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2006年5月24日 (水)

『IT失敗学の研究―30のプロジェクト破綻例に学ぶ』(不条理なコンピュータ研究会・著/日経コンピュータ編/日経BP社)

 〈日経コンピュータ〉誌に二〇〇二年から二〇〇五年にかけて連載された「不条理なコンピュータ」を再編集したもの。タイトルどおり、システム構築プロジェクトの失敗例を分析して学ぼうという本である。これがまあ、読んでいるとどんどん暗鬱な気分になってくるのだが、いちいち事例が面白いので、胃のあたりに厭~な感じが募ってはくるものの、読み進めずにはいられない。もし小林泰三林譲治の小説を代作したとすれば、こんな感じになるかもしれない。まさに“逆プロジェクトX”とでも言うべき、不快な事例と的確な分析が目白押しである。

 IT業界というところは、まあ、比較的頭のいい人が多い。合理的な思考ができる人が少なくない。あたりまえだ。が、その“合理的である範囲”が問題なのである。頭のいい人は多いが、異様なほどに視野の狭い人も多い。それらが両立したときの悲劇には、目を覆わんばかりのものがある。そこそこ頭のいい人ばかりが雁首を揃えているというのに、いったい全体、なにがどうしてどうなったら、総体としてこれほど愚かな判断や行動ができるのか、不気味なほどである。みな、それなりに合理的に動いているのだから、問題の根は深い。

 本書で取り上げられている失敗プロジェクトの例は、おなじみ「動かないコンピュータ」どころではないのだ。最初から“動くはずがない”、あるいは“動かす気がない”システムを構築するという怪談ばかりである。思わず大笑いしそうになる箇所がいくつもあるが、笑っている場合ではないのだ。これらの世にも奇妙な物語、「次はあなたの番かもしれません」なのである。

 「IT失敗学」と銘打ってあり、たしかにIT業界固有の現象もあるけれど、本書に紹介されている“失敗”のパターンは、複数の人間が一緒に行う、あらゆる活動の参考になると思う。読んでいる最中、「これじゃあ、まるでガダルカナル戦だなあ」と何度も思っていたら、はたして、巻末の「寄稿編」では、名著『組織の不条理―なぜ企業は日本陸軍の轍を踏みつづけるのか』を書いた菊澤研宗教授が、案の定、ガダルカナルの例を挙げて、これらの不条理なプロジェクトを分析していた。

 これはコンピュータ技術の本じゃなくて、もろに経営の本である。ITの本だからと食わず嫌いをしないで、業界・職種を問わず、人の上に立つ人にこそ、ぜひ読んでほしい本だ。政治家や官僚や公務員にも読んでほしい。日本というのは、前の戦争(「応仁の乱」のことじゃありませんので、京都の人)のときから、ちっとも変わっていないのにちがいない。

 いやしかし、他人の失敗って、どうしてこんなに面白いんでしょ。けけけけけ。けけけけけけけけけけけっ。

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コメント

いやー、当事者として似たような事に関わっていた身としては、耳にアイタタな内容ですな。

これってフィードバッグ不能状態が発生する状況だと、大概発生しますね。大規模プロジェクトの場合、チームが何層にもなっていますので、現場の状況が迅速にフィードバックされることは絶望的ですから、殆どが破綻しますね。これに、日本的合議制(リーダー不在)が加われば天下無敵の迷走プロジェクトの出来上がりと。

色々問題はあるけれど、理不尽な要求を断らず、理不尽な扱いを受けても会社を辞めない、そういう人達が自分で自分の首を絞めているようにしか見えないんですなこれが。ある意味ダンピングし放題な業界なんで、同業者としてはいい加減にして欲しいところですよ。

投稿: おおじじ | 2006年5月26日 (金) 01時41分

きょう本屋さんに行って買ってきました、いま楽しく読み進めています。
(佐藤哲也さんの小説「熱帯」にこういうネタ出てきたよな、と思い出しつつ)
普段はROMなのですが、面白い本をご紹介下さったお礼が一言言いたくてコメントします。
冬樹さんの書評・解説はいつも明快でおもしろくて、別の話ですが「傀儡后」をJコレ版でもう持っているのに巻末解説の素晴らしさのあまり文庫版も買ってしまったことがあります。

投稿: とよかわさとこ | 2006年5月27日 (土) 18時22分

>おおじじさん
>大規模プロジェクトの場合、チームが何層にもなっていますので、現場の状況が迅速にフィードバックされることは絶望的ですから、殆どが破綻しますね

 そのようですねえ。企業の規模によって、受注額一億の壁とか十億の壁とか言うようで。一千万くらいで破綻するのは、プロジェクト規模のせいではないでしょうけど(^_^;)。最近はオフショア開発とかもあたりまえなので、失敗要因がさらに複雑に絡み合うみたいですね。

 余談ですが、『プロジェクトX』でやってたプロジェクトって、プロジェクト管理の面ではむちゃくちゃなやつが多かったと思いませんか? 結局、妙に人望が厚いとか、抜きん出た技術を持っているとか、人並みはずれた執念を持っているとかいうスーパーマンが超人的にがんばったり、時の運としか言いようのないものに救われたりで、なんとかかんとか成果を出すという、結果オーライの“物語”が多いように思います。ふつうの人の集まりが、さして大きなトラブルもなく所期の成果を出すという(なんという難しいことでありましょう!)、無名の偉大なプロジェクトを掘り出してほしかったもんですけど……。それじゃあ、ドラマにならないか(^_^;)。

 「日本の技術なら、有人宇宙飛行なんて簡単にできる。金さえあれば月や火星にも行ける。核兵器だって明日にでも作れる」などと、日本人を過信するにもほどがあることを言うエラい人がたまにいますが、わかってねーなーと思います。私はいまの日本では、世界最高水準のハードウェアは作れても、大規模な“プロジェクト”が捌けないと思いますね。“核爆弾”なら簡単に作れるでしょうが、精密誘導が可能な兵器として配備・管理し、政治・経済の人間系も含めた戦略・戦術の中で扱ってゆくことは、一朝一夕にはとてもできないと考えています。ハードウェアを作るきわめて優秀な技術に比べて、プロジェクト工学の産業界への浸透は異様なほどに遅れていますよね。有体物を作るプロジェクトはまだましみたいですが、ソフトウェアのような無体物となるとガタガタでしょう。

>とよかわさとこさん

 いやあ、それはどうも。書評屋冥利に尽きます。

 ここだけの話ですが、私は、書評は“評価藝”だからなに書いても(貶しまくっても)いいと思ってますが、文庫などの解説は、基本的に本の宣伝なのだから、ちょっとでもよく見える角度から見て書こうと思っています。「コップに水が半分しか入っていない」ではなく、「半分も入っている。あと半分で満杯になる」と書きたいな、と。

 でも、ほんとうに自分が好きな作品の場合は、やっぱり力の入りかたがちがってくるものですし、作品に対する個人的な好き嫌いを読者に見破られるようではまだまだだと思っているのですが、やっぱりそれは、時に読者にも伝わってしまったりするもののようですね(^_^;)。

投稿: 冬樹蛉 | 2006年5月28日 (日) 02時03分

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