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2006年4月 5日 (水)

メタキャラクター「おわんくん」

 タケヤみそのシンプルなCMを観るたびに、これを作った人は天才だと思う。あの、森光子ばかでかいお椀の着ぐるみ「おわんくん」というらしい)が軽い掛け合いをやるだけのCMだが、いつもおわんくんの声がくぐもっているところがすばらしい。あれは、ああでなくては、まったく箸にも棒にもかからないくだらないCMになってしまうのだ。

 あそこに森光子と並んで出ているのは、じつは「おわんくん」ではないのである。“「おれ、なんでこんなことしてるんだろ。でも仕事だし……」と健気におわんくんを演じようとしている中の人”なのだ。アテレコの人は、おわんくんに声をアテているのではない。あくまで“「おれ、なんでこんなことしてるんだろ。でも仕事だし……」と健気におわんくんを演じようとしている中の人”に声をアテているのにほかならない。こんな例は、ほかにありそうでないと思う。これを思いついた人のバランス感覚はすごい。

 たとえば、イベントや番組宣伝などに登場するクレヨンしんちゃんの着ぐるみがある。当然、矢島晶子が声をアテている。あのしんちゃんの声に、まるで着ぐるみの中に矢島晶子が入っているかのようにくぐもったエフェクトをかけてみたら、めちゃくちゃに珍妙だと思う。あれはあくまでクレヨンしんちゃんなのであって、見るほうの構えも“中の人などいないモード”におのずと切り替わっている建前だからだ。そういうお約束である。

 だが、おわんくんの場合、「おわんくん」という生きたキャラクターが実際にいるふりをするには、あまりにもあんまりなデザインであって、視聴者は、いったい全体どういうモードで観ればよいのか、どのようにこの面妖なキャラクターと自分の心に折り合いをつけたものか、ともすると途方に暮れる。隣に超ベテラン名女優が立っているのだから、なおのこと途方に暮れる。無理におのれを欺いて、「あれはおわんくんなのだ」と思い込もうとしたとたん、きっとしらける。そこをあのCMは、“「おれ、なんでこんなことしてるんだろ。でも仕事だし……」と健気におわんくんを演じようとしている人”が中に入っているキャラクターこそが「おわんくん」なのだ――と、あの“くぐもり声”ひとつで観る者に納得させ、観る者を“仮想のCM製作現場”というメタレベルにたちまち連れ去るのである。おわんくんの声の人が実際におわんくんに入っているはずがないのだから、理屈を考えるとおかしいのだが、その仮想こそが“おわんくんが属している世界”なのである……と、このように言語化してCMを観ているもの好きな人はほとんどいないだろうけれども、上記のようなことを、視聴者はいちいち言語化せずとも、一瞬にして悟るのだ。

 テレビのこちら側の世界とあちら側の世界を隔てる皮膜の“上”に立って綱渡りをしているキャラクター――それがおわんくんなのである。

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