『SF魂』(小松左京/新潮新書)
小松左京の『やぶれかぶれ青春記』が古本か電子版でしか手に入らないいま、こういう本が出てくれるのは嬉しいのである。というのは、「筒井康隆って、小説も書くんですね」という世代がもう社会に出ている昨今、リメイクの映画『日本沈没』で初めて小松左京を知ったという若者だってたくさんいるだろうからで、そんな人には、ぜひこの偉大な作家の足跡を知ってほしい。
まあ、四十代以上のSFファンはどこかで読んだ話が(とくに前半は)多いはずだが、なあに、『やぶれかぶれ青春記』や『小松左京のSFセミナー』や『SFへの遺言』などを読んでいるおじさん・おばさんも、何度同じエピソードを読んだって減るもんじゃなし、御大のお言葉をいま一度骨身に刻むつもりで、熱いSF魂を呼び覚ましていただきたい。最後の四行には、年甲斐もなくじーんときちゃいましたよ。
いやしかし、巻末の小松左京年譜を改めて追うと、わが身の卑小さに情けなくなるよなあ。もしおれが小松左京だったとしたら、一昨年には『日本沈没』を刊行していなくてはならないのだ。四十二歳になった年にである。やれやれ。自分だけはいつまでも歳を取らないかのごとくに生きているが、こうして数字を見ると愕然とするよ。とほほほ。まあ、それだけ小松左京は偉大なのだ。こんな本をエラそうに評したりできないよ。ただただ、一SFファンとしてお薦めするのみだ。
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コメント
「小松左京の作品の90%は屑である」
「筒井康隆の作品の90%は屑である」
………スタージョンの法則は成立しませんね。
投稿: いかなご太郎 | 2006年9月12日 (火) 22時00分
>いかなご太郎さん
いえいえ、この世に小松左京の小説しかない、あるいは、筒井康隆の小説しかないという前提であれば、やっぱりその九十パーセントは屑だと思いますよ。やけにレベルの高い屑ですが(^_^;)。
投稿: 冬樹蛉 | 2006年9月12日 (火) 22時31分
もうかなり昔に新聞で読んだ書評の「他の作家の作品だったら傑作だが、小松左京としては普通」というのを思い出します。
投稿: 林 譲治 | 2006年9月13日 (水) 11時46分
>林譲治さん
小松左京の名言としては、阪神淡路大震災の直後にテレビで観たときにおっしゃっていたことが、やたら印象に残っています。『日本沈没』を書いたこの作家は、「(自分に馴染み深いあんなところで大地震が起きるとは)わが身の不明を恥じる思いです」と、しきりに恥じ入っていらしたのです。「あんたが不明やったら、誰が明るいねん!」と思わずテレビにツッコミそうになりました。
が、本書を読んで、そうおっしゃった言葉のうしろにあるものが垣間見えたようで、ますます偉大な作家だと思いました。
投稿: 冬樹蛉 | 2006年9月14日 (木) 00時54分