ラストオーダー
あなたが仕事に恋に趣味に、ばりばり人生を謳歌していると、ある日、駅のトイレで、あなたの目の前に高級レストランのウェイターが突然現われる。
「ラストオーダーでございます」
そう告げたウェイターは、あなたがとまどっているうち、笑顔で軽く黙礼して溶けるように消えてゆく。あなたはそのまま電車に乗るのだが、もうあなたが生きて家に帰ることはないのだ。
……なんてことをときどき想像してみたりする。そう遠くないいつの日か、ラストオーダーのウェイターは必ずやってくる。そのとき、「ありがとう。おいしかったよ」と穏やかに言えるおれでありたいと願うのである。
もうひとつ、厭なバージョンもある。
あなたが仕事に恋に趣味に、ばりばり人生を謳歌していると、ある日、あなたのケータイが、いつもの着メロとちがう「プルルルル」という無粋な音を立てる。
怪訝に思ってあなたが電話に出ると、向こうがわの声は事務的に言う――「あと10分です」
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