われらを狙う黒い影
歯医者で椅子に仰向けになったところに、あのちっちゃい無影灯が顔に迫ってくると、「仮面ライダー本郷猛は改造人間である。彼を改造したショッカーは……」と、頭の中で中江真司のナレーションが流れはじめるという条件反射は、もうこの歳になったらなんとかならんのかとは思うものの、そんな自分がちょっと可愛かったりするおれなのだった。
それはともかく、昨夜も歯医者でおれの頭の中に中江真司の声が流れはじめたとき、いつもとちょっとちがうことを考えた。「そういえば、ショッカーは、なぜ本郷猛を脳から改造しなかったのだろう?」
考えてみれば、おかしいではないか。ショッカーといえども、やっぱり脳の改造がいちばん難しいだろう。改造している最中に被改造体が死んでしまったり、死ななかったとしても、少しの失敗で使いものにならなくなったりすることも少なくないだろう。だとすると、手間ひまかけて首から下を改造してからリスクの大きい脳に取りかかるよりも、脳を先に改造してしまったほうが、労力が無駄になる可能性が低いというものだ。そのほうが、首から下を改造するにも被改造体が従順でやりやすいのではなかろうか?
被改造体が一人しかいないというのであれば、いちばん難しいところを最後まで取っておく(?)という心理もわからないではないが、次から次へとさらって来ては怪人にしているのだから代わりはいくらでもいるわけで、だったら最もクリティカルなところから着手して早期に成否をはっきりさせたほうが、長期的には断然工数が減るにちがいない。いちばん厄介な一割がじつは確たる理由もなく最後まで後回しにされているのが把握できず、「もう進捗は九割だ」などと呑気に構えている、量と質の区別がつかないタコなプロジェクトマネジャーがショッカーにはたくさんいるのかもしれん。その最後の一割をやるのに工期が“前半の九割”と同じくらいかかってしまい、結局、納期は遅れ、プロジェクトは赤字になるのだ。だから、ショッカーはいつまで経っても仮面ライダーに勝てないし、株価も上がらないし、給料は低いし、ボーナスは少ないし、戦闘員の生活は大変なのだ。ぶつぶつぶつぶつぶつぶつ……。
はっ。
いやそのつまり、ショッカーの考えていることは、凡人にはよくわからないということなのである。
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コメント
おぼろげな記憶ですが、ショッカーにさらわれて脳改造を担当していた緑川博士とかいう人が、猛の大学の恩師か何かで、猛の脳に手を着けずに脳改造は済んだとウソをついた(で、猛とともにショッカーから逃げようとしたが失敗して殺されてしまった)ような覚えが。
もちろん、それならそれで
「担当者一人のウソ報告で脳改造したのかしないのか、ごませるのかい、ショッカー! っていうか、どうせ助けるなら、猛の身体が改造される前に何とかできんかったのかい、緑川博士! もしかして、自分が逃げ出すために、猛の身体が改造されるの待ってたんと違うか!(きっとそうだ)」
という突っ込みが入りまくるわけなのですが(笑)
投稿: クレイン | 2006年3月 7日 (火) 02時23分
ショッカーの改造人間は、まず身体を改造し、その身体にあわせて脳を改造するというプロセスなのではないでしょうか。身体の支配が意識の支配につながるという、近代の思想を体現しているのかも。
投稿: 林 譲治 | 2006年3月 7日 (火) 07時23分
脳の改造は簡単だよ。前頭葉をさくっと削除するだけだから。
投稿: 簡単 | 2006年3月 7日 (火) 07時40分
>ショッカーといえども、やっぱり脳の改造がいちばん難しいだろう。
失礼ながら、この時点ですでに安易な先入観に毒させれておられるのではないでしょうか。
例えば
・脳の改造はスイス製の精密機器で行われ、成功率がほぼ100%なのですが、これが実はレンタル品で、しかも稼動時間での支払契約になっていて、一度動かしただけでべらぼうなコストがかかる。
とか
・運動機能をつかさどる器官の改造は、事前に改造に対する順応性を試算することが困難で、8割がた改造前より改造後のほうが能力が低くなる。
とか。やはり、費用、工数、失敗確率から導いたトータルコストで施工順序を決めるべきではないかと愚考いたします。
投稿: いかなご太郎 | 2006年3月 8日 (水) 22時06分
うーむ、なかなか説得力のある意見がいろいろ出ましたね。やはり、みな仮面ライダーには燃えるのか。
中枢と末梢の問題を仮面ライダーで考えさせられるとは思わなかった(^_^;)。
投稿: 冬樹蛉 | 2006年3月12日 (日) 19時45分