下駄箱と合理性
最近、また歯医者に通っている。とくに痛む歯はないのだが、定期チェックをしたところ、むかしヤブ歯医者が治療したところが悪くなってきているのがわかったので、この際、修理すべきところは修理しようと通っているわけである。
まあ、歯医者はこの際あまり重要ではない。歯医者などに置いてある“下駄箱”が問題なのである。扉のある下駄箱で手元に番号を書いた鍵が残るのなら、なんの問題もない。扉もなく、ただただ仕切りがあるだけの下駄箱がおれを悩ませる。
下駄箱に靴を入れようとするとき、あとで場所がわからなくなっては困るので、「左上の隅から5、下に3」といった具合に憶えますわな。隅っこのほうが空いているときは、まだ簡単だ。「右に2、下に2」とか「右に3、下に4」とかさ。
だが、「2の3」だったか「3の2」だったか思い出せないこともあるにちがいない。それでは困る。そこで合理的な方法を人はすぐ思いつくにちがいない。「Cの3」「Eの5」といった具合に憶えればよい。しかし、人は問うであろう。「ちょっと待て。縦と横のどちらがアルファベットでどちらか数字かを忘れてしまうのではないか?」
縦をアルファベットにすべきである。なぜなら、たいていの下駄箱は横に長いものであって、高さのほうが幅より長い下駄箱にはあまりお目にかからないからだ。「AA」「AB」「AC」などという手は美しくないので使わないのだとすれば、短いほうの軸に限りある資源を割り当てるべきである。縦に二十六段以上ある下駄箱が絶対ないとは言えないが、まあ、ふつう、ない。もしあったとしたら、下駄箱のそばには長い棒が立てかけてあるはずだ。セルゲイ・ブブカがたまたま通っている歯医者にちがいない。
このように考えておけば、歯を治療しているあいだになぜか多少アホになって、縦と横のどちらがアルファベットだったかを忘れたとしても、「縦にアルファベットを割り当てるのが合理的である」といつでも導き出せるはずだ。
この方法にも欠点はある。下駄箱の“セル”が三次元に並んでいた場合、三つめの軸になにを割り当てたものか、少し悩んでしまうからだ。なあに、心配は要らない。「いろはにほへと……」を割り当てればよいのだ。「Bけ8」とか「Qぬ16」とかにしておけばへっちゃらである。
とはいえ、この方法にも欠点がないではない。下駄箱のセルが四次元に並んでいた場合、四つめの軸になにを……(以下、略)。
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コメント
「先手、Bけ8、パンプス」
「後手、Qぬ16、下駄、成らず」
投稿: つるぞお | 2006年2月 1日 (水) 05時01分
>つるぞおさん
三次元ですから、ミスター・スポックが強そうですね。
投稿: 冬樹蛉 | 2006年2月 2日 (木) 00時11分