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2006年5月14日 (日)

『ソイレント・グリーン 特別版』(監督:リチャード・フライシャー/出演:チャールトン・ヘストン、エドワード・G・ロビンソン/ワーナー・ホーム・ビデオ)

 おれたち以上の年代のSFファン・映画ファンにとっては、ほとんど基礎教養となっている有名な古典だから、人と話しているときなど、ついついネタばらしという意識すらなく話題にしたりするのだが(「ロミオとジュリエットって最後は死んじゃうんだって」をネタばらしとは言わんでしょう?)、三十三年前の作品ともなると、古すぎて知らない若い人も増えているだろうと思うので、やっぱりこういう場所ではネタばらしをしないでおこう。一応、ミステリ仕立ての映画だから、観たことがない人に気を遣うのだ。『アクロイド殺し』でも『オリエント急行殺人事件』でも、不特定多数向けの媒体ではネタばらししちゃいかんのかなあと悩んじゃうことありますよね。万人が共有する知識などというものがなくなってきた時代において、どのくらい人口に膾炙すればネタばらししてもいいものなのだろうねえ? 「ねえ、あの赤穂浪士の討ち入りって、どうなるのかなあー。“成功”すると思う?」って話を聞いてからというもの、ほんとに悩ましく思っている。
 
 それはともかく、こいつを観るのは中学一、二年のとき以来だけど、いま観てもなかなか面白いね。この作品が提起している問題(人口問題と倫理的問題)は、製作当時からまったく変わらずわれわれの前に存在するからだ。人口問題などは、むしろずっと深刻になっている。少年時代にテレビで観て記憶に残らなかった細かいところが、いま大人の眼で観るとよくわかるから面白いということもあるし、字幕なしで観ても差し支えない程度には英語がわかるようになっているからということもある。単に懐かしいというのも、もちろんある。

 ハリイ・ハリスンの『人間がいっぱい』がこの映画の原作なのだが、知ってる人は知ってるように、相当ちがう話である。人口問題に正面から切り込んだ姿勢やベースになる設定は共通している。まあ、すでに古本でしか手に入らないし、よほどのSFファンであれば読んでみても損はないという程度の作品。

 映画としても格別出来がいいわけではない。でも、おれは個人的には思い入れがあるのである。忘れもしない、これはおれが生まれて初めて涙を流した映画なのだ。観た方は、「あれのどこで泣くんだ?」とお思いになるかもしれないが、泣いちゃったものはしようがない。ほれ、あの安楽死センターで『田園』が流れるところですよ。失われた過去の地球の美しい自然の光景を観ながら死にゆくエドワード・G・ロビンソンと、それを前に涙するチャールトン・ヘストンの名演に打たれたのだ。このDVDに「音声特典」として付いているリチャード・フライシャー監督の解説によると、このシーンにはチャールトン・ヘストン自身がたいへん感動しており、また、エドワード・G・ロビンソンの最後の映画出演(なんと、百一本め!)であるということもあって、ヘストンは“ほんとうの涙”を流していたのだそうだ。物語の中で彼が演じる主人公の、哀しみとないまぜになった感動と、去りゆく老俳優を見送る現実の彼の感慨とが重なり合った涙であったわけである。そりゃ知らなかったなあ。こういうことを知れただけでも、いまさらの古典を買って観た甲斐はあったというものだ。

 「売切れ御免! スーパー・ハリウッド・プライス 1枚¥980(税込)」などという帯が付いている「特別版」なので、廉価版の例に漏れず、なんの解説冊子も付いていない、ディスクだけのシンプルな商品だが、映像特典として「メイキング(約10分)」「エドワード・G・ロビンソン101作 記念映像(約5分)」「オリジナル劇場予告編」が、音声特典としては「監督リチャード・フライシャー他による音声解説」(“他”ってのは、ヒロイン格で出演したリー・テイラー・ヤング)が付いている。これで九百八十円なら充分すぎるほどだ。

 ちなみに、廉価版でないバージョンもまだ並行して売られているわけだが、「特別版」の三倍以上の価格なんだから、これはまあコレクター向けでしょうね。



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コメント

このキーワードを観ると、なぜかいつも、アメリカのテレビシリーズのミレニアムで、主人公が音声認識装置に、「ソイレントグリーンは人間だ」と吹き込むシーンを想い出します。

投稿: オオカミ | 2006年5月14日 (日) 07時07分

>オオカミさん

 やっぱり、それくらい人口に膾炙しているのか(^_^;)。

 その番組は観たことないんですが、上述のDVDに入っている劇場版予告編ってのが、機械っぽい声で「WHAT IS THE SECRET OF SOYLENT GREEN?」と連呼しているんですけど、ひょっとしたらそのネタは、その予告編と絡めたネタなのかもしれないですね。

 ちなみに、この予告編、ソイレント・グリーンの秘密にやたらもったいをつけて気を持たせているくせに、映像を観たら、予告編だけでわかっちゃうような矛盾したものです。こんな予告編、効果あったのかなあ?

投稿: 冬樹蛉 | 2006年5月14日 (日) 10時04分

映画公開時には、やはり中学生でした。
今にして思えば、アパート借りるとかわいい女の子が家具としてついてくる、というのはとても羨ましいなあ。

投稿: いかなご太郎 | 2006年5月14日 (日) 14時29分

>いかなご太郎さん

 あの“家具”は、夜伽以外には全然家事をしてくれそうにないですよ。それに、メンテナンス費用がすごく高くつきそうです。

投稿: 冬樹蛉 | 2006年5月14日 (日) 16時04分

ソイレント・グリーンとサイレント・ランニングが自分の頭の中でごっちゃになることがあります。文字にしてみると、そうは似ていないのになー。

投稿: きむらかずし | 2006年5月14日 (日) 18時06分

>きむらかずしさん

 「サイレント・グリーン」っつってる人がたまにいたりしますよ(;^_^)/。

投稿: 冬樹蛉 | 2006年5月14日 (日) 18時57分

 ソイレントグリーンの牛肉といえば、『幸福の黄色いハンカチ』のカツ丼&ラーメンと並ぶ「映画のうまそうなもん」ベスト10の定番ですよね。私は後にも先にもあれほどうまそうな牛肉を見たことがありません。

投稿: 野尻抱介 | 2006年5月15日 (月) 00時01分

グリ○ン・ジャイアントと言う缶詰を見るたびに、
ソイレント・グリ○ン・ジャイアントと言うフレーズが頭に浮かんで、
「そうか。この大男が原料か」などと納得してしまいます。

投稿: ROCKY 江藤 | 2006年5月15日 (月) 00時03分

>野尻抱介さん

 あれは『はじめ人間ギャートルズ』の“肉”を超えています。

>ROCKY 江藤さん

 私は、四角いあられを食うときに、必ずソイレント・グリーンを連想します。

投稿: 冬樹蛉 | 2006年5月16日 (火) 01時43分

「ソイレント・ナイト、ホーリー・ナイト」
「さあ今日はご馳走だよ」「わーい」
「わが肉を食い、わが血を飲む者は永生あり。わが肉は真の食物、またわが血は真の飲み物なり」
「誰ですか、あんたは? せっかくのクリスマスに関係ない変なこと言って!」

投稿: ROCKY 江藤 | 2006年5月16日 (火) 14時48分

あまり-ではなく全然関係のない「赤穂浪士」のネタでトラバさせていただきました。怒らないでください。

投稿: 村上 | 2006年5月18日 (木) 23時30分

>ROCKY 江藤さん

 「レオナルド・ダ・ヴィンチの作品に秘められたソイレント・グリーンの恐るべき秘密!」みたいな話を書いたら売れませんかね、売れませんかそうですか。

>村上さん

 いえいえ、ほんとに知らない人もほんとにいるみたいですから(^_^;)。日本に生まれて日本で育って人が、いったいどうすれば大人になるまで討ち入りの結果を知らないでいられたのか、つくづく謎です。

投稿: 冬樹蛉 | 2006年5月21日 (日) 02時36分

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 「事件記者」だけではすぐにもネタが尽きそうなので、ちょっと間口を広げることにし [続きを読む]

受信: 2006年5月18日 (木) 23時14分

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