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2006年8月19日 (土)

『マーダー・アイアン 絶対鋼鉄』(タタツシンイチ/徳間書店)

 第7回日本SF新人賞受賞作品。これはもう、最後まで読むまでおれ以外の誰も気づかないだろうから伏字で書いておくと、『サイボーグ○○9』へのオマージュというか、『サイボーグ○○9』のパロディというか、そういうノリである。

 バブルが弾けず、そのまま歪んだ経済大国として日本が発展し続けている世界の二十一世紀の物語である。先進国はみなサイボーグ部隊を持っているのだが、日本だけはサイボーグ開発がうまくゆかず、西欧や中国の後塵を拝している。なぜかというと、サイボーグ部隊の強さの源泉は、テレパシーにも似た“共感能力”にこそあるのだが、この能力、西欧の言語で形成された脳でないとうまく使えないのである。日本語ネイティブの脳では、いくら頑張っても西欧人サイボーグほどの共感能力は得られないのだ。中国人は、ほとんど人格を破壊するほどの犠牲を払って、ロボットのようなサイボーグ部隊をどうにかこうにか作り上げている。まあ、連中は、ウラル・アルタイ語族だからね。日本人とは語族がちがう。

 この設定はなかなか面白い。IT業界の人間であれば、この設定にある種の皮肉を感じ取ることができるだろう。グローバルスタンダードという名のアメリカンスタンダードに、どこをどうひねくっても馴染まないところが日本人の組織やビジネスプロセスにはあるもので、タタツシンイチはそこいらを意識しているのかなとも思う。どうやら、タタツシンイチも、規格の統一という作業に馴染まない日本人的な宇宙との対峙のしかたというものがあり、それは弱みでもあると同時に強みでもあると感じているのだろう。

 そこで日本人はどうするかというと、圧倒的なパワーを持つロボットを創るのである。このロボット「タケル01」が、アメリカのスター的存在である九人のサイボーグを赤子の手を捻るように屠ってゆく過程が、この作品読みどころである。面白いことに、九人のサイボーグの主要キャラクターには、ちゃんと人間としての背景を成すドラマがあり、それをなんの感情もない“圧倒的な力”のみの存在である「タケル01」が、こともなげに抹殺してゆくのだ。ステロタイプな日米対決を逆転している。かなり痛快であり、不気味でもある。

 劇画的なパワーがあって、楽しく読み進めることはできるのだが、やはり『サイボーグ○○9』という大きな枠組みを借りている点は無視できない。“いろもの”と言えば、“いろもの”なのである。新人賞応募作としては、大きなリスクを抱えている。それを日本SF新人賞に選んだ選考委員たちには、そのリスクを吹っ飛ばすなにかが見えたのだろうが、おれ的には、やっぱりこれはメジャーデビュー作としては“いろもの”的要素を拭えないと思う。たとえば、小林泰三のデビュー作が『ΑΩ』だったとしたら、ちょっと首を傾げるだろう。そんな感じなのだ。

 もっとも、ぐいぐい読者を引っぱってゆくパワーは文句なしにあると思うので、今後どういうものをぶつけてくるかが楽しみな作家ではある。『○○9』ばっかりやられても困りますからね。



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コメント

> たとえば、小林泰三のデビュー作が『ΑΩ』だったとしたら、ちょっと首を傾げるだろう。

この部分何が書いてあるのか意味がわかりませんが、それとは別に「サイボーグ○○9」の9人のメンバーの能力が極めて使い辛いことを再認識しました。あのメンバーであれだけのストーリーを成立させていた石ノ森章太郎は偉大です。

投稿: 小林泰三 | 2006年8月19日 (土) 23時16分

>小林泰三さん
>この部分何が書いてあるのか意味がわかりませんが、

 作品の評価とは別に、「なんだ、あれウルトラマンじゃんか」と言われてしまいかねないということです。ああいうのは、何作か世に問うてから初めてできるんじゃないかと。デビュー作はやはり完全オリジナルで勝負してほしかった。

>「サイボーグ○○9」の9人のメンバーの能力が極めて使い辛い

 同感です。ブラックゴーストはなにを考えていたんでしょう? むしろ、料理がうまいとか、人間としての能力のほうがずっと使いやすいような……。

投稿: 冬樹蛉 | 2006年8月20日 (日) 01時16分

> 「なんだ、あれウルトラマンじゃんか」

えっ。そうなんですか。

> ブラックゴーストはなにを考えていたんでしょう?

空を飛べるのと、水に潜れるのが一人ずつだと、単独での戦闘を強いられる訳ですが、彼らには特に戦闘能力はないんですね。逆に、火を吹いたり、マシンガンを撃ったり、怪力のメンバーは戦闘能力は高いけど、飛んだり、水に潜ったりできない訳です。考えるに、彼らは本当に試作品で、実戦に投入するつもりはなかったのでしょう。

投稿: 小林泰三 | 2006年8月20日 (日) 02時11分

> 考えるに、彼らは本当に試作品で、実戦に投入するつもりはなかったのでしょう。

手元にないのでうろ覚えですが、001から008を作ったあとに009に総合的な能力を与えた、みたいな記述がどっかにあったような気がします。それからすると001から008は本当に試作品なんでしょうね。

投稿: 通りすがりの(元)スロプロ | 2006年8月20日 (日) 06時09分

> 手元にないのでうろ覚えですが、001から008を作ったあとに009に総合的な能力を与えた、みたいな記述がどっかにあったような気がします。

たしかにありましたね。
でももしもそうならば、009には超能力があって、空を飛べて、超絶的視力聴力があって、全身が武器で、怪力で、火を吹けて、変身能力があって、表皮が鱗であってもおかしくないのに、実際には002も装備している加速装置のほかには勇気しか武器がなかったりします。
これは加速装置以外は戦闘用サイボーグには無用の装備である、とブラックゴーストが判断したためだったのでしょうか。

投稿: いかなご太郎 | 2006年8月20日 (日) 06時56分

 「いろいろやってみたけど、やはり奇を衒ってはいかん、地味にオーソドックスに欲張らずに行こう」ってできたのが009なのか(^_^;)。

投稿: 冬樹蛉 | 2006年8月20日 (日) 23時50分

コメントさしてもらおうと思ったのですが、メッチャ長くなったので自分のところに書いてしまいました。TBさせていただきましたので、よろしければご笑覧ください。

というほどの言説ではありませんが。

投稿: TORI | 2006年8月22日 (火) 14時34分

>TORIさん

 なるほど、マニアックな考察をありがとうございます。してみると、00ナンバー・サイボーグは、昨今のケータイみたいなとこありますね。

 前から気になっているんですが、加速装置が作動している最中は、ジャンプしちゃあダメだと思うんですよ。せっかくの加速性能を殺してしまう。ですから、009が最もその性能を引き出せる機動は、できるだけ跳ばないように、地面を小刻みに多く蹴るような動きだと思うのです。つまり、パタリロのゴキブリ走法です。きっと、パタリロにはわかっていたのです。

投稿: 冬樹蛉 | 2006年8月24日 (木) 00時43分

 ジャンプはだめですよね。その点、カブトのライダーキックは素晴らしい。ガタックも浮いてるだけだからクロックアップの効果は殺してないのかな?002の加速装置は完璧です。

 読みきりシリーズの頃、加速装置を強化した時、ギルモア博士が「加速状態がとまらなく感じる可能性があるが気にしないように」と置手紙を書き上げるまでに、ジョーの主観時間で3日以上?経つというエピソードがありまして、以来、加速装置と言うものの概念的なシステムが気になって仕方ありません。

投稿: TORI | 2006年8月24日 (木) 10時17分

>TORIさん
>加速装置と言うものの概念的なシステムが気になって仕方ありません

 スーパージェッターのタイムストッパーは、ある意味、究極の加速装置ということになるでしょう。

 それにしても、009が線路で立ち往生したら、筒井康隆の「お助け」みたいになってしまうのではないかと心配です。

投稿: 冬樹蛉 | 2006年8月28日 (月) 02時07分

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冬樹蛉さんの[間歇日記]世界Aの始末書で、『マーダー・アイアン 絶対鋼鉄』という小説に言及されていた。 詳しい解説はそちらをご覧戴くとして、コメントも含めて、サイボーグ009の能力について話題が盛り上がっていた。 で、コメントしようと思ったんだが、思い入れ... [続きを読む]

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