふるさとはああ北国のはあてえ」っていう題を存じ上げない歌が好きでした。
ところでひばりとカラスって本ご存じでしょうか。マリア・カラスとひばりとの共通点と人生を追ったおもしろい研究書です。ガッコの先生だった演歌歌手が書いてましたが、名前を忘れてしまいました。ごめんなせえよ。
投稿: 姫野 | 2006年11月16日 (木) 09時34分
>zazattoさん
バタやんはあんまり歌には思い入れがないのです。子供のころ、うちにあったウクレレを真横に構えて真似をすると、婆さんたちにウケた覚えはあるのですが……。
>かおるさん
なんか、初期の美空ひばりの“なんでもあり”加減は、ハンナ・バーベラアニメの日本オリジナル主題歌みたいな感じがしてならないのです、私には。こう、なんと言いますか、なんでもありの猥雑なエネルギーと肩肘張らない遊び心が共通しているような気がします。SFで言うと、ヴォークトとかベスターみたいな(笑)。
>姫野さん
これ( http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi?KEYWORD=%82%d0%82%ce%82%e8%82%c6%83%4A%83%89%83%58 )ですね。いや、私は読んだことないですが、たしかに同時代人ですよねえ。やる気のない本屋なら、鳥類図鑑の隣に置いてありそうな本ですね。
投稿: 冬樹蛉 | 2006年11月18日 (土) 01時38分
うん、これだす。佐賀図書館はバッハの隣にあった。それもなかなかできることじゃございません。
鳥類づかん。ふふふ。ぶきみにわらう。
いま、西日本新聞さまは、井上陽水をやっていなさって、今日で三回目くらい。その陽水の幼少時、やはりひばりと三橋美智也を挙げていた。で、運命のビートルズとの出あいが十歳ってか。九州歯科大に四浪したことは知ってたけど、あの哀しさはやっぱ、三橋美智也が下にあったんだなあ。と、おれさまは勝手に解釈したよ。北海道の民謡歌手で三味線弾きだった三橋美智也は、どこか陽水と通います。声質とか、音色みたいなの。
投稿: ひめの | 2006年11月20日 (月) 19時52分
>ひめのさん
>北海道の民謡歌手で三味線弾きだった三橋美智也は、どこか陽水と通います
そういえば、私の頭の中では、北島三郎が松山千春とどこかかぶってます(^_^;)。
投稿: 冬樹蛉 | 2006年11月23日 (木) 09時38分