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2006年4月11日 (火)

『ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる』(梅田望夫/ちくま新書)

 痛快なアジテーション本。この本が理解できて面白い人はじつはこの本を読む必要がない人であり、最もこの本を読むべきである人は、たぶん書いてある文字は追えても、じつのところなんのことやらさっぱりピンと来ないにちがいないという類の本である。著者もそのことはよくわかっているのだ。要するに本書は、Google なしでは日常生活に支障を来たし、ロングテールやらWeb2.0やらといった言葉をアマゾンなどを利用することで“体感”していて、ろくでもないアホ話ばかりが書かれている小市民のブログをいままさにこうして読んでいるような人々が、「ああ、そうそう。よくぞこういうふうにまとめてくれた。グッジョブ」と愉快になるための本だろう。

 “ネットの「こちら側」と「あちら側」”という捉えかたは言い得て妙で、これがしっくりわかるかわからないかで、ほとんど人種が分かれると言ってもいいのではなかろうか。これがわからない人に、その意味するところを伝えるのは、自転車に乗ったことのない人に自転車に乗った“感じ”を伝えようとするのにも似て、たいへんな労力を要する。おれにも経験的にわかる。そして、その労力はたいてい報われないのである。

 空しいといえば空しい営為なのだが、おれとほぼ同世代の著者は、それでも、いまインターネットをめぐって起こっている、起こりつつある現象を、ネットの「こちら側」にしか軸足のない人々に、根気強く説明しようとしている。これには正直頭が下がる。おれなんかは根気がないから、ビジネスの場でも、「わからんやつにはわからん」と腹の底では割り切りながら、適当に「こちら側」族の相手をして、絶望的にシラケているときがある。これからは便利だ。「まあ、あの本に書いてあるようなことが起こっているわけでして……」と手間を省くことができる。相手が本書を読んで理解してくれるかどうかはまったく別として、少なくともその場は手間を省けるではないか。

 本書でひとつ気になるのは、“ネットの「こちら側」と「あちら側」”の感覚を、過度に世代に結び付けている点だ。おれが思うに、これはあんまり世代とは関係ないような気がする。若い世代でも、インターネットを駆使しているくせに、全然没入(「ジャック・イン」ってのは古いか?)してないというか、「あちら側」に世界があるという感覚とは無縁の使いかたをしている人々がけっこういる。一方で、年配でインターネットにさほど親しんでいなくても、なにか「こちら側」とは異なるレベルの世界を“どこかに”持っている精神の構えの人は、少なからずいる。

 考えてみれば、ものの役に立つわけでもない“フィクション”の世界に没入することを習慣にしている人たちは、ネットが普及する以前から、「こちら側ではないどこか」の世界に実体をひしひしと感じているわけであって、ネットの「あちら側」にビジネスの軸足を置こうとする企業の出現など、なんの違和感もなく受け容れられるのである。インナースペースとサイバースペースは地続きなのだ。インナースペースが宗教や習俗という装置によって経済活動とリンクすることは、文化人類学・経済人類学的に珍しい現象ではない。サイバースペースがそうなりはじめたからといって、とくになんの不思議もおれは感じない。本書で革命的企業と位置づけられているGoogleは、インナースペースに於ける神話体系のような共同幻想装置のサイバースペース版だと捉えればしっくり来る。その装置の歯車を経済装置のそれと噛み合わせる「アドセンス」は、言ってみれば、神託のようなおみくじのようなものを提供して、お布施や賽銭を集めているようなものだ。

 ……てな、よしなしごとをいろいろと考えてみるための肴として、本書は、ここに書いてあることを知識としてはすでに知っている人たちにも、かなり楽しめると思う。

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書名:ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる 著者:梅田 望夫出版社:ちくま [続きを読む]

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