うまい汁を吸う
トマトを食うときの話なのである。いや、さっき食ったんだけどね。切って小鉢に入れたトマトに、むかしは塩をかけて食っていたんだが、近年、おれはオリーブオイルをかなり多めにかけて食う。ちょっと贅沢だが、相当多めにかける。なぜなのか?
じつは、トマトそのものはそれほど重要じゃないのだ。それはトマトにすぎない。あえて言えば、トマトを食うのは“前戯”にすぎない。食ったあとに、世にもうまい、本番が待っているのであった。そう、小鉢の底に溜まった“トマトの汁とオリーブオイルが混じりあった液体”――これがもう、おれは大好きなのだ。うまい。めちゃめちゃにうまい。おれは最後にあの汁をすすらんがためにこそ、トマトの本体をとっとと片づけるのだ。なんで、こんなもんが、こんなにもうまいのかねー。オリーブオイルだけでも、トマト汁だけでも、ぱっとしないのにね。
なんでもリコピンは油によく溶けるので、オリーブオイルを使ったトマト料理は理にかなっているのだそうだ。ギリシャ人とかイタリア人とかの食いかたには、それなりの知恵だか怪我の功名だかが備わっているらしい。だとすると、おれの食いかたは、じつに身体によいのではなかろうか。おれの野生の本能が、あの汁をうまいと感じさせるのだ。たぶん。できれば、あの汁だけをぐびぐび飲めればいいのだがなあ。トマトジュースをオリーブオイルで割ったとて、あの味が出るとは思えないのだ。少量だから、なおさらありがたみがあってうまく感じるのかもしれない。カマボコのいちばんうまい部分は、板に貼りついて残っているのを包丁でこそげ落とした部分であるというのと同じなのだろう。
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