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2006年11月17日 (金)

『逆境戦隊バツ「×」〈1〉』(坂本康宏/ハヤカワ文庫JA)

 「ぎゃっきょうせんたい ばついち」ではない。「ぎゃっきょうせんたい[ばつ]」の一巻めということである。

 はっきり言って、おれはこういうの、大好きである。日本SF新人賞佳作『歩兵型戦闘車両OO(ダブルオー)』の完成されていないハチャメチャさと、えも言われぬもの哀しさが妙に気に入っていたおれとしては、坂本康宏がこの路線で攻めてきてくれるのは嬉しい。二作めの『シン・マシン』も嫌いじゃないんだが、シリアス路線とギャグ路線とのあいだで迷っているようなところがありありと出ていて、いまひとつノリきれなかった。その点、この『逆境戦隊バツ「×」』は、吹っ切れていてなかなかいい。

 一応、世間からは優良企業と認識されている「来見(くるみ)食品」に名目だけの研究職として勤めてはいるものの、出世とは無縁で、いままでの人生でもろくなことがなかった虐げられたモテないオタクが、コンプレックスをエネルギーに(?)赤いヒーローに変身し、どうやらその会社のヒット製品研究の影の産物であるらしい怪人と闘うのである。“戦隊”というからには仲間がいるわけなのだが、その“ピンク”のヒーロー(ヒロイン)も、やはり同じ会社の人事課のお局様で、昼は会社員、夜はSMクラブの女王様というややこしい女である。ネーミングセンスの悪い社長直々の命令で、なぜか戦隊ヒーロー「クルミレンジャー」に変身する能力を備えた彼らは、社運を賭けて怪人と闘うのだっ。

 なにやらどえらいことが起こっているというのに、渦中にいる人間たちはひたすら飄々として、強靭なまでの日常性からけっして軸足を離すことがないという点では、ある意味、北野勇作作品にも通じるところがあるのだが、坂本康宏の場合、そこに、もの哀しくもいとおしい情けなさを伴った強烈なコンプレックスが入ってくる。“自虐的感情移入”が非常にしやすい(しにくいという幸福な人もいるかもしれないが……)。粗さの否めなかった文章も、この作品では、自分流のレトリックのリズムを掴んだためか、さほど気にならず、むしろ味になってきている。坂本康宏には、ぜひこの路線で行ってほしいなあ。

 一巻めではまだ謎を残したままだが、かなりSF的にしっかりした仕掛けを用意していそうな気配あり。二巻めが大いに期待できる。



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